金宮のダンジョン制覇
【3月20日】の朝、僕たちは馬車に揺られている。
金宮のダンジョンに向けて進んで行く。
一年前とは違うと自分に言い聞かせながらも、Bランクダンジョンのボス戦の不安は拭えない。
隣りに座るミカが僕の不安を感じ取ったのか、僕の手を握ってくれる。
Bランクダンジョンは全長が長い。念のためボス部屋で休む場合を考慮して食料はしっかりと持ち込んだ。
金宮のダンジョンに入る。
ゴーレムは歩くのが遅いため、道中の消耗を考慮してゴーレムとの戦闘はしない事にした。
それでもBランクダンジョンは入り口からボス部屋までは20キロル以上ある。
早朝にダンジョンに入ったがボス部屋の扉に着く頃には昼になっていた。
水筒で喉を潤し、装備を確認する。
作戦の最終確認をした。
まずはボスの確認。確認後、僕の蒼炎をぶちかます。避けられたら四方から取り囲み攻撃を加えていく。討伐が無理そうなら撤退を視野に入れる。
準備万端。
そして金宮のダンジョンのボス部屋の扉を開けた。
入ってすぐにボスが確認できた。
通常のゴーレムより小さい。
色はグレー。
距離は40メトルほど。
僕の視線はボスゴーレムに釘付けだ。
すぐに蒼炎の魔法の詠唱を始める。
【焔の真理、】
ゴーレムが動き出した。
【全てを燃やし尽くす業火、】
ゴーレムの動きが速い!これは当たらない!
【蒼炎!】
くそ!それでも蒼炎を放つ。
既に狙った場所より5メトル以上ボスゴーレムは移動している。
少しでも良いから蒼炎が牽制になれ!っと心で思った。
蒼炎の軌道はボスゴーレムの横を通過するものだった。
それが急激に曲がる。
まるで意志があるように。
急激に曲がった蒼炎はボスゴーレムの胸のど真ん中に命中した。
半径5メトルほどに広がる蒼炎。
蒼炎から伝わる感情は【どんなもんだい!】って誇らしげであった。
魔法を撃った後に曲がる。
前代未聞の魔法だ。
ボスゴーレムは魔石と宝箱に変わる。
僕たち4人は曲がった蒼炎の魔法に呆然と立ち尽くした。
ヴィア主任が声を上げる。
「今の蒼炎の動きも君の願いでそうなったのか?」
「いや、僕は曲がってなんて、思っていなかったです。蒼炎自ら曲がりました」
「蒼炎、自ら…。そんな事があるのか?今更か、蒼炎にはウルフ・リンカイの魂の欠片が入っているみたいだからな。それにしてもこんな魔法をどうやったら作れるんだ。古代の魔法技術は凄いな」
そう言ってヴィア主任は宝箱に歩き出す。
僕に振り返ると言葉を発する。
「アキくん、何をしている。早く太鼓の用意をしてくれ」
僕とサイドさんの太鼓の音でヴィア主任とミカが舞い、儀式終了後に宝箱を開ける。
宝箱の中には漆黒の直径20セチルほどの玉とダンジョン制覇メダルが入っていた。
「やっぱりこの玉なのね、装備じゃないんだ」
ミカが残念そうに言う。
ヴィア主任が漆黒の玉を持つ。
「たぶん、この玉が何かしら関係するんだろうな。材質が何かわからないな」
「まずはあと一つのBランクダンジョンを制覇してからですね。Aランク冒険者になれば何か分かると思いますし」
僕はそう言って漆黒の玉とダンジョン制覇メダルをマジックバックに入れる。
お腹が空いていたので、お昼ご飯にする。
黒の煉瓦が光るダンジョンで食べるご飯はイマイチの味だ。
「どれ、お腹も満たされたし体力に問題はない。今日中に帰宅できそうだな。皆んな特に問題はないか?」
ヴィア主任の確認に頷く3人。
装備を再確認して、ダンジョンを帰り始めた。
金宮のダンジョンを抜けると夕方になっていた。
この時間帯になると寒くなる。
馬車でコンゴに向かう。
Bランクダンジョンのボス戦は呆気なく終わった。
結局、僕が強くなったかはわからなかった。
今回は蒼炎に助けられたからだ。
一度、火宮のダンジョンに行ってボスイフリートと再戦しなければと心に思った。
金宮のダンジョン制覇に冒険者ギルドはお祭り騒ぎだ。
おまけに今回のギルドポイントでサイドさんがBランク冒険者になった。
金宮のダンジョン制覇とサイドさんのBランク冒険者昇格を祝う飲み会は明け方まで続いたそうだ。
僕とミカは適当に切り上げてきたのでわからないけど。
【3月21日】
今日は1日休みにした。
明日、王都に帰る予定だ。
ミカと2人でコンゴの街をぶらつく。
コンゴの特産品を売っているお店でお土産を購入する。
小物を売っている店を覗いて楽しんでいた。
街中で噂を耳にした。
カンダス帝国が北の国境線に兵力を集めているそうだ。
また戦争が始まるのかな。
ミカがその噂を聞いて、顔を強張らせていた。
僕はミカの手を強く握って笑顔を見せる。
ミカは無理して笑ってくれた。
【3月22日】
今日でコンゴ遠征は終了。馬車で王都に帰る予定だ。
朝にギルド長に挨拶をし、アイリさんと別れの挨拶して馬車に乗り込んだ。
コンゴの街はなんか落ち着かない雰囲気になっている。
カンダス帝国とまた戦争になる恐れがあるからだろうか?
戦争なんて無くなれば良いのにと思いながらコンゴを後にした。
宿場町では毎日のようにヴィア主任とサイドさんが豪快にお酒を飲んでいる。
完全に冒険者の雰囲気だ。
既に王都魔法研究所勤務のエリートには見えない。
まぁ冒険者なんだけど。
あれだけ飲んでも朝の鍛錬はしっかりやる2人。
線の細い印象があったサイドさんに現在そのような印象は全く感じられない。
サイドさんはモテそうだなぁっと思った。
王都には3月28日に着いた。
ヴィア主任のもとには王家と各公爵家に送った手紙の返信が来ていた。
古い【白狼伝説】は王家には残っていないそうだ。
100年程前に落雷からの火事があり、蔵書が失われていた。
ウォータール公爵家、カッター公爵家、アイアール公爵家にも残っていなかった。
ただファイアール公爵家に古い【白狼伝説】が残っている事がわかった。
閲覧したい場合にはボムズまでご足労お願いしたいと返事があった。
どこかで時間を作って見に行く事にした。
帰宅後、家にトウイとシズカが遊びに来た。
3月中は、冒険者ギルドから紹介された冒険者と王都周辺のダンジョン活動をしていたそうだ。
紹介された冒険者は20代前半の夫婦コンビとのこと。
トウイと男性が前衛で、女性が弓矢を使用している。
通常はこの3人でモンスターにダメージを重ねていく。
ここぞという時にシズカのファイアーランスを撃ち込んでいる。
継戦能力を上げるために取っている戦術だ。
屠殺場ダンジョンでオークを倒す事はできるが、どうしてもシズカがMP切れになり、それ程の数を倒せない。
現在は魔法を使わないでオークを倒すようにしているが生傷が絶えないようである。
トウイはEランクダンジョンを安定して戦えるようになるのは、まだまだかかりそうだと笑っていた。
そのトウイの笑顔はとても満足気であった。
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