ミカ・エンジバーグの事情3
ミカ・エンジバーグの視点です
主人の部屋をノックする。声がするので無言で入る。
椅子に座るように言われて待っているとお茶の香りがしてきた。奴隷にお茶を入れる主人がいるというのか?久しぶりのお茶はとても美味しく感じた。
主人は私の正面に座るとおもむろに口を開いた。
「まずは自己紹介をしっかりしようか。僕の名前はアキ・ファイアール。冒険者をやってる」
ファイアール!?リンカイ王国の南の封印守護者のファイアール公爵家!?
「ミカが思ったとおり僕の実家はリンカイ王国のファイアール公爵家だよ」
頭が追いつかない。何故ファイアール公爵家の子供が冒険者をやってるんだ。あまりのことに私の重い口が開く。
「……。なんでファイアール公爵家の人間が冒険者なんかをしてるの?」
そしてなんで私はこんなところで奴隷をやっているんだろう?
主人はにこやかな笑顔で質問に答える。
「まぁ見てのとおり僕の髪色を見ればファイアール公爵家の僕の立ち位置はだいたい想像つくでしょ」
主人の髪色は水色。確かにこれでは火を司るファイアール公爵家では出来損ないだ。
「水色の髪色だからファイアール公爵家ではいないものとして扱われてきたよ。でもそれは過ぎたことだから気にしていない。今は夢である冒険者になったことだしね」
「冒険者が夢?」
「そうだよ。自由に世界を飛び回りダンジョン探索や遺跡探索なんかしたいね。綺麗な景色や美味しい料理も食べてみたい。ミカも僕と一緒に冒険者を楽しまないかい?」
ファイアール公爵家では必要無い存在として扱われてきた。私と一緒だ。その中で冒険者になる夢を持つのは尊敬できる。しかし何故奴隷なんだ!イライラが募って激情をぶつける。
「ならなんで普通にパーティメンバーを揃えないの!奴隷を買う理由が全くわからない!奴隷なんて貴族のおもちゃか戦闘時の捨て石じゃないの!」
主人は私の激情を流すような柔らかな笑みを浮かべて言った。
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