風の一翼 ラファエル・ピース
「……緊急事態だな」
賢者の石を経由して伝達する。緊急事態発生、直ちに戦闘態勢に入れと。身体の痺れはすぐさま無効化した、アルカかカタハだろう。
にしてもどういうことだ? 来ちゃったとは言われたが、推測される状況は3つか。
まず1つ目、吹き嵐の予測がガバガバだっただけ。これなら本当に問題はない、ただ粛々と予定通りに事を進めるだけで良い。
そして2つ目、城の成長が予想外だった。この可能性が高いと思っているが、早く大きくなってしまったということだろう。規模が大きくなっただけなら火力の想定を引き上げるだけでいい。
最後に3つ目、これが1番困るんだが、全く別の何かに変質している可能性がある。これは内部に仕込まれている別世界の素材の影響がメインだろう。こっちは本当に何がどうなるか想像もつかない。
「吹き嵐。なんでもう来たか分かるか?」
「うーん、それがね。少し前までは予測通りの位置にいたはずなのにいきなり高速移動を始めちゃってね」
「原因に心当たりは」
「言えるとすれば、僕の理解を超えた現象ってことだけだね」
「あー……分かった」
3つ目かぁ……そうなるかぁ
「姉さん、今の備えは無意味になった。各自全力で迎撃するしかない」
「分かった、続きは今度ね」
「え? ああ、うん」
バチリという音を残して姉さんは移動した。姉さんの移動速度なら数十秒で全員に連絡は行き届くだろう。
『告げる』
「っ!?」
全身が震えるような、震動そのものを叩きつけられるような声。
これが、俺の敵か。
片翼を持つ人型、嵐の巨人。
『我はラファエルが一翼。怨敵たる賢者の石により主よりもがれた者なり』
賢者の石にやられたと言ってくるあたり、襲撃の動機は復讐か。となるともう話し合いとか和解とかはないな。あっちはもう皆殺しモードだろう。
こういうのは、先手を取られると面倒くさいんだけどな。できるだけ、認識される前に倒したかったんだが、そうもいかないな。
『賢者の石なき今、末裔たる貴様等には清算の義務がある。鏖殺である、肉片1つ残らぬと知れ。だが、我にも一抹の慈悲はある。今すぐに降伏すれば痛み無く殺してやろうではないか』
ああ、お前は強いんだろう。
負けることなんて想定もしていない。
賢者の石でもない人類に負けるはずがないという驕りに満ちている。
だからだよ、だからお前は負けるんだよ。
想定外とはいえ、予定外とはいえ、迎撃態勢は既に整っているんだ。
お前は知らないんだろうな、ビクトリウスと盾王がここにいるなんて。
ただ、賢者の石の末裔という記号を持った人類を殺しに来ただけなんだから。
まぁ、最初の一撃はきっと。
拳だろう。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
鬼の咆哮が響いた。肉体は変異し、弾丸のように撃ち出されたのが見えた。
いやマジで速いな、あんなのこの距離じゃないと見えないぞ?
ほとんど瞬間移動染みている。
俺、あれに殴られたの?
『愚かな、自殺をしたいのならばその場で心の臓を突けば良いものを』
風の壁か、分厚いそれは触れるものをみんな砕くんだろうな。
それがファスカでなければ。
「しゃらくせぇええええええええええええええええええええ!!!!」
『抜けただと? だが無意味だ、我が身体は風ゆえに』
拳では風を壊せない。そりゃあそうだろう、当然だ。
だがどうだろう、ファスカの拳は鬼の拳。それは尋常の物理なんて越え
「ふざけんな!! 当たらねえじゃねえかぁああああああああああああああ!!!」
越えなかったな。
普通に空振りしてる。
「うん、まあ、そういうこともあるな」
仕方ない仕方ない、もともとファスカの役割は攻撃でなく高機動による補助メインだったし。
「物理が無理となると……ん?」
あれ、母さんじゃね? ファスカの逆側から飛んでる、母さんの攻撃方法も物理だからちょっと厳しいんじゃ。
いや、母さんならあるいは?
「不定形なものは刃ではなく、心で斬るのです。あの子には後で教えてあげましょう」
え、何あれ。刃になんか纏っているような。
「流れしものことごとく、とどまらぬものことごとく、断つは我が心」
うわぁあああああああああ!!? ど真ん中から真っ二つだぁ!?
え、終わり? これで終わったら俺は偉そうに指示を出して見てただけの奴になるぞ?
いや、終わってくれたらそれはそれで良いんだけど
『凄まじき武技よ。惜しいな女、貴様が我らの世界で造られし刃を持っていれば殺せたろうに』
「……なるほど、次は気をつけましょう」
『貴様は最後に殺してやる、しばし離れよ』
「く……」
攻撃後に風で遠くに吹飛ばされたか、母さんの離脱は痛いな。
となれば、あとは
「シンちゃんとの時間を邪魔したのは、許さないから」
まだブチ切れてる姉さんが居る。




