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嵐が来る前 デーレ①

「思ったより早く準備が終わってしまったか……」


 指示を出したのは俺だが、一を言うと十で動いてくれる優秀な人ばかりですぐに要塞が形勢されてしまったようだ。正直な話をすると、これ以上固めても咄嗟の動きができなくなって柔軟性が落ちるだろう。


 で、吹き嵐が言うには丸々1日の時間があるらしい。特に俺から指示することもないので自由時間ですという宣言を今したばかりだ。


 今からある戦いの相手が世界破壊規模であることを考えると1日の自由時間では短すぎるかも知れないが。


「シンちゃん、ちょっと良い?」

「どうかした? デーレ姉さん」

「シンちゃんとお話したいのだけど。2人で」


 2人で、それはつまり俺が連れて入れる仲間には聞かせられないような話をするということだ。話して分かってもらえるとは思うが。


 ……大丈夫だよな、多分。一応交換条件を用意しておいたほうがいいな。 


 まあ、適当にお願いを聞いてやれば良いか?


 カタハとかは他の作業に回ってもらっていたから、賢者の石を通して全員に伝えよう。


「……というわけだから、姉さんと話している間離れてもらえるか」


 あー、嫌そうな雰囲気がひしひしと伝わってくるな。言葉にして抗議をしてこないだけまだ大丈夫なラインにあるらしい。


「ヤタもお願いしても良いか」

「……カァ」


 よし、不承不承な感じではあるが行ってくれたか。多分だが後で文句を言われそうだ。


「これで2人だよデーレ姉さん」

「ありがとうねシンちゃん、じゃあお姉ちゃんのお部屋に来てもらえる?」

「分かったよ」


 姉さんの部屋に行くのは久しぶりだな、よっぽど他に聞かせられない話のようだ。


「……」


 んー、部屋の中に入ってから結構経ってしまったぞ。この沈黙をどうとるべきか、俺から何の用か聞いて良いものか。それとも、切り出してくれるまで待った方が良いか。


 この場合は……待った方が良いよな?


「ごめんねシンちゃん……心の準備に時間がかかっちゃって」

「良いよ姉さん、姉さんが良いときに話を始めて」


 ここで急かすのは良くない、なんだか思い詰めているような感じだ。何か悩みでもあったのか。


「シンちゃん……お姉ちゃんはシンちゃんに謝らないといけないの」

「姉さんに謝られないといけないこと? そんなこと1つもないよ」

「ち、違うの、シンちゃん、お姉ちゃんが悪いの、お姉ちゃんが勝手にそう思っていただけなの」

「落ち着いて姉さん」


 手で顔を覆って跪いてしまった、姉さんがそんな風に罪悪感を抱くなんて。一体今まで何をそんなに抱えていたんだ。


「どうしたの、ちゃんと話してくれれば力になれるかもしれないかから」

「違うのぉ……お姉ちゃんは本当はシンちゃんに優しくしてもらう資格なんてないの……」

「資格? そんなの姉さんが俺の姉さんであるだけで十分だよ」

「シンちゃん……うえ~ん!」


 本格的に泣き出してしまったか、こうなると30分は戻ってこない。


 抱きしめて背中を撫でる、今はそれしかやることがない。


「ひっく、ひっく、ごめんねえ、こんなお姉ちゃんでごめんねえ」

「姉さんは俺の誇りだよ、そんなことを言わないで」

「シンちゃん……これからお姉ちゃんはひどい事を言います。嫌いになっても良いから、最後まで聞いてちょうだい」

「聞くよ。でもこれだけは先に言っておくね。俺は姉さんのことを嫌いになったりしないよ」

「ありがとう、優しいねシンちゃんは」


 涙をぬぐって姉さんが俺の目を見る。


 綺麗な瞳だと思う、見慣れていなければ見とれてしまうほどに。


「お姉ちゃんは、シンちゃんのことをかわいそうだと思っていたの。ビクトリウスの家に産まれた男の子なのにちっとも強くないから。きっとお姉ちゃん達が力を全部持ってきてしまったんだって。だからこんなに弱くて一生懸命なんだって、だから守んなくちゃいけないんだって」

「うん」

「シンちゃんのこと勝手に哀れんで、勝手に侮って、勝手に守っていたの。シンちゃんはもう何をして強くなれないと決めつけて、囲ってしまおうと思っていたの。シンちゃんのことを諦めて、シンちゃんのことを見限って、シンちゃんはもうどうしようもないと思って」

「うん」

「でも、シンちゃんは強くなった。お姉ちゃん達よりも。それはきっととってもとっても大変なことだったと思う。お姉ちゃんが想像なんて出来ないくらい。お姉ちゃんはとっくに諦めていたのに、シンちゃんは諦めていなかった。お姉ちゃんの憐れみも諦めもそれはただの思い込みだった。ただ、シンちゃんを蔑ろにしていただけだった」

「うん」

「でも、でもね、これだけは信じて欲しいの。お姉ちゃんがシンちゃんのことを大好きだっていうのは本当なの。他の全部は否定してくれていい、でもこの想いだけは信じて、お願い。お姉ちゃんはシンちゃんを愛してる。かけがえのない大事な人で、たとえ世界が敵に回ってしまってもシンちゃんの味方。どれだけシンちゃんがお姉ちゃんを嫌っても、それは永遠に変わらないわ。大好きよシンちゃん」


 デーレ姉さんが立ち上がる。


 俺に背を向けて。


「ごめんね、怖くてシンちゃんの顔を見られないの。話はこれで終わり、ありがとう聞いてくれて。二度と姉さんと呼んでくれなくても、お姉ちゃんは受け入れるから」


 下手な言葉をかける必要はないか。


「デーレ姉さん、ありがとう。今まで守ってくれて」



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