最強とは
「良いか、よく聞けよ。賢者の石は武力では確かにずば抜けていた。それは間違いない。知力に関しても申し分なかっただろう。それでもこの問題は解決しきれなかった。遺恨を残して、お前らに押し付けるしかなかった」
「最強ってのは武でも知でもないと? じゃあなんだ、愛だとでも言うのか」
「愛ねえ? 結構ロマンチストなんだな」
よく見えないが、絶対にやけてるぞこいつ……
「まぁ、愛ってのも悪くない答えだ。つまりは皆お友達になれば争いがないっていう理想だからな。その選択肢があれば迷わずそうしたんだが、生憎と開戦の火蓋は既に落ちてる」
「……」
ますます分からない。一体何が最強なんだ。
「最強ってのはな、権力だよ。誰もが平伏す絶対的権威が必要だったんだ。報復なんて考えるだけ無駄、戦うことすらおこがましい、そういう存在だ」
「そんなの……」
賢者の石の連中ならそれくらいできたんじゃないか、出鱈目な集団だったんだろう? 権力なんていくらでも。
「賢者の石ならできただろうって? そうさなあ、最初の奴を追いかえす前に乗り込んでトップを潰せばできたかもなあ。だが、できなかった。なんでかわかるか?」
追い返す前ならできた? それはつまり。
「……相手の世界に行けなかったからか」
「そうだ。細かく言えば原因は2つだ。賢者の石が強すぎた事、そして話し合いを放棄した事だ。一応話しかけてきた相手に拳の返答を返してしまったからな、交渉は永遠に決裂したんだ。結論を言おう、賢者の石メンバーが世界を渡ろうとすると弾かれる」
「待て、それじゃあ賢者の石が作った製品の材料はどうしたんだ? あっちの世界の素材を使っているんだろ」
「パックめ……そんな事話したのか。仕方ねえな、抜け道はあったんだよ。少しばかり暴れて戻ってくるくらいの時間だがな」
「……抜け道」
「抜け道の話はお前には関係ないぞ。お前は正真正銘この世界の人間だからな。賢者の石メンバーは魂の型が特殊だったから条件付けされて弾かれた。お前なら問題なく行き来できる」
この話はこれで終わりと言うように手を叩かれた、これ以上突っ込んでヘソを曲げられても困るか。
「で、その権力なんだが。お前には3つの世界を統べる王になってもらう」
「ん?」
今すごい事言われたような。
「聞こえなかったか? お前には3つの世界を統べる統一王になってもらう」
「んん?」
「聞こえねえふりすんな!!」
「いやだって、あまりにも現実味がない」
「現実味が欲しいか、なら言い換えよう。お前は賢者の石の遺産を使って最高の権力者である王になるんだ」
「……」
「まだピンと来ねえか。もっと噛み砕くぞ。まずこの世界の王を全員服従させてこの世界の王になる。次に他の世界に秘密裏に乗り込んで頭をすげ替える。その後は不可侵条約なり何なり結んで終わりってわけだ」
「正気か?」
「正気だよ。それができるように準備をしたんだ。武も知も道具も全部用意してある。あとはお前が始めるだけだ」
「……本当にそんなことができるのか」
「できるとも。お前が今まで賢者の石が遺したものを見てきただろう。空を飛ぶ道具から災害と化した化け物まで、全部がお前の手中に収まる。お前はそれを使う資格がある。全てだ、嘘じゃないぞ。賢者の石の全部をお前が使うんだ」
「胡散臭いな」
「あんだと!? 確かに詐欺じみた勧誘だが、お前にはこれに乗る以外の選択肢があると思ってんのか。この道を選ばないならみんな揃って人柱だぞ」
「分かってるさ。これがいわゆる悪魔の囁きで、一度選んだら戻れない選択だと」
「そこまで分かってるならうだうだすんな。どうすんだよ、やるのか、やらないのか」
そんなの決まってる。
「やるに決まってる」
「よく言った。それじゃあ最強を始めようか」
【最強】
誰もが知っていながら、誰にも贈られぬ称号。
ならばきっとそれは、幻想なのだろう。
幻想の先に、それがあるのだろう。




