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始まりに賢者ありき

 母さんの語りが始まった、こんな風に親の話を聞くのは小さい頃ぶりでなんだかむずむずするな。


「或る日、始祖たる賢者がハザマより惑い来た。その者、尋常なる出立ちにありながら、理より外れた力を有す。かの者曰くそれは神の恩寵、死した己を哀れに思いし神が授けた権能」


 ん? それじゃあ始祖たる賢者ってのは一度死んでるのか? 生き返ったとでも?


「権能に並び立つ者なく、眼前に立ったもの全てを吹き飛ばし、賢者は世を見て回った。あるとき、賢者の前に現れしは最大の敵。権能に対抗する力を持つ姿はまさに鬼神のごとく」


 すごいやつもいるもんだな、神からの恩寵を受けた奴とやりあえるなんて。


 羨ましい限りだよ全く。


「三日三晩に及ぶ死闘の後、賢者は答えを得る。賢者は言った『汝、我が同胞なりや。日出ずる国より来たりし者ならん』、『驚愕の至り、同胞がよもやこのようなところに』」


 いや三日三晩殴り合う前に気づけよ。


「賢者と鬼神は手を取り、永遠の友情を誓った。そして他にも同胞が居るのか確かめるべく、広く情報を集める手段を講じた。商人として身を立てる事で、情報の中心に立ったのだ」


 お、つまりはそれが賢者の石ってわけか。


「その名はヒノモトネット田井中」

「賢者の石じゃねえの!?」

「シン、話はまだ終わっていませんよ。最後まで聞きなさい」

「う、分かったよ母さん……」


 思わず声が出た、何がヒノモトネット田井中だよ。由来が謎すぎるだろ。


「商いによって巨万の富を得た賢者は世界に深く食い込んでいった。そんなときに、また1人同胞が現れたのだ」


 3人めか、確かパックは自分の言葉を序列8位とか言ってたな?それを考えると最低でも8人は居ると思うが、このペースだと最後まで揃うのに結構かかるみたいだ。


「3人目の同胞が持っていた権能は賢者から見ても凄まじく、まさしく神の手であった。触れたものを如何なる形にも変えられたのだ」


 どんな形にもか、素材の性質を一切無視して好きに加工できるとしたらそれは確かに恐ろしい力だ。


「賢者、鬼神、神の手は更なる成功を求めた。その決意は『異世界経済王に俺たちはなるっ!!』と残しているほど」


 なんかだんだんとフランクな喋り方になってきたな、口伝とかで伝わるうちに変わったのか?


「そして、初めての賢者の石が生み出された。それは世界を一度変えるものであったという。瞬く間に世界を牛耳った賢者達は出会った。天と地、双方の使者と」


 っ!? これはまさか、他の世界からの。


「天の遣いは言った『箱庭にありて無法を働くものよ。悔い改め、全てを捧げよ。さすれば生き永らえよう』と」


 どう聞いても脅迫だね?


「地の遣いは言った。『箱庭にありて自由なりしものよ。我らと共にあれ。無秩序の美酒を飲み下そうではないか』と」


 こっちの方がまだマシか?


「賢者達は言った。『こんなステレオタイプの天使と悪魔ある? 一周回って斬新』と」


 うーん、賢者達のイメージがなんだかどんどん軽くなるな。一周回って斬新て、それもよく分からないし。


「賢者達は遣いの誘いを断った。すると、どちらの使者も賢者達を亡き者にせんと向かってきた」


 そう来るか。まあでも、当然その流れはありうるよな。


「でもワンパンでした」

「でもワンパンでしたぁ!?」

「シン、母は何度も同じことを言うのが好きではありませんよ」

「はい、黙って聞きます」

 

 一撃だったのか……?


「容易く撃退された遣いは逃げ帰り、賢者達は忘却の彼方へと遣いを追いやっていった」


 弱かったから忘れたと。


「そして時が流れ、同胞の数が10を数えた年である。天と地は大規模な軍勢を賢者達に差し向けた」


 歴史に残っていない大戦争か、面白くなってきた。


「でもワンパンでした」

「でも、ワンパン、でしたぁ!? 苦戦する流れだろ今のは!!」

「仕方ないでしょう、ワンパンだったんだから」

「そんな馬鹿な……」

「続きを話します。賢者、鬼神、神の手、魔女、老師、機関、森羅、隠者、無量、転輪の10名によって構成された賢者の石によって天と地の軍勢は無惨にも蹴散らされた」


 パックはどれなんだろうな……隠者か?


「しかし、天と地の軍勢は敗走の際にこう遺した。『数千・数万が過ぎし日、貴様達が居ないこの地を蹂躙せしめん』と」


 え? 復讐宣言ってこと?


「賢者達はそれを妄言と断ぜず、対策を始めり。賢者の石を2つに分けた。即ち、懲りずにやってくる天と地の掃討をする者、賢者の石の力でもって次なる進行をはねのける力を育む者である」


 なるほど……話は見えてきたぞ。後者の賢者の石がやってた事が関係してくるんだろうな。


「賢者の石は生み出した。後の世に遺すべき遺産を。1つは武器となる製品、1つは試練たるダンジョン、そして兵たる血筋である」


 ……最後の血筋にあたるのがビクトリウスか。


「以上です」

「ん?」

「話はこれで終わりですよ?」

「最後の血筋、っていうのがビクトリウスなんだろ」

「いえ、別にそうだとは言われてませんが」

「違うの!?」

「違うとも、そうとも言えません。母が知っているのはここまでです」

「んーと、え?」


 結局母さんは何が言いたかったんだ? さっぱり分からないぞ?


「母から言えるのは、ここまで話せばビクトリウスの男であれば分かるということだけです」


 なにも、分からないんですけど?


「いや母さん、流石に無理が」

『いいや、その話はここまでで良いんだ。俺様が起きたからな』 


 は? 誰?



【口伝・ビクトリウス】

失われた世界の歴史をつなぐ数少ないもの。しかし、口伝による摩耗は防げず、3分の2ほどしか残っていない。真なる口伝を語るものが居るとしたら、それは当事者に他ならない。

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