イニシエーション Ⅰ
「うん。特に不備はなかったわ。次からは自分でやるのよ」
「分かった」
整備なんて考えたこともなかったな。意味不明の超技術とばかり思っていたが、造り自体までが意味不明なわけではないからな。これからはこまめにやっていこう。
ちゃんと戻せるよな……?
「さて、じゃあ始めましょうか」
母さんが手を叩く。すると姉さんとラァが部屋に入ってきた。その格好は最前線に赴くような装備で、今からどこかへ戦いに行くことは間違いない。
今から? どこへ?
「物騒な感じだけど、何を始めるのか聞いても良い?」
「もう身体は大丈夫なのでしょう。母は認めましたが、まだ認めていない者が居ます」
「それはつまり……」
「シン、あなたはラァとデーレに認めさせないといけない」
「模擬戦で勝てって?」
「本気の戦闘よ、致命傷は母が止めます。だから、全力でやりなさい」
「俺の力はそんな事をするために得たものじゃない。たとえ母さんでもそれは」
「シン。これは決定事項ですよ。これができなければあなたはビクトリウスの使命を完遂できない」
「……使命」
「ええ。あなたが最強を求められた理由もそこにある。それを知る機会も、2度と訪れない」
ビクトリウスの使命、賢者の石との関係、それらを知る機会が無くなるのか。
それがどうした、そんなことを知らなくても俺は目的を達成し、この世界が侵略を受ける事を防げる。パックも居るし、無駄に争う必要なんて。
「俺は」
「ああそれと、ラァとデーレをなだめる事もしませんし、今まで止めていた最後の一線も解禁します」
「……それって」
「少しくらい血が濃くなってもビクトリウスは気にしませんよ?」
「母さん何言ってんの!?」
なんか母さんがとんでもない事を言ってきた。これじゃあまるで、ラァと姉さんが俺を襲うみたいじゃないか。
はははまさか。
「……お母様、それは本当ですか」
「お母さん、良いの?」
ちょっとまって、なんか目が怖い、なんか変なオーラ出てない?
「ええもちろん。ビクトリウスは手段を選びません。お父さんは母が黙らせます」
「……お兄様」
「シンちゃん」
え?
「ここでラァと一緒にいつまでも甘やかな日々に溺れましょう」
「お姉ちゃんがいっぱい甘やかしてあげるからね」
「……なるほど」
俺はまだ、2人にとって庇護対象なんだな。2人の中ではまだまだ俺は弱いままで、守らなくちゃいけなくて、すぐに死んでしまいそうで、箱庭で飼わなきゃならない存在なのか。
そうか、母さんが何を言いたいのかなんとなく分かってきた。これは通過儀礼なんだ、重荷を背負える事を認めさせ、俺を自由にするための。
「シン、どうするのですか」
「分かったよ母さん。俺はこれをしないと何時までも変わらないって事が」
「……覚悟は決まりましたか」
俺は1度、この2人を乗り越えないといけないみたいだ。そうすることで初めて俺は、自分の道を歩けるようになる。いつまでも姉妹から逃げ回るわけにもいかないしな。
「ああ。やるよ母さん」
「分かりました。では、開始の合図は母がします。それまでの間は普通に生活をしなさい。常在戦場の心得はあるでしょう」
「合図っていうのは」
「母が鐘を3度鳴らします。その瞬間から始めなさい」
「……分かった」
3度の鐘、それが初めて本気で姉妹と戦う合図になる。終わった後はもう二度と今のように話す事はないだろう、それまでは、今まで通りに。
「では早速」
そう。こんな風に母さんが鐘を鳴らす、まで、は、
「もう鳴らしやがった!!」




