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巨竜火山ウンゼン Ⅰ

シンが槍王の領地にたどり着く少し前、盾王の領地では異常気象が確認されていた。毎日のように灰が降り注ぎ、気温が徐々に上がり続けていた。


このようなことは今まで例がなく、何かの前触れではないかと有識者が騒ぎ出していた。盾王イージスもまた何かの流れを感じ取り自らの腹心である白盾領主アイゼン、赤盾塔主クヴェール、黒盾元帥ガイゼを居城に呼び出していた。


「して、この事態をどう見る?」


 玉座に座りし老王こそが盾王イージスその人である。老いてもなおその覇気に衰えなく、全身から力が立ち上っているかのようである。


「お戯れを陛下。すでに原因にあたりはついているのでしょう?」

「そう言うなアイゼン。私はお前たちの意見を知りたいのだ」

「……では僭越ながら。今回の異変の原因は領地の火山にあります。灰が降るのはその証拠でしょう。気温まで上がるというのは異例ですが」

「ふむ……、ではクヴェールはどうだ」

「あたしも同意見だね、火山の異常な活性化だろうさ」

「……ガイゼはどう見る?」

「私は、もう少し踏み込んだ見方をしたいと思っております」

「と言うと?」

「先日黒盾砦に地鳴りが出現し、そして討伐されました。その際に火山に向かって光の筋が飛んでいくのを見た者がおります。これは新たな災害の兆候ではないかと思います。急ぎ火山に戦力を投入するのが賢明かと」

「ほう……なるほどな」


 イージスが思案する。


「陛下!! 緊急事態です!!」


 謁見の間に飛び込んできたのは真っ青な顔をした兵士であった。本来であれば腹心と王の会話に兵士が割り込むなどあってはならない事だが、それを破るほどの何かが起こった事は兵士の顔を見れば明白だった。


「何があった。息を整え、報告せよ」

「火山が、火山が竜となり、こちらへと向かっています!!」

「火山が竜に?」

「は、はい、わが国最大の火山が形を変えて、ゆっくりとこちらへ向かって動いています」

「それは本当なのだな」

「信じられない事態ですが、事実です。既に村が5つ飲み込まれました」

「このままでは、火山の竜に国がひき潰されるというわけか」

「そうなると思われます」

「そうか、大儀であった」


 イージスはゆっくりと立ち上がり兵士の肩に手を置いた。


「安心せよ。私が知った以上はこれ以上の破壊は許さぬ。お前の故郷の仇も討つ」

「へ、陛下。どうしてそれを」

「お前の生まれ故郷は火山に近い。5つ飲み込まれた村の中にそれがあることは想像に難くない。もう一度言う。大儀であった、今は休むがよい」

「どうか……どうか……お願いいたします……」

「もちろんだ。我が名を忘れたか?」

「我らが王、盾王イージス陛下です……」

「うむ、では征くぞ。ついて参れ」


 イージスの後ろに腹心が続く。その目は既に先ほどまでにものとは変わっていた。


「私の国を侵す者は、なんであろうと許さぬ。何が火山か、何が竜か、一片残さず蹴散らしてくれよう」


 怒りを漲らせ、盾王は征く。外敵を打ちのめすために。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」


 大火山が竜となり、大地を焦がす、燃え滾る溶岩が絶えず流れ出し、咆哮は天を震わせる。あまりにも大きく、あまりにも熱く、あまりにも暴力的だった。


 火山の中心に在るのは赤き魔人。地鳴りの覚醒と共に姿を現した炎の災害、火吹きである。


「さあ、人間よ。乗り越えてみなさい。わたしと我が城である巨竜火山ウンゼンを」


 試練を与えるものとして造られた、そしてその役割を果たす時がきた。被造物が感じる無上の喜びを火吹きは感じていた。


「ふ、ふふふ、はははあ、あははははははははは!!」


 高笑いはウンゼンの中で響き渡る。呼応するかのようにウンゼンは咆哮する。


「あれが、そうなのだな」


 イージスの目は巨竜火山ウンゼンを捉えた。遠近感覚が狂うほどの大きさで、すべてを飲み込む火山が自分の国を蹂躙しようとしている様を。


「私が守るものはこの国だ。これ以上は許さん」


 イージスの手には美しい大盾。透き通った盾は儚げですらある。


「我が盾に傷なし、我が道に傷なし、すべての害あるものは我が盾を超えず、すべての守るべきものは我が後ろに在り」


 大盾は無数の破片に分かれ、そして巨竜火山ウンゼンへと向かう。


万壁招来アイギス


 盾の一片がそれぞれ城壁のごとき盾に変化する。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」


 融けもせず、崩れもせず、潰れない、巨竜火山ウンゼンの力であってもこの盾は超えられない。この盾に傷はつけられない。


 災害の歩みは、一人の王によって止められた。


「……なかなかやりおる」


 盾王イージス、その腕は今も煙を上げて焼けている。災害の進行を一人で止めるという偉業は人の身に代償を強いていた。


「陛下、しばしの辛抱を」

「すぐに仕留めてくるさぁ」

「速やかに破壊して参ります」


 腹心三人が巨竜火山ウンゼンへと向かう、王の身体が保つうちに敵を仕留めるために


「頼んだぞ……私の盾よ」


 だが、巨竜火山ウンゼンはただの災害ではなかった。竜なのだ、火吹きなのだ、つまり、動きを止めても噴き出すものがある。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」


 ひと際大きな咆哮、竜の口腔に光が集まる。誰が見ても分かる予備動作。ドラゴンブレスの予兆。


「待て!! 今は行くな!!!」


 静止は間に合わず、溶岩は光線のように解き放たれた。


「ぬぅううううううう!!!?」


 国に被害を出さぬため、最大展開した万壁招来。 

 ブレスを防ぐための更なる展開

 噴き出す血、

 焼ける身体、

 訪れる限界。


「むね……ん」


 イージスの瞳が閉じられる。


「グングニィイイイイイイイイル!!!!」


 閃光がイージスの後方より放たれた、それは途方もない熱量と速度をでブレスを散らし、そして巨竜火山ウンゼンの頭部を吹き飛ばした。


「間に合ったか!?」


 放ったのは、片目に緑光をたたえた男だった。

















【巨竜火山】

巨いなるものよ、我が意思に従え。

秘めし熱を、炎を、全て吐き出すがいい。

溶けた岩を、融けた鉄をもって蹂躙せよ。

人よ見事乗り越えて見せよ、できなくば死ね。

その先に我がいる、その先に真なるものがある。

我が銘は熾し、火を生み出す者。


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