槍王さん家のお食事会
「もぐもぐ、そんなもので良いのか? 余の夫ならもっと食べねば」
「うぷ……これくらい勘弁してください」
眼前に広がるのは料理の山、これは俺をもてなすために槍王が用意させたものだ。だが、はっきり言ってこんな量を食べられるとは到底思えない。
到底思えなかった。
少し前までは。
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
まるで吸い込まれていくかのように料理が槍王の中に消えていく。その小さい身体のどこにこんな量の料理が入っていくのか見当もつかない。速い動きをするためにはエネルギーを用意しないといけないってことなのかもな。姉さんも結構食べるほうだったし。
それにしても槍王の勢いは凄まじい。
「王サマは大食らいデスから、でも君はあんなもの撃ったのに元気そうデスネ」
「まあ、そんなに食べなくても良い体ではある」
「ンン? もしかしてその腕デスカ」
「どうしてそう思う」
「その腕、樹人のものとよく似てイマス。もしかして義手もらいマシタ?」
「どうだったかな」
パックの事はまだ信用していない。賢者の石の関係者であるのはまあ、スカイフィッシュバラして戻せる事からほぼ確定だが。それはそれとして、俺の敵ではない可能性が排除できたわけではない。
変な計画の片棒かつがせようとしてくるし、英雄とかなんとか言ってくる奴は大体詐欺師だと思う必要があるだろうし。
「だってそれ、桜の腕デスヨネ。樹人は確か桜、竹、紅葉でしたっけ」
「だとしても何も問題はない」
「ンー、今すぐ協力していただけるのであれば耳よりな情報があるんデスけど」
いきなり攻めてきたな。ここで頷く事は難しい。
「そんな事で協力を取り付けようって言うのか? 時間をくれと言ったはずだが」
「ちょっとそういう訳にもいかなそうナンデス」
「急かす理由は」
「……これを何か言ってしまうと駆け引きの意味が無くなってしまうのデハ?」
駆け引きの意味が無くなる、つまりは一言程度で俺に衝撃を与える内容である事が確定した。そして、今の話の流れからそれは樹人関係であると推測がつく。俺が樹人と知り合いであるのなら言うだけで、俺を動かせるような状態。
つまりはアルカの危機ということか。ここからアルカの居る森までは、結構な距離がある。スカイフィッシュが不調な今は急ぐにも限度がある。
「樹人の森が危険にさらされているのか」
「……ンー? 勘の良いガキはなんとやらデスネ」
「そうなんだな」
「当たらずとも遠からずくらいデスカネ。時間と確率の問題ですケド」
「森の近くに城とやらがあるんだな?」
「サァ?」
「……」
これ以上は問い詰めても無駄か。ここで折れることは簡単だ、だがそうするとこれからずっとパックの言いなりになる可能性がある。どうにかして、主導権を握ってしまいたいが。何かは良い手はないのか。この状況を俺の有利にできるような。
あ、そうだ。1回場をぶち壊すか。
「じゃあ今から俺は樹人の森に行く。話はここまでだ。じゃあな」
「ちょっとちょっと!!?」
「槍王陛下、すみません。今から帰ります」
「なにっ!? 今日はお泊まり会ではないのか!?」
「急用ができましたので」
どう出る? このままなら俺は本当に居なくなるぞ。お前が本当に俺からの協力を得たいのならここで折れるしかないだろう。
隠し玉か、イレギュラーでも起きない限りは。
「わ、分かりマシタ。少し待ってくだサイ」
「どうした? 何か話があるのか」
「実は」
閃光によってパックの言葉は遮られた。遅れてくる音は雷鳴。
「余の城に2人で乗り込んで来るとは随分と舐められたものだな」
「舐めてねえよ。正面突破してねえだろ?」
「は、不遜だな」
「仕方ねえだろ? どうしても会って話をしないといけない相手がここにいるんだからよ。なぁシン?」
目の前に、いるのはファスカ、そして
「シンちゃん」
「デーレ姉さん……」
雷光を全身に纏いながら、一歩ずつ、一歩ずつ近づいてくる、優しく笑いながら、抱擁をするような態勢で、距離を詰めてくる。
「ずっと探してたんだよ」
「ごめん……」
「死んだと思ったんだよ」
「ごめん……」
「でも良いの。今こうやって会えたから」
「デーレ姉さん……」
デーレ姉さんは今にも泣きそうだ、これ以上何か言えば瞳から大粒の涙がとめどなく零れ落ちるだろう。
「姉さん、俺は」
「良いの。今はただ抱きしめさせて。それ以外は全部いまは良いの」
「姉さん……」
姉さんの、抱擁を受け入れ、
「っ!?」
「どうして逃げるの……?」
「姉さん、俺のこと気絶させて持ち帰ろうとしてるでしょ」
「そうだよ?」
どーりでバチバチしたまま近づいて来てると思ったよ。
「もう逃がさないから」
【槍王の食卓】
毎日とんでもない量の食事が並ぶ円卓である。
この食事量が槍王の強さの一端では? などと言われることがあるが、それは間違いである。
食べているから強いのではない、強いから食べなくてはならないのだ。
恐るべきことに槍王の成長期はまだ終わっていない。




