移動海上拠点 レブン
「我輩に足場になれと言うのだな? もぐもぐ」
「ああ、そうだ。お前の背中に乗っていくのも悪くないんだが……飛べるところを見せなきゃいけなくてな」
「大いなるレブンをそのように扱うと? もぐもぐ」
「レブン?」
「我輩の名だ。もぐもぐ」
「ちょっと食べるのやめてもらえるか」
流石に食い続けられると話がしにくい。
「我輩に食事を止めろと?」
馬鹿げた威圧感、今まで友好的だった分余計にやばさが伝わる。レブン、こいつの地雷は食事か。早急に取り消さないと関係が修復不可能になる。
「いや、そのままで良い。悪かったな。食事は大切だ」
「貴公はやはり話が分かるな。飢えは悪だ、飢えれば聖も乞食に堕す。もぐもぐ」
「その通りだな」
危ない危ない、危険察知が間に合って良かった。
「我輩はこの身体ゆえ食事に難がある。飢えは常に共にあったのだ。貴公のお陰で今は久方ぶりの満足感を得ている。もぐもぐ」
「そうか、知らなかったとはいえ酷い事を言ってしまったな。申し訳ない」
「許す。貴公の提案も受けよう」
「良いのか?」
「良い。貴公の残り香だけで餌を取るには十分だ」
「すまない」
長い距離を飛べないならば、休憩地点があれば良い。イカロスは適宜休むべきだったんだ。
「よし、行くか」
「待て」
「なんだレブン」
「これから飛ぼうと言うのだ。燃料を補給すべきだろう」
「うおっ!? ピチピチしてる!?」
でかい魚が目の前に飛んできた。え? もしかしてこれを食えと?
「食べたまえ」
「いや、生は、ちょっと」
「美味いぞ?」
「……いけるのか」
熟練工が俺に告げる。アルカならできると。
「さばくか……」
一流の料理人レベルではないが、まあ。食えるレベルにはさばける筈だ。
「……ふぅ」
なんとかなったか。
「生で、食えるのか」
是非とも焼きたいところだ。
「さぁ、一思いにいきたまえ」
「……分かった」
そんなキラキラした目で見られると食えませんとは言えねえ。
「く……」
覚悟を決めろ、ここで食うことで信用が得られるはずだ。だから。
「あむ」
「どうだ、美味かろう」
「あー、いけるな。塩味が欲しいが美味い」
思った以上に美味い。これなら1匹分食えちまいそうだ。
「良い食べっぷりだ。貴公もこれで飛べるだろう」
「気遣い感謝する」
「なに。飢えは辛いものだ。友に飢えの苦しみは与えたくない」
とことん食事にこだわりがあるらしいな。
「飛ぶぞ、イカロス」
身体が浮く、やっぱり鈍いな。どちらに向かうべきか。
「ここから一番近い陸地はどこだ?」
「こちらだ」
レブンが見た先を確認する。そこに向かって飛ぶとするか、問題は目印が見えない状態でまっすぐ飛ぶことができるかどうかという点にある。正直に言ってそこまでの方向感覚はない、デーレ姉さんやラァならなんとかなるとは思うが。
「まっすぐ進める自信が無い、悪いが先導してもらえるか」
「良かろう、我輩ならば空を飛ぶ貴公よりも早く泳いでみせようではないか」
レブンが行く、俺はそれを追えば良いというわけだ。
「いや、速いな!!」
「ふはははは!! 我輩の泳ぐ速さについて来られるかな!!」
置いて行かれる可能性がでてきたぞ……気が抜けないな。
「うおぉおおおおお!!!」
「ぬ、上げて来たか。我輩も枷を1つ外すとしよう」
「もっと速くなるとか……冗談だろ!!」
「ふははははは!!!!」
唸れイカロス、お前の性能限界はまだ先のはずだ!!
「カァッ!! カァッ!!」
「ヤタが楽しそうで何よりだ!!」
もっと、もっと飛べるはずだ、俺は!!
「あ」
ピーという音、そして、上がる煙
「イカロスゥウウウウ!!?」
堕ちる身体、しくじったな。まさか限界の8割くらいを維持できる時間が数秒とは。
「危なかったな友よ」
「ありがとうレブン、海に落ちるところだった」
レブンの背に落ちたおかげで助かった。案外柔らかいな。
「おお、人間とは熱いのだな」
「不快か?」
「いや。冷たい北海、暗黒の海底よりずっと良い」
「それなら良かった」
「ああ。我輩はこの熱さを忘れないだろう」
「なんだいきなり」
「つまらない感傷だ、友よ」
「……?」
「我輩に熱を与えるものは、食事以外にはないと思っていたのだが」
んー? 孤独、寂しさ、飢え、もしくは孤高のジレンマ? 何かが心に刺さっているような感じ、それに対して何かをした方が関係は良くなるか。何を言えば心を揺らせるか。強さの裏にあるのはなんだ?
「熱か。寒さを感じる事があるのか?」
「寒さ、それも飢えに付随するものだ。食わねば冷える、何もかも」
「……食っていても冷えることはあるか?」
「ある、ような気がする。冷えは突然にやってくるのだ。冷えた我輩は狂乱し、そして何も残らぬ。我輩を冷やすな、友よ」
「なるほど、心に留めて置くよ」
冷えか、地雷を踏まないように気をつけて行こう。
【冷酷】
我輩の記憶には霧がかかる
飢え、冷えたとき
全てを食い散らかす
冷えがなくなった時はいつも
血の中に居る
嗚呼、どうか友よ
血霞の中に消えないでくれ
悲しみもまた
我輩を冷やすのだ




