絶海と蒼空
「空!! そして海!!」
どこだここは!!
「風に乗せられて飛ぶ距離じゃねえって……」
場所を類推しようにも、周りには海しかねえし。
「幸い餓死とは縁遠い身体になっちまったから時間はあるが……」
ずっとここに居るわけにはいかないしな、さっさと飛ぶか。
「スカイフィッシュ」
ん?
「スカイフィッシュ……!?」
動かない……?
「壊れた……!? このタイミングで!?」
マジで?
「泳いでいくか……? いやそれは流石に」
俺が餓死と無縁なのは桜腕のおかげだ。水の中ではどうしようもない。
「修理できるか……?」
熟練工は何も言わない、できないのか。そもそも修理をするような道具もない。
「……どうするかな」
「お困りかィ?」
「そうだな、今のところこの島から抜け出す算段がつかない」
「ま、そういう時は天の助けを待つってのも一つの手だネェ」
「今考えつかないなら、とりあえず休息を取っても良いかもな。地鳴りとの戦いでは無理をしたし」
「休んでから考えて方が良いこともあるサ、きっと」
寝て起きたら良い考えが浮かぶ事を期待して、休むとするか。
「ふわぁ……身体がバッキバキだ」
無理に治して動かしたツケだなこれは。眠気はすぐに襲ってきた。
「カァ……」
ヤタ? 珍しくすり寄ってきたな……なにか……言いたい……こ……と……でも……
「止まり木……飛べなくなったでしゅか」
「ん? いつのまに寝たんだ?」
「我が誘うまでもなかったでしゅ、疲れていたんでしゅね」
なんだ、ヤタがなんか生暖かい目で見てくる。え? 逆に怖い。
「今回はなんの用だ? ただ話したいからここに連れ込んだわけじゃないだろ」
「よしよし」
なーんで俺はヤタに頭を撫でられているんだ? どういう事だがいまいち掴めない。
「分かってるでしゅ、傷を見せたくなくて強がっているんでしゅね。でも、ここは我と止まり木しかいない場所でしゅ」
「???」
え? 何? 慰められてんの?
「さあ、思う存分泣いて良いでしゅ」
「いや、泣かないよ?」
「強がりは良いでしゅ、翼を失った痛みを分かるのは我だけでしゅ」
「翼?」
「止まり木は飛ぶ手段を失った、それはつまり我と同じ片翼の鳥でしゅ」
「えっと……?」
ダメだ、よく分からん。
「一度でも飛んだ生き物は、空を失った時には死ぬものでしゅ。それでも死ねなかった半端者は大人しく傷を舐め合うしかないでしゅ」
「……ん?」
違和感、いや、これはあれだな、危険信号だ。何度もデーレ姉さんとラァから感じた気配だ。つまるところ、返答を間違えれば不味いことになる場面だ。
「止まり木も堕ちたのなら、それはもう天啓に他ならねぇでしゅ。さぁ、一緒にどこまでも……」
光を失った瞳と独特の威圧感。
「我は、止まり木となら沈んでも良いでしゅ」
「いやいや、沈まねえって」
「翼を失った者同士で、いつまでも溺れていれば良いでしゅ」
「だから失ってねえ」
「さあ、委ねて……」
1つも話を聞かねえな。揺さぶりをかけるか
「ヤタ、お前もしかして俺に沈んで欲しかったのか?」
「……?」
「お前は、俺に絶望して欲しかったのか」
「……何が言いたいでしゅか」
「いや、嬉しそうに見えてな」
「嬉しい……? 我が?」
怒るか?
「な、なんでそんなこというでしゅか……」
泣いたかー
「我は……我は……止まり木が……止まり木が……死んじゃうんじゃないかと……思って……」
「死ぬぅ!? 俺が……?」
「だって、だってだってだって!! 我が飛べなくなったとき死にたくなったもん!! 止まり木も同じはずだもん!!」
「そう思うのか」
「止まり木と我の心は一緒だもん!!」
「……じゃあ今は死にたいのか?」
「死に……たくは……ない」
「心が一緒なら、分かるだろ? 俺は別に死んだりしないって」
「止まり木は、死なない?」
「死なないよ」
「ほんとに?」
「ああ、それにまだ飛べる」
たぶんだけど。
「……まだ飛べる?」
「ああ、きっと飛べる」
「……ふーん」
「なんだふーんって」
「心配して損したでしゅ、飛べるなら何の問題もねえでしゅ」
「いや変わり身早いな!!」
「風向きを読むのは得意でしゅ」
これで分かった、ヤタがおかしくなるのは俺が飛べなくなった時だ。薄々分かっていたが、飛ぶことに関しての執着がかなり強い。夢の世界に幽閉される可能性を考えると飛ぶ手段は常に確保しておいた方が良いな。
「もう、用はねえでしゅ。さっさと起きて飛べるところを見せるでしゅ」
「ちょ、叩くな!?」
文字通りたたき起こす気か!?
「そんな乱暴な……と」
夜か……何も見えない。起きたは良いが、これじゃあ何かしようにも……
「ん? なんか光ってるな」
スカイフィッシュに発光機能なんてあったか……?
『やあやあ、我からの試練だ。廉価版のこれを封印しておいたから、これを解いて脱出するか他の手段を取るかは好きにして良いから頑張ってね?』
「あいつ……ぜったいぶっ飛ばすわ」
【夢堕ち】
二度と浮き上がらぬ夢の底。それはきっと絶望の末に選ぶ心中ではなく、これ以上傷付かぬようにと願う優しさだろう。




