鬼と呼ばれる女
「良いとこ見せなきゃなあ!!」
「どわぁっ!?」
踏み込み一歩でこれか、地面に深々と足跡が残ってやがる。これと戦おうとしてたのか俺は、結構命知らずな真似をしていたようだ。
「貴様か、もう1人はどうした」
「もういねえよ、オレだけで十分だ」
「不遜だな」
あーあー、オレが介入できるレベルの白兵戦じゃないな。勝手に入り込めばゴミくずのようにボロボロにされるのが目に見えている。だから、今の俺がすることは待つことだ。好機を待ち、それを掴む。
「相変わらず堅いな」
「貴様の拳はもはや意味をなさない。ただ壊れるのみだぞ」
「オレの拳が、壊れる?」
「無意味な真似をやめよ、貴様は強い。敬意を持って殺してやろう」
「あはははははははは!!! オレの身体の壊し方なんて、オレも知らねえのによくも言ったもんだな!!」
「っ!?」
おいおい本気か、拳の回転がどんどん速くなってやがるぞ。殴る音は人の身体が出すような音をとっくに越えている。ファスカの身体は本当に俺と同じ材料でできてんのか?
「もう一回言ってみろよ、何が壊れるって?」
「うぐ……貴様、本当に人間か」
「人間だよ、多分な」
一際大きな音、地鳴りが吹飛ばされていく。
「……俺がすることなくね?」
「うーし、これで終わり……とはいかねえか」
吹飛んだ先で地鳴りが起き上がる、身体にはヒビが入っていたがそれもすぐにふさがっていた。
「その身体、凄まじい密度だ。確かに拳が壊れることはないだろう。だが、その拳が我を砕くことはない」
「再生か、めんどくせーな。粉みじんになるまで殴れば良いか」
「無駄なこと」
再開された殴り合い。地鳴りの方は地面から槍を出したり、岩を砲弾みたいにしてぶち込んでいるみたいだが……
「チクチクと鬱陶しいなあ!!」
「無意味か、お前の命に届く攻撃はやはり我自身の一撃のようだな」
ファスカに全部迎撃されている。というか、当たってもノーダメージだ。どっちが災害なのか分かりゃしねえ。
「おぉおおらぁあああああああああああ!!!」
「くっ……」
圧倒している、拳の嵐の前に地鳴りは対応できていない。
「砕ききってやるよ」
「おのれ……!!」
終わりが見えてきたか。ボロボロと崩れる身体と、中に宝石……?
「舐めるなよ、我は大地。我を倒すということは、大地を倒すことと知れ。幾度、この身体を砕こうと意味は無いのだ」
「は、我慢比べか」
「よっと」
桜腕を使って宝石を抜き取る、意識を完全にファスカに向けていたからなんの苦労もなかった。
「な、ぐぁああああああ!? 我が力の、源泉たる、宝珠を、盗みだしただと……!?」
「え? やっぱりこれってそういうやつ?」
「きさまぁあああああああ!!!」
やべ、矛先がこっちに向いた。
「よそ見してる場合か?」
「していない、お前の弱点はもう見切った。お前の対処は終わっている」
「弱点だぁ?」
「内部破壊だ、貴様の内部には既に我の粉塵が入り込んだ。内側から貫かれるがいい」
「おご……!?」
ファスカの腹が内側から槍で……!? それも2本3本と続けて出てきやがる。
「ファスカ!?」
「手こずらせてくれたな、だがここまでだ」
「ち、くしょう……」
辺りを真っ赤に染めて、倒れる、ぴくりとも動かない、あれはもう、死んで、
「次は貴様だ。創造主の客といえども、これは試練だ。贔屓はしない」
「俺が、創造主の客……?」
俺が客と呼ばれるような存在で、地鳴りを作るような規格外となると。それはもう、1つしかないだろ。
「地鳴り、お前は。賢者の石の製品なのか」
「懐かしき名よ。我は、我らは創造主の命を完遂するまで」
「まさか……お前は賢者の石の製品か」
「情報の開示を許されているのは1つだけだ。我らはダンジョン番号6番であり、その別名を地震雷火事大風という」
「……マジかよ」
「話は終わりだ、さあ死ぬが良い」
地面、から、槍か!?
「カァッ!!」
「ぐっ!?」
ダメだ、壁抜けが、不完全、そもそも、3回目の発動、加えて、槍が太すぎた。
「わき、ばらを、少々もっていかれたか」
「不可思議な技だ、だが次はない」
頭上にデカい岩、面制圧は、避けきれない。
「アルカぁ!!」
俺の命を預ける、岩を両断してくれ。
「それは囮だ」
正面、地鳴り、拳、
「……弾くか」
「はぁっ……はぁっ……」
「その鎧、生きているな。惜しいことだ、虚飾を捨てれば窮地を脱する事くらいはできるだろうに」
カタハが無理矢理腕を動かして防いでくれた、反動で腕の感覚はもうねえが。
「では、足を固めよう」
「くそっ……」
腰まで地面に埋められた、動けねえ。
「即死という慈悲を与える」
「くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
落ちてくる岩、アルカは振れない、できることは、口を動かすことくらいか、
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
は?
「オオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
岩を砕き、その破片の上で吠える1人、いや、あれは人か?
「赤い肌に、大きな2本の角、どう見ても人間じゃない」
じゃあなんだ、あれは、いったい。
「鬼か、懐かしいな」
あれは、鬼、なのか?
「面白い。見せてみよ、鬼の力を!!」
【鬼】
かつて存在していたという幻の存在、それは造られた命。強くあるように細工をされた命。どこまでも戦闘に特化した身体に無駄はなかった、されど、強すぎる種は次代を多く残さない。やがて血は減り、そして薄まる。強すぎたせいで減った彼らは、弱くなることを選んだ、あえて小さく、儚く、戦闘からは身を引き職人の道を切り開いた。
よもやその血が、今になって濃くなろうとは。




