試される大地
「この状況でするのはお願いではなく、脅迫の間違いじゃないのか?」
「お? その余裕はどこから来るんだ。今すぐにでも抜け出せる手段があるみたいに聞こえるぞ」
「さあ、どうだろうな」
壁抜けは一度使ってしまった。全身ではないにせよあと1回が十全に使える限度だろう。次に使う時は絶対にいなされてはならない。身長にならなければいけない。
「ふてぶてしいな、お前」
「虚勢くらい張らせてくれよ、今はお前が圧倒的に有利なんだ」
「お前じゃない、ファスカだ。ファスカ・ルーザス」
「ルーザス……!?」
あのルーザスか……!? それなら今状況はおかしい、ルーザス一族は弱いことで有名なはず……
「今、おかしいと思ったな? それは正しいぞ」
「本当に、ルーザスなのか」
「お前が知ってるルーザスだよ。過去の栄光を捨て去って、職人になった一族さ」
「信じられない。ファスカはどう考えても、ルーザスにしては強すぎる」
「その通り、オレは強すぎた。まともに布も織れやしない、全部壊しちまうからな」
「余計に分からない、俺に何を望むっていうんだ」
「器用なんだろお前、電撃が言ってたぞ。自分にできないことがたくさん出来てすごいってな」
「器用は器用でも、器用貧乏だよ。なんでも人並みの域を出ない凡人なんだ」
「ただし、その人並みの適用範囲が異常に広いんだろ。電撃に聞いた限りでは、持った瞬間になんでも人並みにできるらしいじゃねえか。殴る以外できない身としては羨ましい限りだぜ」
え? 待って、今褒められたか? やだ嬉しい。
「しかしまぁ、あの電撃の溺愛っぷりは正直異常じゃないか? そりゃあお前が逃げるのもなんとなく分かるってもんだ」
「一瞬でも、てめえが良い奴だと思った俺が馬鹿だった。デーレ姉さんを異常と言う奴に良い奴はいねえ」
「っ!?」
前言撤回、壁抜けを使用。すり抜けるのと同時にアルカを抜く。馬鹿げた身体能力があるのは分かっている、目にも移らない行動をするのなら、動く前に止めれば良い。強い奴は弱い奴に対して、無自覚の慢心がある。今みたいな絶対有利なら無論。一度破っているというのも良い、対処済みということで油断する。逃げにしか使えないと思っているうちにアルカで攻める。
「動かない方が良い、俺は弱くてもアルカは一流なんだ」
「なんだこりゃ、伸びる剣か?」
「そう、それに巻かれている状況は理解してもらえるか?」
「ああ、やっぱり器用だなお前」
「姉さんへの言葉を取り消せ、そして二度と俺と俺の家族に近寄るな。そうすればこの場で切り刻む事はしない」
「……悪かった、その目を見る限りだとオレはお前の聖域に踏み込んだらしい」
「分かれば良い」
となれば、周囲をカタハで爆破の目隠ししてから離れるか。告げ口をされたところで、海を渡ってしまえばデーレ姉さんの移動速度でもすぐには見つからないだろうし。
「ますます良いな、家族を思えない奴は信用できない。やっぱりお前ならオレの先生になれる」
「せ、せんせい?」
「そうだ、オレは家業を継ぎたい。だから、職人になりたいんだ」
「しょくにん……!? その強さで!?」
「悪いか……? 好きなんだよ、細々した作業とか」
「いや、意外すぎて」
「そうだろうな、お前もオレを笑うか? 岩を砕く手で編み物なんて……てな」
「笑わない。それを笑えば俺は今の自分の行為を否定することになる」
「じゃあ、オレの先生になってくれるんだな」
「ならない」
金輪際ファスカと会う気はないからな。
「困ったな、この剣がいいものだってのは何となく分かる。それを壊すとなると嫌われそうだ」
「今の時点では、ファスカの事は嫌い寄りだけど。アルカに傷をつけたとなればそれは決定的になるだろうな」
というか、神樹鋼でできてるアルカを壊せるのかこいつ。
「無理に抜け出すことはできないな。シンを手放すのも嫌だし」
「手放すもなにも、ファスカのじゃない」
「オレから何か利を示せば良いのか」
「いや、そういう問題じゃ」
「じゃあ、この身体を好きにしていいぞ。発育は良い方だから、楽しめるだろ」
「……俺に色仕掛けをしてくる奴は2人目だけどな。無駄だ、デーレ姉さんを見たなら分かるだろう?」
「あー、なるほどな。あのレベルの美人を見慣れているから、そう簡単にはなびかないと。贅沢な奴だな」
「否定はしない、俺にはもったいない肉親だ」
「あーあー、あの姉にしてこの弟ありって感じか。これじゃあ、入り込む余地はなさそうだ」
「話は終わりだ、俺はここから離れる」
「っ!? 剣を手放してそこから離れろ!!」
これは冗談や仕掛けの類じゃないな、何かが来ている?
「オオオオオオォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
目の前に、山が組み上がっていく、これは、なんだ
「地鳴りだ、生きていやがったのか」
「地鳴り!?」
姉さんとファルカにボコボコにされて死んだんじゃないのか!?
「オノレ、オノレ、ニンゲン、ワガ、シンノスガタ、ニテ、ホロボシテ、クレヨウ」
……マジか
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
山が崩れて、その内部から人間くらいの大きさのものが出てくる。
「我が名はドゥミン。真なる試練を与えよう」
土で作った彫像のような奴だ、これが地鳴りの本気の姿だとしたら、俺に勝てるのか? デーレ姉さんにも殺しきれなかった相手だぞ。
「シン、取引をしよう」
「なんだ」
「今からお前の命を助ける、だから俺の先生になれ」
「……分かった」
背に腹は代えられない、ここで死ぬよりは……
「じゃあ、戦ろうか」
【地鳴り・土偶装】
地鳴りが人型を取った姿、この形態になることは滅多にない。
なぜなら、この形態になるには一定の速さで地鳴りを倒さなければならないのだ。
彼の者は大地の恵み、彼の者は大地の怒り、彼の者は大地の意思。
逆らうことまかり成らぬ、大いなる大地に挑むのはあまりに無謀、あまりに不遜。
畏れよ、敬え、五体を投げ出し慈悲を請え。小さき命を少しでも永らえたいならば。




