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甘く、黒い、香り

「いやいや、自分で言うのもみっともねえが。もったいないぜ? ダンジョンの内部を知ってる奴がいるなんてそうそうない事サ」


 攻め方を変えてきたな、確かにダンジョンの内部を知れる事はほぼない状況だ。千載一遇と言えばその通りなんだが、こいつの思惑にそのまま乗るのは嫌だな。だって、こいつがダンジョンに誘い込む罠そのものである可能性を捨てきれない。


「お前が俺を嵌めようとしている可能性がある。だからお前と人形工房にはいけない」


 正直に言ってしまうのが一番早い。腹の探り合いはいらない、これで終わりだ。


「は? 嵌める? あてが? シンの旦那を?」

「とぼけてるようにしか見えない」

「……」


 黙ってるか、なら本当に終わりだ。


「……あては泣くことができねェ、それが今ほど辛いと思ったことはないサ」

「それも信用ができない。涙も出ない泣き落としに意味があると思うか?」


 あまり酷な事は言いたくないが、今は拒否する以外の道がない。流石に犬死には御免だ。


「今度はもっと話が分かる奴に相談するといい、俺もお前の事は黙っておく」

「シンの旦那、どうやったら信用してもらえますか」

「今は無理だ、どうやっても」

「……あては諦めねェ、あてにはシンの旦那しか居ねえんだ」

「そうか、俺の邪魔をしなければ好きにしたら良い」


 俺は早くこの赤盾灯台を上って、密書を届けないとならないんだ。結構なロスにはなったが、大丈夫であることを信じよう。


「……俺しかいない、っていうのはどういうことだ?」


 最後の言葉が引っかかる、それこそ言っていたようにダンジョンの内部が分かるという甘言があればホイホイついてくる奴の1人や2人すぐに見つかるはずだ。それをしない理由はなんだ? まぁ、今考えても意味の無いことだ。


「こっちから上れるのか。螺旋階段は見事なんだが、せめて機械式の昇降機くらいつけても良いだろうに」


 上り下りするだけで結構な労力になる。別に疲れるとは言わないが。


「すん……なんだ?」


 何か甘い匂いがする。どこかで嗅いだことのあるような……


「っ!? これは!?」


 甘い匂い、嗅いだことがある筈だ、この匂いは、ラァの砂糖だ。


「居るのか、ここに」


 密書を渡して今すぐにでもここを離れた方が良いか。


「待て、バレてたらこっちに接触してこない理由がない。じゃあ、この砂糖はいったい」


 索敵ではなく、ただ垂れ流している? あのラァが?


「ありえないだろ、でも。俺が居るのがバレてて来ないのもあり得ない。一体どうなっているんだ」


 自分で言ってて、少し恥ずかしいが。俺の経験上そうなんだから仕方がない。


「猶予があるうちに、さっさと行こう」


 密書に宛名はないが、メモ書きのようなものが付いている。密書をほっぽり出して逃げるわけにはいかないよな。


「赤盾灯台の塔主、行ったら会えると良いんだが」


 たぶん頂上にいるんだろう、少しズルをするぞ。


「スカイフィッシュ……」


 こっそりスカイフィッシュを使って身体を浮かせる、これで無茶な走り方ができる。


「さっさと上る」


 螺旋階段を駆け上る。周りの奴らが、目を丸くしているけど気にしない。そんな事を気にしている場合ではもうなくなった。


「少々目立つのは、仕方ない」


 ラァが居ることが分かってしまった今、一刻も早く離れなければならない。ラァの砂糖はデーレ姉さんの雷よりも察知が難しい。今回はたまたま匂いがしたおかげで分かったが、本来は気づいた時には手遅れになるタイプだ。


「なんだ、ここから先は塔主の領域。許可無く入る事は許されないぞ」

「これを塔主に」

「ん? なんだこれは」

「それを塔主に渡してもらえれば分かる」

「……宛名の無い手紙、なるほど。少し待て」


 話の分かる人が居て助かった。これで塔主の元に密書が届けば俺の仕事は終わりだ。そうしたら、俺は一目散でここから離れよう。


「待たせたな、塔主がお会いになるそうだ」

「え、遠慮します」

「ダメだ、塔主の決定に意義を唱えることはできない。諦めろ」

「逃げたらどうなりますか」

「運が良くて投獄、悪ければ死ぬ」

「……分かりました」


 こんなところでお尋ね者になるのはな……ラァと塔主の2面作戦をするのはまずいし。


「この扉からまっすぐ進めば良い。それで塔主の元へ着く」

 

 行きたくないなー、何を言われるか分かったものじゃない。


「……開けるか」


 赤い扉、この先にいるのか。


「お呼びに預かりまして光栄です。シンと申します」

「知っている。入れ」


 声の感じからすると、女か? だからといって油断することはないが。


「失礼いたします」


 扉を開けて中に入る。


「っ!?」


 目の前にトゲ付き鉄球!?


「カァッ!!」


 ヤタ・デシュが鳴く、その瞬間モーニングスターは俺の頭をすり抜けた。


「おやおや、直撃したと思ったんだけどね。あんた、やるじゃないか」


 赤い軍服を着た塔主がそこに立っていた。


「さあ、少しお話をしようか。ビクトリウスの長男坊」








【クヴェール・レッドシールド】

人は言う、赤き盾の後ろには一滴の血も流れない

人は言う、赤き盾の赤は全て返り血だと

人は言う、赤き盾の前に立つことは死と同義だと

赤き盾を持つ女は言う、自分の血が見れる日はいつ来るのだと。

女は今日も、赤き塔の頂で強者を待つ。

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