雷は2度鳴る
「さて、飛んで戻るか」
とはいえ、ここがどこだか全く分からない。その状態で飛んでも何処に行けば良いか分かんないしな。このまま別の場所に行っちまうのも手か……
「とはいえ、これで終わりってのも。味気ないか」
なにより、あの謎の馬車を動かしてみたい。きっともとの場所にあるはずだ。
「あった。さぁ、弄らせてもらうぞ」
さてさて、これはなんか賢者の石の影を感じるが……
「んー、普通に動かせるな。別に賢者の石製というわけでもなさそうだ」
まあ、そう簡単にスカイフィッシュのようなレベルのものは手に入らないだろうな。こんなのぽこぽこあったらとんでもないことになるぞ。
「んじゃ、戻りますか。ラウンがどうなったのか気になるし」
素晴らしく快適な馬車の旅が始まる。
「一眠りするか、疲れた」
飛び回って、戦って、そんで姉さんに見つかりそうになって、盛りだくさん過ぎるな。しばらく白盾の街でゆっくりしても良いかもな。ホワイトシールドにも恩を売ったところだし、良きに計らってもらってもバチはあたらないだろう。
「ふわぁ……」
超眠い……やっぱしんどかったんだな……くう……ちゅう……せ……ん。
「この、浮気者!!!」
「なぁんで、いきなりお前に怒鳴られるんだよ。浮気もクソもお前にはなんの気もない」
「なんてこと言うでしゅ!! 事ここに至って言い逃れでしゅか!!」
「いや、何も至ってない」
「親に挨拶まで言ったのに!?」
「親!? もしかしてあのでかい鳥か!?」
「そうでしゅ!! 馬鹿な親がコテンパンにされるのは気分が良かったでしゅ!!」
「お前……思っててもそんなこと言うなよ」
「一応言っておくでしゅが、我らの親子関係は人間とは全く違うでしゅ。お前のだーいすきな姉との姉弟関係とも違うでしゅ。もっとドライで殺伐としてるでしゅ。端的に言えば我は捨てられたでしゅ」
「……なんかごめん」
「分かれば良いでしゅ。それと姉がだーいすきっていうのは否定しないんでしゅね?」
「は? 当たり前のことを言われて否定もクソもない」
「あ、手遅れでしゅね」
「なにが手遅れだって?」
「うるさいでしゅ。止まり木の性癖くらいドンと受け止めるのが度量というものでしゅから、見逃しましゅ」
こいつ……なんか生暖かい目で見やがって、さばいて焼き鳥にしてやろうか。とはいえ、カラスの焼き鳥は不味そうだな。
「なんにせよ、大元の結界がなくなったおかげで我かかっていた枷もなくなったでしゅ。力を貸してやるでしゅ」
「ん? 俺も結界を出せるようになったのか?」
「違うでしゅ、我は突然変異体の特別製でしゅから。閉じ込める結界ではなく、すり抜ける力をもっているでしゅ」
「すり抜ける力……?」
「そうでしゅ、まあ簡単に言えば壁抜けとかができましゅ」
「……それは、まあ、色々と悪さができそうだな?」
「その代わり、1つ抜けるたびにすげぇ疲れるでしゅ」
「代償か……疲れるのにも限度があるよな」
「そうでしゅね……今の止まり木なら、壁2枚で動けなくなるでしゅ」
「消耗が激しすぎるな」
「宿り木は我よりずっとおおきいでしゅから仕方ないでしゅ。大きい物を通せば消耗も増えるでしゅ」
「なら、腕とかだけなら?」
「それならまあ、ある程度融通は利くと思うでしゅが。腕だけ通してどうするって言うんでしゅか」
「ま、やりようは色々ある」
できる事が増えれば選択肢が増える、それがどんなものであろうと使い道は存在する。
「ひっ!? なんか来るでしゅ!?」
「なんかってなんだ!?」
「分かんないでしゅ!! でも、凄い勢いで向かってくるでしゅ!!」
「この空間は夢の中だろ!? そこに入ってくる奴って誰だよ!!」
「だから、分からないって言ってるでしゅ!!」
肌がピリピリする、これは……!!?
「うそ、だろ」
「……」
「デーレ姉さん」
「……」
「分かるよ、怒るのは当然だ。俺は確かに死んだように見せた、それに関して俺は何も言えない。姉さんにどんなに謝っても許されない真似をした。でも、俺はここで連れ戻される訳にはいかない」
勝ち目は薄い、だが、諦めるには早すぎる。姉さんの知らない手札をフルで使って逃げおおせるんだ。さあ、今までで一番辛い戦いだ。
「……zzz」
「寝て、る?」
「そ、そりゃそうでしゅ。ここは夢なんでしゅから寝てるに決まってるでしゅ」
「その割には焦ってただろ」
「う、うるさいでしゅ!!」
「しかし、なんで姉さんは立ったままで寝てるんだ」
「弟が分からないことを我が分かるはずないでしゅ」
「……シン……ちゃん……?」
「っ!? 起きるのか!?」
「起きねえでしゅ、何かを察知して無意識で割り込んできたようでしゅが。ここに入ったからには我の許可なしで覚醒することなんてねえでしゅ」
「そうか、なら……」
寝ている間に謝るのは卑怯だからしない。それでも、頭を撫でるくらいは……
「うわ……寝てる姉の頭を撫でてるでしゅ」
「今はこれくらいしかできないから、ただの自己満足に過ぎないのは分かってる」
「まあ、分かってるならいいでしゅ。それで救われた気になるのはお門違いでしゅからね」
「厳しいな」
「我は締めるところは締めると決めているでしゅ」
「そうか……これからもそれで頼む」
「そろそろ起きる時間でしゅよ」
次起きた時にはもう、馬車に乗った場所に戻っているだろう。にしても起きると記憶がぼやっとするのはどうにかならねえかな。
【自動馬車】
最高級の魔法馬車であり、速さと快適さは他の馬車の追随を許さない。ただし、登録した2点間を移動することに特化しているため場所の設定をしなければ動かない。
鉄の馬は、肉の馬を凌駕した。だが、信じられるだろうか。鉄の馬を凌駕する肉の馬がいるという。鉄の馬はその馬を参考にして作られたとまことしやかに囁かれている。




