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早すぎる邂逅

「くぅ……まさか、我がこのような醜態をさらすことになろうとは」

「悪いな、1発芸で」

「だが、これで良いのかもしれぬ。この場所はもはや緩やかな滅びを待つのみ」

「カカカカカカカ!!!」

「こら、空気を読め」

 

 なんだ、なんか良いこと言おうとしてただろ。ヤタ・デシュに空気を読めというのも無理な話か。にしても、いきなり爆笑なんかしてどうしたんだ?


「そうか……ヤタ、お前の見初めた男か。ならばこの結果は当然というもの、あらゆる阻みをなき物とするお前の止まり木ならばあるいは」

「何の話だ。さっぱり分からん」

「こちらの話だ、ただ共にあれば良い。さて、約束は約束だ。我は動けぬゆえ卵を持って疾く失せるがいい。直に結界も消えよう。古き白翼は消え、新たな翼に生え替わるときだ」

「……お前、このまま死ぬ気か?」

「我は長く生きすぎた、それだけのことだ」

「だからって……」


 全身が総毛立つ、何かとんでもないものが近づいてくる感覚だけがある。でも、これは、まさか、こんなに早く。


「死神が来たか、ここはもう終わりだ。死に物狂いで逃げよ」

「ああ、悪いがそうさせてもらう。これはモタモタしていられる段階をとうに過ぎている」

「護鳥様、卵をいただいていきます」


 卵を抱えたラウンをおぶって全速力でスカイフィッシュを走らせる、俺が出せる最高速だ。それでも外から来るものはもっと早い。なぜなら、それは。


「パチッ、パチパチ、バヂッ」


雷なのだから。


「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 護鳥のいた場所に特大の雷が落ちる。暴力的なまでの音と光が周囲を席巻していく。こんな出力の雷使いなんて1人しか知らない。


「なんで、デーレ姉さんが……!!」

「姉さん?」

「喋るな!! 舌噛むぞ!!」


 いや、そもそも誰かに雇われていたなら護鳥の討伐に動くこともあるかもしれないが。よりによってこのタイミングか。


「運が悪すぎる、雷が落ちたところに姉さんがいるとすると。もう探知範囲内だ」


 護鳥の討伐が目的だとすると、俺たちに目もくれない可能性はあるが。俺の生体電流を完全に覚えているであろう姉さんに捕捉されたことは致命的だ。追いかけられたらどうしようもない。どうする、今から何か手を打てるか。


「やるしかねえ。ラウン、上手いこと生き延びてくれ」

「え、どういうことですか!?」

「説明している時間はねえ、下手なことは言うな!!」


 俺の全身を桜腕で覆う、そして1本の木に擬態する。こんなことでどうにかなるとは思わないが、それでも何もしないよりは良いだろう。


「え、ええ……もしかしてあの雷を撃った化け物がここまでくるんですか。あいたっ!?」

「だ、れが、化け物だ、俺の姉さんだぞ……次言ったら殺す」

「あ、はい、すみませんでした」


 もう来る、あとは祈るだけか。


「パチッ、パチッ」


 身体の表面で電気が弾ける音、姉さんが戦闘モードに入ったときの音だ。


「…………ねぇ」

「ひっ……!?」


 間違いない、姉さんだ。でも、こんなにかすれた声は聞いたことがない。まるで毎日叫び続けて喉が壊れてしまったような……


「あなた、もう1人はどこに行ったの」

「ぼ、ボクは最初から1人でした。もう1人と言うのならこの卵じゃないでしょうか」

「ふぅん……そうなんだぁ。ところで、あなた、私と並んですごくちょうどいいくらいの身長で、とっても愛らしくて、とってもかっこいい人知らないかしらぁ」

「知らないです……そんなすごい人なら忘れるはずありません」

「そうよねぇ……そんな……すごい……弟が……いたのよぉ……」

「弟さん、ですか」

「そう……でももう……いないの……もう……いないの……」

「それは……残念でしたね」

「残念? そんなものじゃないの……もう……どうでもいいの……あの子がいない世界なんて……どうでも……でも……私は幸せにならないといけないから……お仕事だけはしているの……もう……褒めてもらうこともないけれど……もう……頭を撫でてくれることもないけれど……それでも……最期のお願いだもの……ね」

「……」

「ああ、ごめんなさい。貴方は無関係のようね、そう言えば依頼主のホワイトシールド卿に似てるわ。もしかして血縁かしら」

「はい、末席ですけど」

「そう、それじゃあ。お家まで送っていってあげるわあ。安心して、すぐに着くから」

「お願い、します」

「うん、それじゃあ掴まって」

「は、はい」


 バチッ、という音を残して2人の気配は消えた。まさか完璧に誤魔化せるなんて。アルカからもらった腕は俺じゃないからか?


「カァ!!」

「なんだよ、俺を責めるのか?」

「カァカァ!!」

「俺はまだ姉さんに会う訳にはいかないんだ。まだ、俺は強くない」

「カァ!!」

「え? なんだ、手?」


 ヤタ・デシュが生身のほうの手を見ろと言っているようだ。


「……」


 手は真っ赤だった、すぐにでも姉さんに駆け寄ってしまいたい衝動を抑えるために握り込み過ぎていたのか。


「まだ、振り切れてないか……」














【雷神の嘆き】

流れども、流れども尽きぬ泉、塩辛く、そして苦い雫。失ったものはあまりにも大きく、かけられた呪いはあまりにも重く。どれだけの後悔をしても、どれだけの懺悔をしても、どれだけの代償を払っても、けして戻らない。雷神の嘆きが終わったとき、何が残っているのだろうか。

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