雑用金策
「飛べなくなった?」
「ああそうだよ。傷の付き方が非常にまずくてね、片方の羽はもう動かないと思って良い」
「そう、ですか」
「とはいえ護鳥であることには変わりがない、大事にするんだよ」
「あ、はい……」
「カァ!!」
肩に乗ったヤタ・デシュが上機嫌に鳴いた。ここが自分の定位置とでも言うように。
「……護鳥は何を食べるんですか」
「ん? 食べないよ」
「食べない、となるとこの鳥はどうやって生きているんですか」
「そりゃあ、止まり木の生命力を献上しているに決まっているじゃないか」
「ふー、なるほど」
こいつ……転がり込んだうえに俺の体力を吸ってやがるとか、なかなかに図太い野郎だな。野郎かどうかは知らないけど。
「お? 起きてやがるな」
「ああ、門番の」
「稼ぎ口を紹介してやるって言ったろ。これを持って向かいの建物に入れ、そうすれば仕事を仲介してくれる」
「ありがとうございます、で。これはなんですか」
見たところ、カードのように見えるが。
「それは、登録証だ。ここらで働くにはそれが要る。本当なら結構面倒な審査がいるんだが護鳥のツレなら別に構わんだろう」
「本当に良いんですか」
「大丈夫だ、悪事しますってんなら話は別だが」
「しませんよ」
「ならいい」
訂正しよう、ヤタ・デシュは良い鳥だ。俺の体力を吸うくらいなら許すことにする。
「カッカッカッカ」
「笑ってやがる……」
人の言葉分かってんのか?
「さあ、早く行くに超したことはねえぞ」
「はい。ありがとうございました」
とりあえずいっちょ働いて見るか、思えば家では基本的に訓練漬けだったからまともに労働するのは初めてだな。
「すいませーん、仕事あります?」
「ああん? 仕事ぉ? そこに貼ってある紙から好きなもん持ってきな」
「あ、はい。そういうシステムなんですね」
壁には確かに色んな依頼の書いた紙が貼ってあった。できれば、そこそこの危険でリターンをがっぽりいきたいところだが。
「そんなうまい話はねえってな」
どれもこれも雑用だらけ、草むしりにどぶさらい、それにペット探しに失せ物探し、人捜しもあるか。一応高価な依頼もあるにはあるが、なんかもう怪しさ満点な内容だし。
「ん?」
これは、なかなか良いんじゃないか。依頼内容は「密猟者の摘発」らしい。鳥や獣を勝手に捕ってる奴らがいるらしいからそれをまとめてふん縛って欲しいとさ。他よりずっと高い報酬だし、それに経験にもなるだろう。
「どんだけ密猟者が強くても、あのデカブツよりは弱いだろうし」
「その依頼か。それは複数人でやる依頼だけど良いかい? 同じ依頼を受けている奴が3人いるよ」
「あ、そうなんですか。大丈夫です」
「そうかい、なら準備しな。依頼の日付は今日の夜だよ」
「分かりました」
「ちゃんと帰ってくるんだよ」
「はい」
荒っぽい感じかと思ったら、思ったよりも良い人が受付だったな。
「さて、夜まで時間が空いちゃったな」
特にすることもないし、また寝るのはもったいない。となると、するのは散歩くらいしかないか。
「町中でいきなり飛ぶわけにはいかないし」
この町を見て回るのも良いだろう、白盾の街っていうだけあって白い町並みは目新しくて綺麗だ。あと全体的に四角いシルエットが多いな。
「なにか、面白いものはと」
屋台とかはあるが、金がなぁ。
「あ、あの!!」
「ん? 俺?」
「はい!! その肩にいらっしゃるのはもしかして護鳥様では!!?」
「え、ああ。そうらしいな」
「初対面で、とても厚かましいお願いだと思うのですが!! 護鳥様の絵を描かせてはもらえませんでしょうか!!」
いきなり話しかけてきたな、見たところ絵描きの少年って感じか。
「別に良いが、金はないぞ?」
「むしろボクのほうが払いたいくらいです!! いえ、払わせてください!!」
「いやいや、貰うのは流石に気が引ける。そこでどうだ、屋台のメシを奢ってくれるくらいがちょうど良いと思うんだ」
「わっかりました!! 好きなだけお食べください!!」
「……もしかして、結構お金持ちだったり?」
「ハハハ、ナンノコトダカー」
「ああ、分かった。詮索はしないよ」
どう見ても叩けばホコリの出る感じの反応だったが、ここでこいつを問い詰めても何の意味も無い。
「じゃあ、お言葉に甘えていただきます」
「どうぞどうぞ、ここの屋台はどれも絶品ですよ」
さあさあ、美味そうなものを片っ端から買って貰ったぞ。今すぐ食べようじゃないか。
「カァ♪」
「なんだ嬉しいのか、そりゃそうだろうな。俺が食ったもんがそのままお前の栄養になるんだ」
「はぁ、はぁ、護鳥様がこんなに近くに」
うーん、食事の風景を猛烈にスケッチされている。奢られた手前それを咎めることはできないが、なかなかに居心地が悪いな。
「ああ、なんて美しい御羽、鼻血出そう」
「……あんまり無理をするなよ」
「へへ、無理なんてしません。ボクは今最高に幸せですよ」
恍惚の顔をしながら手が別の生き物のように猛烈に動いている。なかなかキモい。
「さあ、予算はボクが出しますから最高の一日にしましょう!!」
「ん?」
「日が暮れるまで逃がしませんからね!!」
「……引っかかっちゃいけない奴だったか」
【白盾の街】
大いなる盾に寄り添う小盾の1つ、白き盾の意味するところは汚れぬ誓い。




