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止まり木

「すみません、知りません」

「まあそうだろうな」


 護鳥も知らないのに、止まり木だけ知ってるわけはないもんな。名前からだけ推測するなら護鳥の使い手みたいな感じなんだろう。もしくは巫女的なやつか。


「止まり木というのは、まあ護鳥に選ばれた者の事だ。その、選ばれた者は英雄になるというのが大筋なんだが、お前は、違うような気がするな」

「はは、そりゃあそうですよ」

「でも、さっきの護鳥は確かに本物だったんだが」

「そもそも私は傷ついた鳥にぶつかられただけなので」

「あー、そういうことか。なるほど、得心がいった」

「分かっていただけてなによりです」


 英雄っていうガラじゃあない、それでも英雄と並び立つくらいの強者にはならないといけないんだ。まだまだ足りないな。


「とはいえ、護鳥の命を救った事には変わりない。お前の滞在は許されるだろう。ようこそ、白盾はくじゅんの街へ」

「ありがとうございます、これで野宿せずに済みそうです」

「はは、それは良かったな。とは言えないかもしれないぞ」

「え、どうしてですか」

「いや、だってお前、金持ってないだろ」

「一応手持ちはこれくらい……」

「あー、やっぱりな。見覚えのない身なりからなんとなく察してはいたんだが、その貨幣は盾王の領地では使えないぞ」 


 まさか、経済圏が丸々違うのか。


「え、両替とかは」

「できねえなぁ、使えない金をわざわざ替えてくれる物好きな奴はそうそういねえだろうよ」

「……そうですか」

「まあ、今日の宿くらいは面倒を見てやっても良い。その後は自分で稼ぎな、稼ぎ口は紹介してやるからよ」

「ありがとうございます……頑張ります」

「はは、じきに慣れるさ。とりあえず今日はここで寝ればいい、明日になれば護鳥も元気になってる」

「分かりました……とりあえずもう寝ます」

「そうした方が良い」


 ふー、先立つものはどんな時も必要か。冒険やら修行の前に金策をしなくちゃならないなんてな。それもまたやむなしだ。稼がなければ、明日の宿にも困る身になってしまった。


「あー、なんか、どっと疲れが、出てきたような、気が、する」


 この、眠気、は、なんか、異常、な。


「嗚呼、汝は我が片翼となりて、悠久の空を」

「耳元で囁かれるとくすぐったいんだけど」

「ひぇっ!?」


 おかしい、さっきまですげえ眠かったはずなのに、今は全然そんなことない。耳元にいた奴は俺が言葉を発した事によほど驚いたのか腰を抜かしたらしい。白い服を着た、白髪の女、白すぎて目がチカチカするくらいだ。誰だこいつ、寝込みを襲っていないから敵ではなさそうだが。


「な、ななな、なんで起きてるでしゅか!!」

「知らないよそんなの」

「ここは人間の夢に干渉できる存在しか認識できないはずなのに」

「ん?」


 なんか、剣のアルカが震えている。この剣が今の状況を作り出したのか。いや、これどっちかと言えば殺気とか敵意に近い雰囲気を感じるぞ? これ、もしかしてアルカがこいつを敵認定してる?


「で、俺を眠らせて何がしたかったんだ。事と次第によっては、荒っぽい手段を取る事もあるかもしれない」

「え、違いましゅ。ちょっとした恩返しというか、ちょっとした運命の演出といいましゅか」

「……どういうこと?」

「じ、実はその、我は、先ほど助けていただいたカラスでしゅ、なーんていったら信じましゅ?」

「いや、無理がある」

「ははは、まあそうでしゅよね」

「じゃあそういうことで、起こしてもらっても良いかな」

「ああっ、待って欲しいでしゅ!!」

「えー」

「これだけは聞かせて欲しいでしゅ、飛べない鳥は無価値でしゅか」

「飛べない鳥?」

「そうでしゅ、走れない馬や泳げない魚と言い換えても良いでしゅ」

「無価値、かもしれない」

「っ……そうでしゅか、汝も……そう思いましゅか……なら……もう……」

「それなら走る鳥になればいい、泳ぐ馬になればいい、飛ぶ魚になればいい」

「は、走る鳥!? そんなのデタラメでしゅ!!」

「できないことを数えるより、デタラメでもできそうな事を考えるほうがずっと良いだろ。それを実現しないと、とても届かない存在だっているんだ」

「汝の中にいるそれは、とてもつもない存在なんでしゅね……」

「ああそうだ、とても勝てない。それでも勝てるようになりたい」

「……走る鳥でしゅか、ふふ」

「笑うなよ……自分でも言ってて恥ずかしいんだから」

「ふふふ……本当に面白い。あ、これで本当に最後でしゅ。我の名を持っていって欲しいでしゅ!!」

「え、まだ何か」


 うわ、視界が、ぐるぐるする、やば、これ酔う。


「うえ、気持ち悪い……最悪の目覚めだ」


 頭がガンガンするし、吐き気もする、二日酔いか? 酒飲んでないのに? 


「……? ヤタ・デシュ?」


 なんだ、頭に直接ぶち込まれたような言葉の羅列。聞いたこともない名前だ、ん? 名前? なんでこれが名前だと思ったんだ?


「カァ!! カァ!!」

「うおっ!? なんだよ」

「おお、これが奇跡か!! さきほどまで生死の境をさまよっていたというのに」

「え、こんなに元気なのに」

「君がさっき呼んだんだろう? その護鳥の名を」

「え、ヤタ・デシュ?」

「カァ!! カァ!!」

「めっちゃつついてくるんですけど!?」

「元気な証拠じゃないか!!」


 この医者……他人事だと思って……!!






【ヤタ・デシュ】

マジあり得ねえんでしゅけど、正気の沙汰じゃねえでしゅ、なにをとち狂ったら我の名前をそういう風に受け取るんでしゅか、耳を疑ったでしゅ、そんな奴とこれから一緒にいなきゃいけない我の身にもなって欲しいでしゅ。

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