デカい虫を料理するするには、デカい火が要る
「考えろ。俺から出る火力じゃ、あのデカブツはどうにもできない。つまりはよそから攻撃力を調達するしかない」
「ニンゲン、キライ、ツブス」
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」
めちゃくちゃ突進してきた!!? 予想できた攻撃ではあるが……迫力がえげつない!!
「走れ走れ走れええええええええええええええええ!!!!! こんなところで死んでたまるかぁあああああああああああああああああああああああああああ」
「ツブレロ、ツブレロ、ツブレロォオオオオオオオオオオ!!!!!!!」
走ってるだけで災害みたいな奴だな!!? つくづく俺の手には余る敵だな!!! っていうか、走ると腕が痛え!!
「くそが!!」
壁に阻まれる前に90度の方向転換をする。これで壁に激突してくれるような馬鹿ならまだ良いんだが。
「ツブォ!?」
「良かった!! こいつ結構馬鹿だ!!」
「ニンゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!!」
「うっさ!?」
身体から蒸気をあげて怒ってやがる。これ多分運動性能上がってる奴だな。
「ガチン!! ガチン!!」
歯をガッチガチ鳴らしてまあ、そのせいで俺が壁だと思ってたものの正体が見えてきたぞ。
「ここの壁全部根っこか、それこそ大樹の根なんだろうな」
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「あと何回避けられるか……それが問題だな」
正直言ってあと何回も避けられるようなコンディションじゃない。3回が限度といったところだろうな。
「それまでに、こいつを倒さないと俺がミンチになるってわけだ」
俺が取り得る手段は今のところ1つだな。手順はこうだ。
①俺がデカブツの攻撃を避ける
②デカブツがキレて歯をガッチガチ鳴らす
③デカブツの歯から火花が散る
④歯にくくりつけた繊維が燃え上がる
⑤近場の根へと炎を伝播させる
⑥丸焼き☆
「どんなに上手く事が運んだとしても厳しいだろうなぁ……それでも狙うっきゃねえ」
成功したら成功したで俺も死ぬんだが、それくらいになったらアルカが助けに来てくれてると信じるしかねえ。それ以外にも失敗パターンがあって。
①そもそも避けられない
②歯に繊維をくくりつけるとか無理
③そもそも根が燃えない
みたいな感じになった瞬間に俺の勝ち目はなくなる。
「ま、やるしかねえ」
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
2度目の突進、やっぱりさっきよりも速い!!
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
足がちぎれそうだ、腕も痛え、それでも動きを止めるわけには、いかない。
「こ、こで!!」
「グガ!?」
ギリギリ、躱せたか。根に激突して怯んだ瞬間は口が開いている。
「ほらよ!!」
ほぐれたままの繊維を投擲する、上手く口に投げ込めたと思うが。
「引っかかってくれよ……」
「ニンゲェエエエエン!!!!」
「よし、口から糸引いてやがるな」
牙にまとわりついてくれたようだ、繊維のもう片方は根の方に接するようにした。あいつの暴れ具合によっては切れちまうかもしれないが。
「ガチンッ、ガチンッ!!」
「来た!!」
火が付いてくれよ。
「グルルルル……」
流石に1発とはいかないか。
「ツブレロォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ああっクソ!! さっきよりも速い!!!」
回数の見積もりが変わって来た、今回で体力を使い切っちまうぞ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
動け、俺の身体、痛みは無視しろ、限界は忘れろ、明日動けなくとも良い、今を生きられれば、それで。
「かっ……!?」
膝が、折れ、動かない、なぜ、もう無理、なのか。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
真後ろ、デカブツ、距離、無い、俺、死、少しの火。
「ん? 火種?」
俺が繊維に僅かに着いた火を認識した瞬間だった、突然デカブツ頭の辺りが爆発した。
「ウゴオオオオオオオオオオオオ!?」
「な、なんだ……いまの」
へたりこんだ地面が異常にサラサラしていることに気づく、さっきまではこんなに砂はなかったはずなのに。
「あいつの白いのって、蒸気じゃなくてなんかの粉だったのか。鱗粉か?」
粉塵が可燃性だったから、口の近くで一気に爆発した? 高速で走ったから火の粉が余計に舞ってか?
「は、ははは、捨てたもんじゃねえな。俺の運も」
どっと身体から力が抜ける、今までの無理が一気に襲って来たな。でも良い、あんな爆発が口の近くで起きて無事な生き物なんていねえ。俺が生き残った、俺の勝ちだ。
「……おいおい、動いてんだけど」
大きく破損したはずの身体はいつの間にかサナギのようになっている、俺の認識が正しければサナギは次の形態へと移行する段階のはずだ。
「羽化、するのか」
「キィエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!! ニンゲエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!」
白く、大きな、先ほどまでの醜悪さはなく、美しいとさえ思う、蛾と龍の間のような姿、漂う鱗粉は淡く桃色に輝き、そして炸裂する。
「は、ははは、どーすっかな」
【囓る者の王・蝶王装】
地を這い、根を囓るのみの彼の者に残された最期の可能性。空を飛び輝く鱗粉をまき散らす様は夢物語の一幕のごとく。ここに彼の者の真なる姿は示された、失われた伝承にうたわれし空飛ぶ光輝の再来。遍く者よ、頭を垂れよ王の御前である。




