風の去った後始末
「ただじゃ消えなかったな」
腕についたスレイプニルを見る、いずれはこれの試運転もしなくちゃな。とはいえ、これがそんなに変わったように見えない。
今回は戦闘後に倒れることもなかったからこのまま試しても良いかもな。
「やってみるか」
これまでだいたい戦闘後はぶっ倒れてたからな。時間と余裕があるのは初めてだ。
「シンちゃーん!!」
「うわっ!?」
雷が弾ける音と共にデーレ姉さんが突っ込んできた。勢いが半端ない。
「すごかったね!!」 上からドーンって!!」
ああ、今まで気づかなかった。姉さんは俺にぶつかる瞬間に全ての加速を止めて俺にかかる負担を限りなくゼロにしていたのか。かなり繊細なコントールだ。
俺って気を遣われていたんだなぁ。
「姉さんが時間を作ってくれたからなんとかなったよ」
「うん……お姉ちゃんは時間稼ぎしかできなかった」
「え?」
あ、これはマズいな。ネガティブに舵を切ってしまった。
「まともに攻撃できたのはシンちゃんだけで、お姉ちゃんは怯ませることもできなかった」
「それは単純に持ち物の違いだよ。姉さんが賢者の石の武器を持ってれば俺の出る幕なんてなかったろうし」
「ううん。そうじゃないの、今ここでお姉ちゃんにはそれがなかった。それが全てなの。無い物ねだりは意味がないもの」
「姉さん……」
「だから、お姉ちゃんは」
「待ちなさい」
「母さん!?」
戻ってくるの早いな!?
少なくとも丸一日はかかる距離だったと思ってたけど。
「デーレ。あなたが言わんとしている事はわかります。賢者の石を探しに行くと言うのでしょう?」
「うん。シンちゃんと一緒に戦うために」
「よろしい。そこでいじけているラァも連れて行きなさい」
「……ぶつぶつ、ラァは役立たず……ラァはいらない子……ぶつぶつ……何もできない子……」
うわあ、凄いいじけ方だな。
下手したら年単位で行きそうなくらい。姉さんと一緒ならなんとかなるだろうけど。
「行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
雷鳴と共に姉さんが飛んでいく、抱き抱えられたラァの首がガクンガクンしてる気がするが気のせいだろう。
……まあ、鞭打ちくらいならナイチンゲールですぐに治せるだろうし。
「それでは母も行くとしましょう。鍛えがいのある弟子もいるようですし」
うわ、ファスカだ。と言う事はつまり吹っ飛ばされた先からファスカを回収しつつここまで戻ってきたのか。移動が早すぎるぞ俺の母親。
「肉体性能だけに頼ってはすぐに限界が来ます。それをたっぷりと刻み込んであげましょう。きっと次に会う頃には見違えていますよ」
「うぐぐ……」
あ、なんか大人しいと思ったら、動けないんだ。母さんの当て身で半日動けないコースだな。
ご愁傷様だ。母さんと2人で修行なんて死ぬより辛い目にあわされるからな。
「マレちゃん。一緒に行ってもいいかな?」
「何を言っているの? ジッ君が離れることを許した覚えはないけれど」
「うん。そうだね、ずっと一緒だよ」
2人の世界に入ってしまったか……こうなるとしばらくは帰ってこないな。
「ふむ、これで私の役割も終わりかな」
「陛下。ご助力ありがとうございました」
「なに。私がいなくても倒せたさ。少し時間がかかったかもしれないが」
「この御恩は必ず」
「前も言ったが、これは私の借りを精算したに過ぎない。恩など感じなくて良い。だが、実は頼みがあるのだよ」
「なんでしょう」
「この書状なんだが、あの風の怪物が来る少し前に届いた。それだけならまだいいのだが、差出人が問題でね。見たまえ」
「……剣王カリバーン」
「そうだ。その剣王が君に会いたいと言っていてね。この老人の顔を立てると思って行ってはくれないか。とても重大な要件らしい」
「なるほど。いつかは会わなければならない相手ですからちょうどいいぐらいです。喜んで行かせていただきます」
「ありがとう、ではまた会おう。次に会う時にその力がこちらを向いていないことを願うよ」
しかしまあ、剣王か。
いい噂しか聞かないのが逆に不気味だな。一応保険はしておこうか。




