巨木の村5
昨日咲かせた白い花は、ドクダミだということがわかった。ドクダミは乾燥させてお茶として飲むと薬として使えるらしい。売れるかどうかは別として、初めて商品に出来そうなものが育てられてうれしかった。
これで街で暮らすことに少し近づいたわ。
弾むような足取りで湖のほとりに向かう。今日はシルクは来るかしら。
しばらくドクダミを見つめていると、
「フローラ、早いな。」
「シルク。おはよう。」
いつもより早いみたい。
「今日は早いのね。」
「そうか?」
「昨日のドクダミね。乾燥させるとお茶になるらしいの。もう少し育てたらお茶にしてみようと思っているのよ。」
何かを考え込んでいたシルクが、慌てて、
「あっ、あぁ。そうだな。」
あれ?聞いていなかったのかしら。
シルクは、何かを気にして、辺りをキョロキョロと見回している。
「どうしたの?シルク。」
「いや、なんでもない。」
どうしたんだろ。
「私ね、虫は苦手だけど、蝶は好きになれるかもって思ってるのよ。だって、幼虫のときは草花を食べるけど、蝶になれば花粉を運んでくれるでしょ。でも、虫はダメね。苦手よ。」
シルクは変な顔をして笑った。
「そうだな。フローラはフローラらしくていいな。」
これでも、蝶の精霊のシルクに思いの丈を伝えたつもりなのだ。
「だかな、フローラ、もうここに来てはダメだ。いますぐ帰った方がいい。」
険しい顔で言うシルクは遠くを睨み付けていた。
「え?」
「村に帰るんだ。」
「どうして?今来たばかりでしょう。」
シルクはフローラの肩を押して、村の方へ向かわせようとしている。以外と力強く、押されるがままに村に向かっていく。
私が変なことを言ったからかしら。シルクは怒ったのかしら。ちゃんと友達になりたいって言えば良かったかしら。
シルクの押す力は強く、村に向かって進んでいく。
「あのね、シルク。私ね、」
村が見えてきてしまった。
「フローラ、もう帰れるだろう。後は一人で帰るんだ。まっすぐ帰って、家の中にいるんだよ。明日から、湖に来てはダメだ。」
背中をポンと押されて、その勢いで数歩よろめいた。急いで振り返るとシルクはもういなかった。
なぜ?せっかくお友達になれると思ったのに。私、怒らせちゃったかな・・・。とぼとぼと歩いていると、すぐそこに見えている村が恐ろしく遠く感じた。
湖に来てはダメだ。昨日のシルクの言葉が耳に残っていた。
そのことを延々と考えていたら、いつものように湖に着いていた。
何故嫌われてしまったのだろう。昨日の会話を何度思い出しても、原因はわからなかった。
確かに回りくどい言い方をしたけれど、嫌われるような言い方だったかしら。
咲かせたドクダミを眺めていると、木々のざわめきとは違う音がした。シルクが来たときはほとんど音がしない。だれ?顔を上げると、体の大きな男3人が現れていた。小汚い格好をして、腰に下げたサーベルがガチャガチャと音を立てていた。
「これは、いいぞ。高く売れそうだ。」
男の一人が卑しい笑い方で言うと、
「上物だ。傷つけるなよ。」
「わかってるよ!」
「お嬢ちゃんには悪いがなぁ、暴れない方が身のためだぞ。痛い思いはしたくないだろ?俺たちも傷がついたら安くなっちまうからなぁ。」
ニタニタと笑う口元からは、牙のような犬歯がのぞいていた。尻尾がはえているものもいる。
運動能力で動物系の精霊にかなうはずもなく、気がついたときには三人の男に囲まれていた。
「誰か、助け…!!シルク!!」
たいした抵抗も出来ないまま、あっという間に捕まっていた。