巨木の村4
ここ最近のフローラの日課は、湖に行きカタバミを咲かせて帰る。相変わらずカタバミしか咲かせられないのだが、練習だと言い聞かせ同じことを繰り返していた。
その間にシルクには3度会った。
1回目は、フローラがシルクに気がつくと、シルクは逃げるように森の中に戻ってしまった。運動があまり得意ではないフローラは追いかけるのを諦めた。
2回目は、フローラが気付いても逃げては行かなかった。少し近寄ってきたので、当たり障りのない話をした。
3回目は、フローラがカタバミを咲かせた後だった。進歩がないことにがっかりしていると、シルクは何か言いかけてやめた。その後は何か悩んでいるようでほとんど話すことなく帰っていってしまった。
今日もシルクは来るかしら。たくさん話すわけでも何か特別な楽しみがあるわけでもなかったが、シルクと顔を会わせることがちょっとした楽しみになっていた。
木の葉が揺れる音がして、パール色の髪をなびかせたシルクが現れた。
「あっ、シルク!おはよう!」
「おはよう。フローラは元気そうだな。」
「私はいつでも元気よ!相変わらずだけどね。」
指差した地面には、一面に三つ葉と小さな黄色い花が広がっていた。
それを見て、なぜか固い表情のシルク。そのあと、ゆっくりと口を開いた。
「種ができるときにはなんの植物か決まってしまっているから、種ができるまでを気を付けるんだ。」
「え?」
何を言っているのか理解できなかった。カタバミしか咲かせることが出来ないことについてのアドバイス?私みたいな数多の精霊は珍しいはず。もしかして、シルクは…
「よく見てて。」
近くにある草を二本摘み取ると右手と左手に持った。右手の方を見ていると、力が集まるような感じがして、細長い形の卵ができて草の上にのっていた。次に左の草をじっと見つめる。クリーム色の丸い卵がついていた。
シルクは右と左、交互に力を注いでいるようだ。右の卵は割れると小さな青虫が出てきて、少しずつ大きくなっていき、緑色の小さなサナギができていた。左の卵からは黒と白のまだら模様の毛虫が出てきて、ドンドン大きくなり大きな緑の幼虫になるとガッチリしたサナギになった。しばらくすると、小さなサナギから、黄色い小さな蝶が、大きなサナギからは、黒い大きな蝶が生まれて、ヒラヒラと飛んでいった。
「わぁー!!違う蝶が生まれた!!シルク、すごい!!シルクは蝶の精霊だったのね!!」
確かに卵のときには形が違っていたことに驚いた。一度に違う蝶を育て上げたシルクにも驚いた。シルクが蝶の精霊だったことにも、それをフローラに見せてくれたことも驚いた。司る生物を教えるということは、能力も弱点も教えてしまっていることになるのだから。
あまりに驚いたため、口をパクパクさせていると、シルクが複雑な顔をしていた。
「フローラは、そろそろ慣れてきただろうから、一番最初を気を付けるんだ。見たことのあるものの方が作りやすいけど、聞いただけでもできないわけではないらしい。」
少し苦笑いして、
「私は見たことがないと上手くいかないがな。」
「見たことあるもの。見たことあるもの。」
フローラは、日当たりのいいところを見渡して、白い花をを指差した。
「これ、できるかしら。」
「葉っぱの作りや花のつきかた、出来たら根のはりかたまでしっかり観察するんだ。覚えたらそれを強くイメージしながら力をこめるといい。」
「わかったわ。」
葉っぱの葉脈の形から花びらの形、観察できることは観察した。できるかどうか心配だったが、観察した植物を強く意識して、力を込める。
生命の核が出来たら成長を促すように力をこめる。何度も落胆した三つ葉ではなく、堅そうなハート型の葉っぱが生えていた。白い花びらの中から黄色いふさふさが飛び出している。十分成長するまでエネルギーを注ぐと、シルクのほうを振り返る。シルクは穏やかに微笑んでいた。
「シルク。ありがとう!一人では出来なかったわ!」
勢い余って抱きつきそうなのフローラの両肩を押さえて阻止しながら、
「よかったな。」
「シルクのお陰よ。」
白い花を見たり、シルクに色々な形でお礼を言ったりとはしゃいでいると、シルクが心配そうな顔で辺りを見回していた。