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グランデールの街29

 ほとんどの時間、花畑ではしゃぐフローラを眺めていた。結局、フローラは家につくまでボスを離さなかったのだ。あれだけフローラが気に入っていると、もうジルを怒る気にもなれない。

 今は、ジルと共に呼び出された家に向かっている。ボスの姿はもうない。

 街の中心部。大きなお屋敷の立ち並ぶエリア。表門ではなく、裏門にまわる。表の門から中に入ることはできないのだ。

 ひときわ大きなお屋敷の裏に回り門に近づくと、ちょうどよいタイミングで門が開いた。中に入り、門を閉めると、

「ライ、お待ちしておりました。ジルもよく来ましたね。」

 昔、壁に囲まれたこの家でよくジルと駆け回っていた。家の裏口に向かいながら話しかける。

「クロトさん、お久しぶりです。」

 長身でスタイルのよい昔と変わらない姿があった。この豪邸の主の友人で、警備の責任者をしている。今日も腰には愛用している細身の長剣がぶら下がっていた。

「お父様が大変楽しみにしておられましたよ。」

「父親って言われてもですよ。育てられた記憶も無いし、あの人がそう言っているだけでしょう。クロトさんが俺の父親だったらって、今でも思いますよ。」

 優しそうな雰囲気のあるジルの父親が、よく面倒を見てくれた。

「何をおっしゃいますか。では、向かいましょう。」

 父親に対して文句を言う俺を咎めるわけでもなく、優しく促す。

 久しぶりに入った家は昔と何も変わっていない。隅々まで掃除が行き届いていた。趣味のよい調度品と異国感漂う観葉植物の間を抜けて、客間として使っている部屋に向かう。その部屋は少しだけ壁が厚くなっていて、家の敷地外からではいくら耳のよいものでも盗み聞きが出来ないようになっているのだ。

「ジルは後で呼びます。ここで待っていてください。」

 ジルの聴力を知るこの家の主が隣の部屋で待たせると言ことは、盗み聞きをしてもよいと言うことだろう。ジルに目配せすると、軽く頷いた。

 軽くノックをすると返事があった。

「失礼します。」

「あぁ、ライ。そこに座りなさい。」

 小柄な男が、豪華な装飾のある布張りの一人がけソファーに座っていた。ここで反抗しても仕方が無いので、おとなしく言われたとおりに座った。

「最近は、どうだ?」

「今日のご用件は、何でしょうか?」

 聞かれたことを無視して、話をすすめる。

 分かりやすくしぶい表情をするが、俺には関係ない。

「今日は頼みたいことがあってな。北で異変が起こっている。解決してくれないか?」

「北?なんとかしろと?」

「あぁ。体調不良を訴える住人が相次いでいるらしい。もう自警団には話を通してある。ジルは街の警備に残るという条件でお前の長期休暇の許可を得た。頼んだぞ。」

 もう自警団には話がついているらしい。いつもそうだ。俺の了解も得ないで話が進んでいる。

「あなたは、いつもそうですね。私が断ることができない状況を作り上げてから頼む。それは頼むのではなく命令ですよ。」

 自警団に話が通っているということは、自警団も解決した方がいいと判断したということだ。街の外のことなので自警団を派遣することはできない。自警団としてではなく、個人的に解決して欲しいということだろう。

 自警団側は俺が承知していて、長期休暇の話が来たと思っているのだろう。もし、俺が行かないとわかれば、他のものを個人的に派遣することになり、解決までの時間と手間が大幅に増えることになりかねない。

「こうでもしなければ、お前は行ってくれないだろう?」

 確かにその通りなのだが、親とはそういうものなのか。

「わかりました。が、しばらく顔も見たくありません。」

 勢いよく立ち上がってドアに向かう。部屋から出る直前に、

「いい報告待っているぞ。」

 顔も見たくないと言っているだろう。報告など来るものか!

 重厚なドアを乱暴に開けると、乱暴に閉める。だから、この家に来るのはいやなのだ。なるべく早く敷地から出てしまいたい。門を出ると急に空しさが大きくなりトボトボと住む部屋に帰った。



 ここは親の仕事場でありすむ場所であり、遊び場だった家だ。お腹が減ったらどこでつまみ食いができるかまでわかる。幼い頃、ところ構わずかくれんぼをして怒られたり、観葉植物の葉っぱをもぎ取って踊っていて怒られたり、ライと遊ぶのは本当に楽しかった。

 隣の部屋では簡潔に用件が伝えられて、案の定ライが怒ったらしい。

 部屋の外を大股で歩くライが通り過ぎていった。しばらくすると、

「ライはもう行ったかね。」

「敷地は出たようです。」

「ジルを呼んできておくれ。いや、俺が行こうか?」

「すぐに呼んできますので、お待ちください。」

 少し慌てた声と共に父の足音がする。

 聞こえているのだ。こちらから向かおう。

「あぁ、ジル。聞こえていてよかった。」

 よかったのか?まぁ、気にしないことにした。

「お久しぶりです。おじ様。」

「おお!!よく来たな。ジル坊~。」

「おじ様もお元気そうで何よりです。」

 昔、おじ様は愛称で読んで欲しがったのだが、ライの手前私が愛称で呼ぶわけにはいかないと思い、何とかおじ様で定着させたのだ。

 抱きつかんばかりに近くに来て、頭をワシャワシャと撫でる。

「ジル~。大きくなりよって。座れ座れ。」

 そんなに身長は変わっていないと思うのだが。

 椅子まで引っ張っていかれ座らされる。頭を撫でやすくなったようだ。

「ライが冷たいのだ~。」

 私に接するようにすればよいのではと思うが、口にしないことにした。

「教育係として、申し訳ありません。」

「ジル坊のせいじゃないさぁ~。私は子供の教育は自分達でするべきだったと反省しているんだ~。」



 私は幸運なことに、出先で私の誕生に運良くで会えた両親に、連れて帰ってもらえた。

 その頃から私はこの家にいて、おじ様は恐ろしく可愛がってくれた。

 あまりその頃のことは覚えていないのだが、おじ様は自分の子供が欲しくなったらしい。

 自然のエネルギーが不足しているこの街では、新しい精霊の誕生は稀で、旅行に出掛けエネルギー豊かなところで運良く出会えることに賭けるか、養子をとることがほとんどである。

 ほとんどの場合は旅行に賭けるのだが、お金のあるおじ様は養子を選んだらしい。事業がうまくいっていたおじ様は、お金に糸目をつけずその事業を継げる力を持った精霊を探した。教育係をつけ、一番できのいい子供に事業を譲ると宣言したらしいのだ。

 その頃、奥さまとは教育方針の違いで対立してしまい、同じ建物に住んではいるのだが、仲は良くない。


 私が覚えているのはここら辺からだ。ライはおじ様の末っ子で、うちに来たときには本当に生まれたてだった。もとの親の記憶がある兄弟もいて、彼らは寂しさと不満が募ったらしいことから、それは幸運だったと思う。私の両親や私が交代で面倒を見て、ライが人の形にまで成長したときには本当に嬉しかったことを覚えている。

 一緒に遊べる弟ができたことも嬉しかった理由のひとつだ。

 あまりに喜ぶ私を見て、おじ様はライの遊び役と教育係は私に任せるといった。教育係は何をすればいいのかわからなかったが、一緒に遊べることがただ単に嬉しかったのだ。

 家の中で、かけっこをして、かくれんぼをして、怒られ、庭で力比べをして、あまりに騒ぐのでまた怒られて。

 父さんに剣術を教えてもらっていた私は、ライにも教えて、二人で競うように力をつけていった。

 ライが自分の置かれている状況に気付き反発しはじめて、家を出たときは一緒に家を出て近くに住むことにしたのだ。


 他の兄弟については、教えられていなくてわからない。ただ、悪い噂を聞いたことはある。唯一おじ様の住む家で成長することができたライでもあんなに反発しているのだ。親の愛情も知らず、ましてや教育係が金に目が繰らんでいるとしたら……。おじ様は力で圧力をかけられても闘える、強さのある精霊を子供に選んでいるのだ。教育係の力を越えて、手がつけられなくなっていてもおかしくはない。

 おじ様のライへの執着はそこら辺の理由もあるのだろう。

 素直にはなれないらしいが……。


「そういえば、最近ライには仲良くなった女性がいるとか?」

 女性というか、まだ少女なのだが、おじ様の情報網は侮れないな。

「ジル坊~。おまえにはいないのか~??」

「わ、私ですか!?」

 急におじ様の方が見られなくなり、天井を見て、窓を見て、最後に父さんを見ると、父さんは仕方がなさそうに助け船を出してくれた。

「これからしばらく、ジルは街の警備に専念するのですよね。」

 おじ様はさっきのライとのやり取りを思い出したらしい。オヨオヨと、また嘆き始めた。

 そんなおじ様を父さんが慰め始めたので、今のうちに失礼することにした。

「おじ様、失礼いたします。」

「おお、ジル坊。また、来るんだよ~。」

「はい。」

「ジル、すまないが、戸締まりは他のものを探してくれ。」

 父さんはおじ様を慰めるのに忙しいらしい。

 昔の記憶と聴力を頼りに、使用人を探しだし、しばらく昔話に付き合い、戸締まりを頼んでおじ様の家を後にした。

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