巨木の村2
空気が澄んだ少し寒い朝、さえずっていた小鳥が鳴くのをやめ、身を潜めた。
森の奥から落ち葉を踏みしめる小さな音がして、華やかな印象の少女が姿を見せた。背中まで伸びた金髪の上には大輪の花が咲いている。花びらの形が一枚一枚違っているだけではなく、色も一枚ずつ違っているようだ。全体的にピンクのミニドレスは裾の部分だけ若葉のような黄緑色をしていた。
少女は毎日同じくらいの時間に訪れては、地面に向かって何かしゃべりかけたり、湖のほとりで休んだりしているようだ。
「はぁ~。また、カタバミだぁ。」
自分の力でカタバミを咲かせることが出来てから、休むことなく湖のほとりに来ている。
初めの頃は、花が咲いたり咲かなかったり、日によっては芽の出ない日もあったのだが、最近は毎日のようにカタバミを咲かせられるようになった。カタバミを咲かせられると言うより、カタバミしか咲かないのだ。
家にいるおばばに咲いた花を持って帰っていたが、初めは大喜びしていたおばばも、記念にと作っていた押し花が十を超えた頃、
「他の花も咲かせられるはずなのだけれども。私は数多の精霊じゃないから、どうしたらうまくいくかも教えられないし。」
と小さな声でつぶやいていた。
おばばをがっかりさせたくないけれど、ここまでカタバミしか咲かせられないと本当に数多の精霊なのかと疑ってしまう。頭に咲いている大輪の花が、数種類の花からなっていることで、おばばはフローラのことを数多の精霊だと判断したそうだ。見た目は明らかに数多の精霊なのに、カタバミしか咲かせられないなんて。
可憐な見た目のとは裏腹に強い繁殖力でどこにでもはえる植物なのだが、だからこそ咲かせることが出来てもお金に換えることが出来ない。せめて花束を作れるような花を咲かせることが出来ればと思っているのだが、小さな三つ葉からは黄色い小さな花しか咲かなかった。
カタバミの花を横目に、湖の浅瀬に引っ張ってきた丸太の上に座って、足先を水面につけてピチャピチャしていた。
「今日は、花を摘んで帰るのやめようかしら。」
おばばをがっかりさせたくない。
毎日同じ花を持って帰ることと、何も持って帰らないことと、どちらがおばばをがっかりさせるのだろうか。考えに没頭していたら、いつのまにか小鳥のさえずりが止まっていた。