巨木の村9
おばばと万じいは、指輪を贈るような関係だったからこそ、起こったことにお互い責任を感じてしまったのだろう。責任を感じながら、お互いのことを思い合って生活していたのだろうか。関係を修復する、もしくは二人だけでそっと幸せになる道はなかったのだろうか。
「私からも聞いていいかしら。」
指輪を大事そうになでているあかねが言った。
「あなたは、万作の子なのかしら?」
あかねは優しい顔をしている。
「私は、万じいに拾ってもらったのです。」
拾ってもらったという表現にあかねは不思議そうな顔をした。精霊としてはまだ幼いフローラには難しい話が多かったようで何かをブツブツつぶやいたり、考え込んだりところころと表情を変えていた。
「フローラ、精霊は自然の力が集まってきて生まれるけれど、ちゃんと愛情のあるところに生まれることは知っているかな?」
「私はおばばの家の近くだったみたいだけれど、カップルの元に生まれてくることが多いんでしょう。」
「そうだな。私は万じいの近所で生まれたわけではないんだ。はっきりは覚えていないけれど、どこか別のところで生まれて捨てられたのだろう。」
二人が息を飲む気配が伝わってきたが、私にとってはもう過ぎたことなのだ。
「私は、虫の力を宿す数多の精霊だから、生まれたときの姿は様々な虫が混ざり合い、さぞグロテスクだったのだろう。気がついたときには一人だった。どうしたらいいのかわからずに走って走って走って、かなりの距離を走ったんだ。走りすぎて疲れ切ってどうすることも出来なくなったときに世界に助けを求めたんだ。近くに人はいなかったし、声にはなっていなかったと思う。それを万じいの使いの子が見つけてくれたんだ。万じいは好んでトンボを使いに使っていたから。」
「万じいは自分のことを悪く言うことが多かったけれど、万じいは物知りで色々なものを実際に見せて教えてくれた。私は万じいに拾ってもらえたこと、育ててもらったことを誇りに思っているよ。」
あかねに微笑みかけると、あかねも穏やかに笑った。
「あなたも大変だったのね。万作のことを誇りに思っていてくれることが嬉しいわ。万作が自然にかえるときまで、あなたがいてくれたことを感謝するわ。」
「うーん。うーん。」
フローラが頭を抱えながら唸っている。
「フローラには、難しかったな。」
優しく頭を撫でながら、話しかけると、
「シルクもおばばも今は幸せ?」
「あはは。そうだな。」
「私は幸せよ~。」
あかねが優しくフローラを抱きしめた。
「よかった。」
満足そうなフローラを見て、あかねが切り出した。
「楽しくおしゃべりしたいところだけれど、私からお願いがあるの。」
「なんでしょうか?」
「あなたも万作の小屋に一人なのよね。フローラと一緒に街に行ってくれないかしらね?フローラの足ではものすごい時間がかかってしまうから、大変なことを頼んでいるのはわかっているの。でもフローラは、まだ出来ないこともわからないことも多いから、一人で行かせるわけには行かなくて。」
フローラは出来ないことが多いと言われ、少しムッとしたようだ。
「私は、あかねさんにこれを渡せたので、ここでやり残したことはありません。万じいにも言われていたことなので、フローラと共に向かってもいいと思っています。」
少しムッとしていたフローラは、顔を輝かせて、
「シルク!一緒に行ってくれるの?」
「あぁ、でもフローラは特訓しないとだなぁ。」
「とっくん?大丈夫よ!」
昔の話で沈み混んだ雰囲気が、フローラの明るさで吹き飛んだ。
その後は楽しく話した。フローラにどんなことを特訓したらいいのか話し、15日後に出発する約束をした。