The bell bought in a festival day (鈴の記憶)
ポケベルにつけた鈴がきれいな音をたてた。
もう十年以上の前のことなのに、この鈴だけはどんな時も一緒だった。
小さい鈴なのに、きれいな音色をたてた。
ベルの音でもなく、鈴の音だった。
寸胴型がたではなく、球ののパチンコ玉くらいの鈴だ。
どんな雑踏の中でも、この鈴の音だけは聞き取ることができた。
それは、真理愛が他人からもらった初めてのものだった。
あの日はめずらしく、祖父が真理愛を縁日につれていってくれた。
街には、人があふれてアーケードは出店であふれていた。
夜なのに、真昼のように電球が輝いていた。
真理愛は、町のざわめきに圧倒された。
こんな世界があるとは知らなかった。
見るものが初めてで、珍しかった。
祖父に手を引かれながら、人込みを歩いた。
港のほうに歩いていく道で、夜空に花火があがった
人波があふれて、祖父の手を放してしまった。
言い知れない恐怖が、真理愛を襲った。
人込みの中で押されて、転んでしまった。
思わず手をついてしまった。
その時誰かの手が、真理愛の手を取った。
思いのほか、強く手を引かれて立ち上がった。
その手は、ゆっくりと道の端に引っ張っていった。
「だいじょうぶ」
とその手の主がいった。
その方向に、目を向けると真理愛とそう変わらない野球帽をかぶった男の子がいた。
真理愛は頷いた。
あたりは花火の大きな音と人々のどよめき声があふれていた。
「迷子が」
と男の子がいった。
真理愛は、首をふった。
「どうした」
と真理愛を覗き込んだ男の子目は、澄んでいたがどこか暗い気がした。
キラキラしているというなく、どこかあきらめたような目をしていた。
「じいちゃんとはぐれた」
「まいごしゃないか」
男の子は、真理愛の手をとめと歩き出した。
「どこにいくの」
と真理愛は心配そうに男の子に尋ねた
「おまわりさんのとこ、まいごのときはおまわりさんにいったらいいの」
と男の子は答えた。
暫く歩くと、交番の前に来た。
交番の前は、多くの人たちがいて、真理愛ぐらいの子供たちも数人いた。
男の子は、交番の前にいるおまわりさんに話しかけると、真理愛をおまわりさんの前に押し出した。
年配のおまわりさんは、真理愛を見ると怪訝そうな顔をした。
真理愛は、その顔は見慣れていた。
おまわりさんは、真理愛の名前と住んでいるところを聞かれたので、素直に答えた。
祖父の名前も聞かれたので、そのまま伝えた。
交番の前で待っているように言われたので、道を挿んだ出店の横に座り込んだ。
なんとなく悲しくなって下を向いていると、目の前に白くて丸いものが差しだされた。
「やるよ」
とさっきの男の子が、円筒形のアイスキャンデーを真理愛の前に差し出していた。
真理愛が迷っていると無理やり真理愛の手にアイスキャンデーを持たせた。
バーには暑さに負けたのか、アイスクリームが解けていた。
真理愛は慌てて、アイスクリームの下をなめた。
男のが微笑んでいるのが見えた。
真理愛は、すこし落ち着いた。
「だいじょうぶだよ、はなびがおわったら、ほうそうしてもらえるから」
と男の子は言った。
真理愛はアイスクリームを口含んだままで、うなづいた。
練乳の甘さが口に広がっていた。
ビルの隙間から、大きな音と一緒に花火が見えた。
その時、風が強く吹いた。
真理愛の横の出店の入り口あったkeyフォルダーを売ってる場所から鈴の音が聞こえた。
真理愛は導かれるように、鈴の場所なった場所に立った。
そこには、フックにかけられた、金色に光る鈴あった。
真理愛はそれを手に取ると、耳元で鳴らしてみた。
澄んだ鈴の音が、花火の爆音の中てもはっきり聞き取れた。
真理愛は何度も鈴を鳴らした。
どこかで、聞いた音。
ずっと昔に・・・
でも思い出せなかった。
鈴を鳴らすたびに、真理愛は退行していった。
そうだ、いつも近くの神社から流れていた神楽の鈴の音だと気づいた。
真理愛から不意に鈴が取り上げられた。
「おじさん、これいくら」
と真理愛から取り上げ鈴を男の子が、掲げていた。
「ああ、150円だ」
と店の親父がいうと、男の子は、半ズボンのポケットから100玉と50円玉をだしておやじに手渡した。
そして、鈴のkeyフォルダーを真理愛の手に握らせた。
「くれるの」
という真理愛の問いに男の子は頷いた。
「ありがとう」
と真理愛は素直によろこんだ。
初めて人から、家族でない他人からもらったものだった。
花火か終わると、アケードのスピーカーから、迷子のお知らせが流れた。
血相をかえて、小走りに来る祖父を見つけると真理愛は祖父に向かって走り出した。
そんな昔なのに、真理愛はまだあの日を覚えていた。
あれから、あの男の子には会えなかった。
施設にいれられた真理愛には、会うすべがなかった。
せめて名前でも聞いていればおもったけど、あの時は、そんな余裕もなかった。
祖父の顔を見たとたんに泣き出してしまったからだ。
幼いころ、祖父だけは優しかった。
なぜか祖母は、真理愛に無関心だった。
祖父だけは、真理愛に声をかけてくれた。
だが、祖父が病気で入院すると、だれも真理愛に話しかけることはなかった。
家の中にいても、いないように扱われた。
そんな時は、あの男の子に買ってもらった鈴を耳元で鳴らした。
そうすると、あの時の情景が思い出された。
ほどなくして、祖父は死んでしまった。
まだ、五十代後半なのにあっけなくいってしまった。
後で聞いたのだが、祖父は学徒動員で、戦争中に長崎にいたことがあるらしく、その時に原爆の合い、それ以降体の調子が悪かったらしかった。
もう40年以上も前のことなのにと思った。
祖父がなくなり、母親が再婚するので、真理愛は施設に行くことなった。
なんとなく、自分の居場所がないことを感じていた真理愛は、施設にいくことを拒まなかった。
小学校に行っても、真理愛は特別な目で見られた。
"施設の子"・・・
"ハーフ"・・・
"あいの子"・・・
うすうすは気づいていた。
自分が周りの子供たちとは違うということに、肌は浅黒く瞳は大きく漆黒だ。
髪は母親譲りなのか、さらさらとした髪だ。
手足はすらりとして長く、体は引き締まっていた。
幼児体系ではなかった。
街を歩くと、外国人に英語で話しかけられた。
中学に入ると、背の高さは男子を頭一つ抜いていた。
運動部に誘われたが、施設の小さな子のお守りもあるので入部しなかった。
自分のルーツが知りたくて、英語の勉強を必死にした。
米軍のラジオが流れる曲を覚えながら、訳したり歌ったりした。
自然と英語が身についてきた。
街で話しかけられても、ある程度の意味はわかった。
平和だったのは、中学までで、高校に入ってからは、母親との生活でバイトだらけだった。
幸い英語が話せたので、船が入った時は客にマリーンが多かったので重宝された。
それからは、今の生活だ。
真理愛は、窓の外を見つめた。
今日は、お月さまの日だ。
雨が降っていて、アパートの窓から見える道路に店のネオンが映っていた。
「会いたいな」
といって、ポケベルで額をつついた。
鈴が優しくなった。
秋生は今日は大村の工場で夜間の作業だといっていた。
ベルも打てないし、返ってもこない。
真理愛は鈴を指ではじいた。
ひとりほせっちのアパートに鈴の音が優しく響く。
いつもの、真理愛の癖だ。
ひとりの時に、こうして鈴をならす。
古来より鈴には邪気を払う力があるとといわれていると何かの本で読んだ気がした。
幼いころに住んでいた祖父の家の近くには神社があって、神楽鈴が鳴っていた、下から七個、五個、三個になって三段の輪状に鈴が付けられていて、「七五三鈴」とも呼ばれていて、鈴の音で邪気を祓うとされていると聞いた。
鈴が突然なった。
ポケベルのバイブで鈴が震えていた
表示には、11014 とあった。
真理愛は急いで、1階の公衆電話に向かった。
鈴が弾んだ音色で鳴っていた。