表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Renion Bridge (再会橋、再び出会う場所)  作者: 池端 竜之介
7/24

Fireworks(花火)

今回は真理愛の視点で書いてみました。昭和から平成に移る時代ったこんなのありましたね。

 真理愛は、帰っていく秋生の後ろ姿を見ながら、必死に追いかけたい衝動を抑えていた。

アパートの階段に腰掛けて、ぽーしとしていた。

初めての気持ちだった。

男なんて、みんな同じだと思っていた。

男の下で、数をいつも数えていた。

甘い言葉をかけるやつもいた。

でも、みんな目的あってのことだ。

男が、真理愛自身をものとしてしか見ていなかった。


 "あの人は違った"


一度にあった時は、なんとなく同じ匂いを感じた。

二度目にあった時は、確信した。

きっと、同じ風景を見ていた人だと。

言葉を交わさなくても、目を見ればわかった。

独りで生きてきた人の目だった。

まっすぐに相手の目を見て、視線を外さない。

相手が自分をどう思っているのか、だましているのか、だまそうとしているのかを白とする目だ。


真理愛も、そうして相手を見てきた。

そうしなければ、生きてこれなかった。


真理愛には、父の記憶がなかった。

70年代前半、ベトナム戦争の中、基地で働いていた真理愛の母は、マリーンの兵士と恋に落ちた。

そして、真理愛を妊娠した。

だか、真理愛の父親は、ベトナムで戦死してしまう。

真理愛の父親は、妊娠の事実を知らないままに、戦死した。

ここは、基地の街だ。

そんな話は、日常だった。

真理愛の母親は、帰るはずもない父を待ち続けて、そして戦死を知った。

そのころには、中絶もできずに生むしかなかった。

真理愛は私生児と生まれた。

このままでは、無国籍となるので、母親の家の養女とされた。

 やがて、母親に新して恋人ができて、真理愛を残して家をでた。


 "ハーフ"や合いの子などとさげすまれた時代た。

やがては、施設に引き取られて、中学までいて、何故か中学2年の夏に母親が迎えに来た。

久しぶりに会った母親は、ひどく疲れていた。

まだ、三十代後半なのに、四十代後半に見えた。


母親の結婚相手は、当初は優しかったらしいが、事業に失敗してから人が変わったようになり、母親に、暴力をふるい、それがもとで流産してしまい、それがもとで子供も産めなくなったそうだ。


真理愛は、いまさらと思ったが、泣いて謝る母親に何も言えずに、母親と暮らすことになった。

母親も嫌気がさして、結婚相手とは別居していた。

女が独りで生きていくには、また゜世間は厳しく夜街で母親は働くしかなかった。

それでも、少しずつ働く母親をみて、真理愛は心を許していった。

だが、それも長くは続かなかった。

正式に離婚していなかった結婚相手が、多額の借金を残して消息をたったのだ。

慎ましくも平穏な家族の生活は、一変した。

連帯保証人にされていた母親は、毎日借金取りに追われた。

真理愛も例外ではなかった。

高校生になっていた真理愛は、高校2年の冬に学校を辞めた。

中卒の真理愛を雇ってくれるのは多くなかったが、それでもいくつも仕事をかけもって働いた。

いつも、母親は"ごめんね"と口癖のように言っていたが、その母親も疲れたのか店で知り合った男と、蒸発した。

ひとり取り残された真理愛には、どうしようもなかった。

借金を肩代わりする代わりに、真理愛は今の店で働くことになった。

ただ、それだけの話だ。

3年の約束だ。

それで終わる。

真理愛は、それでよかった。

そのかわり、誰も信じない。

甘い言葉も、プレゼントも受け取らなかった。

その事象のあとの代償が欲しいだけだから。

来る日も、来る日も1階にある店と2階にあるアパートの往復だけの生活。

けっして、監禁されているわけではないけれども、バンス(借金)があるから逃げられない。

そして、逃げる場所もなかった。

意外と、店は居心地がよかった。

アパートは4人で共同だけれども、寝るだけだから気にはならなかった。

母親とと暮らしていたころのアパートより暖かく、内風呂もついていた。

ご飯もあり、小遣い程度の金ももらっていた。

めんどい客は、それなり人で対処できた。

とうぜん、誰がやっている店なのか知れていたから、大きな騒ぎはなかった。

一度、真理愛にぞっこんの自衛隊の客がいたけれども、転勤するとこなくなった。

真理愛も少し、その客には心を動かされたけれども、店のお姉さんが"情にほだされたらだめだよ"

と言ってくれていた。

この仕事は、出会いの場所ではないのだということだ。

40分程度の時間で終わる、そんな場面を切り取った時間、記憶に残ることもなく、会話さえ不要な時間の過ごし方。

そんな街の灯の中で、真理愛は生きてきた。

父親や母親を恨んではなかった。

あるとすれば、ボタンの掛け違え、戦争がなければ、真理愛を妊娠していなければ、母親が結婚相手を間違わなければ、すべてが掛け違え。

 

 すべてをあきらめていた。真理愛の周りは空虚な空間があるだけだった。


そんな真理愛の間合いにスッと入ってきた人がいた。

そよ風のように吹いてきて、たまっていた淀んでいた空気が徐々に入れ替わっていく、秋生と会うたびにそう感じた。

 あの日、満天の星空中で、あの空間だけが世界にたった二人だけが存在していると感じた。

はじめて、男の人の胸に飛び込んだ。

ひとの温もりがこんなにも心地よいものだとは知らなかった。

こんな自分でなければ、抱いてほしいと思った。

あの時の真理愛には、秋生の腕の中にいるだけでとても暖かく幸福を感じた。



酷く蒸し暑い日、今日は花火大会で、人通りも多かったが、店が混みだしたのは、花火か終わってからだった。

ラストの客が終わって、店の終わると、暗かった店の中が一斉に明るくなり、店のボーイが一斉にかたずけをしだした。

真理愛もかごに溜まったおしぼりを抱えて、店の裏の洗濯機に向かった。

年配のボーイ長が


「なんも、姫がせんでもよかよ」


といった


「いいえ、なんかせんと落ち着かんとよ」


と真理愛は言って、洗濯機におしぼりを入れて洗剤を入れタイマーをまわした。

暫くして、洗濯機のブザーがなったので、洗濯槽から脱水層におしぼりを移してタイマーをまわした。脱水が終わると、二層式の洗濯機の上にある乾燥機におしぼりを入れて弱で2時間のタイマーをまわした。


「いつも、ありがとうな」

とボーイ長が、コーラーの瓶を真理愛に渡した。


真理愛も礼を言って受け取った。


ボーイ長は、煙草に火を付けて


「姫がここにきて、2年か」


といった。真理愛もうなづいた。


「最近、姫は表情が柔らかくなったね」


とボーイ長は意味深に言った。


 「今日は、花火大会だったから忙しかったね。もう何年も花火なんて見てないな」


とボーイ長はしみじみ言った。

真理愛ももあ何年も見ていなかった。


一度子供のころに母親と見に行った記憶があった。

夜店を見て回ったことがあった。

カーバイトの灯がまぶしかったことをおぼろげに覚えていた。


「好きな人でもできたんか」


ボーイ長は、聞いてきた。


真理愛は素直にうなづいた。


 「店が終わってから、会っているあいつか」


とボーイ長が少し笑って言ったときに、ポケベルがなった。


 "1871"


と表示されていた。


 「明日も仕事あるから、遅くならないように」


とボーイ長はウインクした。

本来は、店外のデートはご法度だ。

何故か、いつもは厳しいボーイ長が目こぼしをした。

その時は、秋生に会えることで頭がいっぱいで気づかなかった。


真理愛は、薄手の上着を着ると店の公衆電話からベルを打った。


 "0106"


 すぐに秋生は来た。

 秋生の車を見つけて、助手席に素早く乗り込んだ。

 秋生は、SSKバイパス方面に車を走らせて、石岳動植物園を過ぎて海岸へと車を飛ばした。


 「花火大会しよ」


と秋生はいって、トランクからは花火セットを出してきた。

 

白浜海水浴場の駐車場には何台か車があったが、真理愛と秋生は浜辺まで走り出して、誰もいないところで、花火に火を付けて、幼稚園の子供のようにはしゃいだ。


 波の音と、花火のはじける音そして、花火の七色の光が真理愛と秋生を照らした。


 そして、二人を優しく見守るように オリオン座が光っていた。

ポケベルの 0106は待ってる  11014は会いたいよ です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ