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Renion Bridge (再会橋、再び出会う場所)  作者: 池端 竜之介
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Nostalgic light(懐かしい匂い)

諸事情で長らくかけませんでした。やっと書く気になりました。

 タクシーを降りると、むっとした熱気がまとわりつく。

アーケードの入り口でタクシーを降りた、秋生はうんざりしたようにため息をつくと煙草に火を付けた。

 秋生の後ろでは、数人の男が肩を組んで叫んでいる。


 今日は、長期出張の打ち上げた。

秋生が勤めている会社は、工場の機械のメンテを請け負う業種だった。

だから、主に九州全域に顧客があり、遠くは海外まで、1か月から2カ月の出張があった。

けっこう長期の出張はきついが、給料はよかった。

もっとも、作業環境は、世間が休みの休日や夜間の作業がほとんどなので、やめていく社員も多かった。そりゃそうだろう。彼女ができても、そうそう会えるわけでもなく。結婚しても肝心な時に旦那はいないと来ている。そうなれば、愛想をつかされるのは、時間の問題。

秋生の同僚は極端に若いか、相当の爺である。

でも、秋生はこの仕事が、嫌いではなかった。

機械相手の仕事だか、機械はメンテをしてやれば゛必ず答えてくれた。

もう寿命かなと思っても、部品を変えればまた、同じように動いてくれた。

なんとなく、それがうれしかった。

会社の同僚は、みんなの男ばかりで、味気はないけれども、なんだかんだで中はよかった。

今日も会社の近くの居酒屋で、打ち上げをしたあとで、誰が呼んだかタクシーに乗って、繁華街までくりだした。

もちろん、色町だ。

だだし、この県には厳しい条例があり、その手の類は隣の県までいかないない。

それでも、出会いのない男たちは、夜の店に繰り出す。


「秋生、今日は付き合えよ。いいとこ知ってるから」


と班長のおっさんが肩を組んできた。

この人は、離婚歴のある人だが、嫁さんに浮気されたとかで未だに独身だ。


今日は出張の一時金が入ったので、みんな懐は温かった。


夜店通りの、けばけばしいネオンの中に、班長に無理やり連れ込まれた。

店の中は、異常に暗く、大音量の音楽が流れていた。


班長は、出迎えたボーイに何か話して


「まっ楽しんでこい」


といって、店の奥から出できた女性に手を引かれてハイパックのソファーに消えていった。


秋生も、何故か懐中電灯をもったボーイに案内されてボックス席に案内された。

暫くすると、おしぼりかごを下げた、薄着の女が現れた。


床に手をついて


 「いらっしゃいませ」


と挨拶して顔をあげた。

テーブルキャンドルが、女の顔を照らした。

秋生は、どこかであった気がした。

女は、秋生の横に座るとしなだれてきた。


「飲み物頼んでもいい」


と女がぶっきらぼうにいった。


「ああ、いいよ」


と秋生は答えた。


女は、手をあげてボーイを呼んだ。

すぐにボーイがきて、女が耳打ちをした。


ボーイは、ロングのカクテルを持ってきた。


女は、テーブルの上のボストンクラブと書かれたウイスキーの瓶を傾けて水割りを作りコースターの上に置くと上半身に羽織っていた上着を脱いだ。

キャミソールが店の照明でなまめかしく映った。

ようやく、秋生はここがどんな場所なのかわかった。

横に座った女が、秋生の首に手をまわして、頬に軽くキスをした。

甘ったるい香水の匂いが秋生の鼻をついた。


「よせよ」


と秋生は女に行った。

女は驚いて、秋生から離れた。

秋生は、グラスのウイスキーを飲み干すと


「ごめん 俺 こんなの慣れてないんだ。だから 何もしなくていいよ」


と秋生は静かにいった。


「ごめんね 気悪くした」


と女も静かに謝った。


「そんな店としらなくて入ったんだ。お茶引かせたね。」


「そんなことない。私もホッとしてる」


といって女は、カクテルに口をつけた


「へんだろ、こんなの客」


「そうね、初めて。」


といった女は寂しそうに笑って、初めて正面から秋生を見た。

ミラーボールに、ときどき照らされた大きな瞳に記憶がよみがえった。


「・・・真理愛?」


という秋生の声に女はビクンと体を震わせた。


「どこかで逢ったことある」


「西海橋で」


真理愛もうなずいた。


「スカイラインの」


「そう」


「不思議、また会えるなんて」


「そうでもない、この街は狭いんだよ」

と秋生は、頭をかいていった。


たわいもない話が、秋生と真理愛の間で流れた。


「ローズさん、そろそろラストの時間です」


とマイク放送が響いた。


「時間だって」


と真理愛が秋生の手を握った。ひどく冷たい手だった。


「わかった。」


といって秋生も真理愛の手を両手で包んだ。

真理愛は秋生の耳元で


「店 2時までだから、外で待っててくれない」


とささやいた。

時計を見ると、11時を過ぎていた。

秋生はうなずいた。


「夜店どおりの交番の前で」


といって、真理愛は秋生の手をとって、出口まで案内してくれた。


しばらくすると、班長が出できた。


「楽しんだか」


と聞かれたので、あいまいにしていると


「若い子を頼んだぞ。おばさんでも来たのか」


「いいえ、すごく若い子でした」


「そりゃよかった。俺はもう一軒いくけど、お前はどうする」


「ラーメンでも食べて帰ります」


「そっか、じゃ」

といって、班長は、山県方面へ消えていった。


秋生は、酔い覚ましに自動販売機から、コーヒーを買ってタブを剥いで、手に持っていた。

ぼんやりと、ガードレールに腰掛けて人と通りを見ていた。


船が入っていないのか、マリーンの姿は少なかった。

もっとも、船が入るとこの街は様変わりする、町にはマリーンがあふれて、まるで外国に来ているように感じることがあった。

もっとも、そういう時は、危ないので夜の街にはでないし、Yナンバーの車にも気を付ける。


そして、この街の人たちも、気にもしない。

もともと、旧日本海軍の基地があったところだ。

なれっこらしい。

意外と、他人に干渉しない気質がここにはあった。

だから、秋生も生きてこれたのかもしれない。


夜の街は、秋生は好でなかった。


物心着いた時から、この街のネオンが、ざわつきが記憶に残っていた。

白粉の甘い匂い、煙草のにおい、ウイスキーの香りがまじりあう中で育った。


ときどき買ってもらう、顔ぐらいあるハンバーガーが記憶に浮かんできた。


目の前をユニホーム着たセーラーたちが大声をあげながら歩いている。


なんとなく、この街の明かりが、秋生にとっては落ち着くのだ。

夜の街は好きでもないのに、何故か懐かしさ覚えてしまう。


何本目か煙草の後、不意に甘たるい香りがした。


目の前に真理愛が立っていた。


「ほんとに待っててくれたんだ」


と不思議そうな顔でいた。

秋生はすかっり酔いの冷めた顔で、頷いた。


「お腹すいた。ラーメンが食べたい」


と真理愛は秋生の手をとった。


秋生は立ち上がり、真理愛と手を繋いだ。


真理愛の黒く大きな瞳が何故か潤んでいるように見えた。


真理愛の手は、今はほんのりと汗ばんで温かった。


秋生は、思い出していた。懐かしい灯と母親の香りを、懐かして風景。

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