At night of a drizzle.(霧雨)
煙草が切れた。
外は、雨が霧雨のように降っている。
台風の後、急に残暑が収まって夜になると結構冷えてきて、朝方は半袖では寒いくらいだ。
アパートから、煙草の自販機までは結構ある。
エルジンのクロノは、夜の10時半を指している。
秋生は、パーカーに袖を通すと、車のキイを掴んで財布をポケットにねじ込んで、アパートの外に出た。
ほんとは、オイルの温度が上がるまで暖気するのだが、近場だしエンジンをまわすこともないので
サイドブレーキを解除して、ブレーキを踏んで、エンジンをかけた。
一発始動、会社のバンのようにチョークを引かなくてもいいのは楽だ。
夜中なので、吹かさずに静かに車をだした。
エアコンの摘みを、回してフロントの曇りを消した。
自動販売機まで、前で車を止めて、ラッキーストライクを買った。
秋生はふと、このままドライブしたいなと思った。
明日は、月曜日だか今日は昼まで寝ていて、眠くはない。
シガーライターを押し込んて、ポンと戻ってきたところで、煙草に火を付けて一口吸った後に、ギアを入れて、国道に出た。
さすがに、混んではいなかった。
そのまま、道なりに車を走らせた。
ガソリンのケージは、満タンよりひとメモリ減っていた。
燃費は、無茶乗りしなければ、9kmくらいだ。
65リットルのタンクは、満タンでほ8千円くらい入るで結構痛かったが、2400回転から聞き始めるターボーが、3000を超えるとドッカンターボーになるという快感がたまらなかった。
6気筒でないため、GTの冠はないけれども、2,000CC未満なので税金も安かった。
ソアラの2.8リッターを買ったやつは、5月の税金時期は真っ青になっていた。
日宇のバイパスを超えて、早岐方面に走らせ時にふと、西海方面の標識が目に入った。
本来なら、夕方の西海方面はサンセットロードとして有名なのだが、夜は夜で別の意味で有名だ。
道行く横には、たくさんのネオンで、佐世保方面や長崎方面から車が流れる。
残念ながら、車命の秋生はまだ経験がない。
それどころ、工業高校での秋生は彼女がいた経験もない。
もちろん、童貞である。
職場の先輩たちには、揶揄われるがさして気にしてはいない。
FRのタイヤではウェットの路面では滑りやすいので、クラッチのつなぎ方はややソフトにした。
アクセルもゆっくりと踏む。
もっとも、3速の800回転でもノッキングすることなく加速はできた。
トルクが大きいせいだ。
5速でもゆったりと走れた。
軽自動車ミラターボやアルトワークスのように忙しなくシフトチェンジしなくてよかった。
早岐からハリオ方面に抜けると、民家が少なくなり田んぼが開けていた。
ヘッドライトには、稲穂が照らし出されていた。
ヘッドライトのバルブは、イエローバルブに変更していた。
普通に流して、やや緩いのぼりから下りに移り、西海橋という標識が目に入った。
ギアをセカンドにして、エンブレして、ブレーキを踏んで左にターンシグナルを下げた。
雨は、霧のように降っていた。
肌寒くもなく。心地いいとさえ感じた。
パーキングの奥のトイレの前で、秋生は車を止めてハンドブレーキを引いた。
keyをひねってエンジンを切ったが、ターボタイマーの3分のLEDが光っていた。
高温のままだとオイルが回らずにタービンが傷がつくからだ。
これをやらないと、オイル上がりから、タービンからオイルが漏れて、マフラーから黒煙を吐くターボー車が多かった。
秋生は、エンジンのかかったまま車のドアを閉めて、自動販売機まで歩いて行った。
缶コーヒーのボタンを押した。
駐車場には、何台かの車が止まっていた。
マークⅡに、チェッイサー、ソアラ、ファミリアとか、そうそうプレリードもあった。
秋生は、自動販売機の横のベンチに座って煙草に火をつけた。
軒が出でいたので、雨は凌げた。
駐車場にいる車のほとんどはカップルといってもいいと思われた。
時間も時間だ、別れを惜しんでいるか、これからの予定なのか、いずれにしろ秋生には関係のないことだ。
また、明日から仕事だと思うと少し憂鬱になるが、人間相手の仕事ではないので神経が参ることはない。
車のドアが乱暴に閉まる音が響いて、大きな声が響いた。
ほどなく、タイヤが軋む音が聞こえた。
痴話げんかと思ったが、煙草を吸い終えて車に戻った時、違和感があった。
車の横に人影かあった。
「この車、君の?」
とひどく落ち着いた女の人の声が響いた。
「ああ、俺のだよ」
と秋生は、答えた。
薄暗い外灯に照らされ、霧雨のカーテンの中に、チェック柄のシャッツワンピースと赤いミュールとワンレングスの女性の姿があった。