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I in Stein  作者: Middle Book
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序章:就職と小包

「―――それでは次のニュースです。昨日午後6時頃、辰平丘(たつびらおか)公園内でプラスチック爆弾を大量に所持した男5名が意識不明の状態で倒れていると通報があり、警察はこの男5名を爆発物所持容疑で現行犯逮捕しました。内1人の高添正博たかぞえまさあき容疑者は今日辰平丘市内で開かれるバザー会場に爆弾を仕掛ける趣旨の計画書を保持しておりテロの疑いがあるとして警察が取り調べています。」

物騒な世の中だと思いながら井出崎(いでさき)市に住む大学生、蔦川樹つたがわいつきはバターを塗った食パンを口に運ぶ。辰平丘と言えばここから数十キロほどの市で行こうと思えば行ける距離だ。今日で大学を卒業する樹にとってあまりいいニュースとは言えなかった。

食事を終え、鞄を背負い、玄関を出て、鍵を閉める。バイトをしながら1人マンション暮らしをして6年、慣れた手つきで一連の流れを済ませ家を出る。電車に乗って通っている大学である英鋒大学(えいほうだいがく)の最寄り駅へ行きそのから15分ほどで大学だ。大学近くに来ると学生の姿も増えてきた。「うわっ、あの人がこの大学の問題児で居眠りカラスって言われてる蔦川先輩だよ。」「やめなよ、本人の前で。」「大丈夫大丈夫、聞こえてないって。あの人授業に起きてるのが最初の10分だけであとはずっと寝てるのにテストの点は満点近いから賢いのに言葉が通じないカラスって言われてるんだよ。カラスもようやくこの学校からいなくなるのか〜。」「ほんとにやめなって。」女子生徒が話しているが樹の耳には届かなかった。樹は早足に登校する。

卒業式も予定通り終わり、これから就職だ―――と言いたいのだが樹は就職先がまだ決まっていない。もちろん就職活動はしっかりとしているのだが尽く面接で落ちている。なんで落ちているのかは理解していた。自己アピールのとき、どうしても頭が真っ白になってしまうのだ。その結果卒業までズルズルと就職先が決まらなかったのだ。今日も午後から会社の面接があるから今度こそ受からないと無職になってしまう。重い足取りで家に帰る樹だった。

――――――

「あなたの名前、年齢、出身大学はどこですか?」10数人いる面接官の中から眼鏡をかけた小太りの男が聞いてくる。「蔦川樹と申します。年齢は24歳、英鋒大学工学部、システム学科です。」「ありがとうございます、ではなぜ私たちの会社をえらんだのですか?」小太りの男が続けて聞いてくる。「御社の開発する車がとても低燃費で尚且つ乗り心地も良く、私もそのような車を作る仕事がしたいと思い御社に就職したいと考えました。」準備しておいた文章を答える。「ではあなたの長所をお答えください。」予想通りの質問が来た。考えておいた言葉を思い出そうとするが、形になった途端霧散してしまう。「えっとですね、、、私の長所は、、、えーっと、、物覚えが良いところです。」考えておいた物と全く違う答えになってしまった。「―――はい、ありがとうございます。それでは次に―――」このあともいくつかの質問が来たが自己アピールの部分で落とされてしまっただろう。面接室を出た樹はガックリと首を落とした。こういう日は好きな物を思いっきり食べて眠るに限る。帰りにコンビニで唐揚げを買って帰ろうと会社を後にする。最近になってようやく暖かくなってきたので厚着の人と薄着の人が混在する交差点を渡ってコンビニに入る。お気に入りのからあげちゃんレッドを買い、早々に家へ帰宅する。鍵穴に鍵を入れて捻り、ドアを開く。「ただいまー。」帰宅の言葉を部屋に投げかけるが一人暮らしなので当然言葉は帰ってこない。

リビングルームにあるテレビの電源を入れ、冷蔵庫から冷やしておいた麦茶をコップに注ぎ、皿の上にからあげちゃんを広げる。テレビでは夕方のニュースが流れていた。

「―――それでは次のニュースです。昨日逮捕された5人組の爆弾所持グループのリーダーとされる高添正博容疑者が、口元をマスクで隠した金髪の女性にスタンガンで襲われたと供述しており、現場近くの防犯カメラを確認したところそのような人物は写っておらず、当時酒を飲んでいた高添容疑者が幻覚を見た可能性が高いとの事です。」今朝のニュースの続きだ。金髪の女性にスタンガンで襲われる幻覚なんてアニメや漫画の見すぎでは無いだろうか。麦茶を一口含み、番組をバラエティにする。

―ピンポーン。チャイムが鳴った。今日より前に受けた面接の結果だろうと考えながらドアを開ける。ドアの前には20代だろうか?栗色のショートボブの髪型をした女性が有名な配達業のユニフォームを着て立っていた。「お届けものです。」そう言い20cmほどの小包を渡してきた。「ありがとうございます。配達ご苦労さまです。」配達員に礼を述べてから荷物を受け取る。「いえいえ、それでは次の荷物がありますので失礼致します。」足早にマンションのエレベーターへ配達員は向かって行った。ドアを閉め、リビングルームに帰りそこでハンコを押していないことを思い出しはっとして部屋から出るが配達員の姿はなかった。配達先は蔦川樹宛となっており正しいので先に中身だけ確認しておこう。ハサミで小包に貼られたテープを切り、中身を確認する。中には白色のカードと手紙が入っていた。白色のカードにはバーコードだけが印字されておりそれ以外には何も書いていない。不思議に思いながら手紙の封を切る。中には街の市の郊外の1点を指す地図とペンで殴り書きされたような字体の文で書かれた紙切れが入っていた。

「ここに来い。仕事がある。」

新手の宗教勧誘だろうか、こんなもの早く捨ててしまおう。そう思いゴミ箱に紙を捨てようとしたところで樹の目が見開き手が止まった。紙の裏には人物名が書いてあった。

蔦川陽(つたがわよう)

呼吸が出来なくなって苦しくなる。樹が高校を卒業して数週間後に姿を消して行方不明となっていた樹の父の名がそこには書かれていた。


初投稿です。感想等頂けたら作者のモチベーションが上がります。よろしくお願いします。

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