その名はギエン
第2セクターの橋の前は、黒煙と火柱が立ち込め、戦車が空を舞う。
馬型のアッシュが、脳天にそびえる二本角に赤い因子の血脈を形成して、突っ込んでいく。
正面から迫る光景は、さながら隕石が大気圏で熱を纏っているようで……。
その一撃は、容易に戦車を吹き飛ばし、空気の爆発は共々兵士を襲っていく。
「俊敏すぎる! アレで逃げられたら私たちじゃあ追い付けない⁉」
「足を狙う! アリス⁉」
「分かってる!」
光弾が直線に前足を捕え、『バイコーン』は姿勢を崩した。
突進は止まるが、明確に自分の敵を見据えて、更に強く因子の力を角に集約させる。
「来るかっ⁉」
風を切る音が鼓膜を不快に振動させる。
暁は刀を構えて、避けられる間合いで地面を滑り込む。同時に足の筋肉繊維を剥ぐために。
しかしバイコーンは、途端に地を跳ねて刃を飛び越えた。
空を舞う、エミを狙うために。
『…………っ!』
回避が、間に合わない。
アリスが相手へ狙撃を試み、エミが至近距離で銃口で迎え撃とうとしたその瞬間――。
バイコーンの頬に、拳がめり込んだ。
「あ、れ……は⁉」
スコープ越しで、アリスは援護を忘れ去る。
バイコーンの悲鳴が天から引きずり降ろされ。
そして介入者は、静かに――人々の俄然で堂々と立ち構える。
深紅の炎を瞳として宿し――。
援は、彼らの前に立つ。
「人型、アッシュ……」
「生きてたんっすか!」
「ちょ~びっくりなんだけど……」
フローラチルドレン共々、他の兵士たちにも激震が走った。
中には、静かに歓喜する者も。
「暁君……援さんが――」
地上に降りて一直線に暁を目指すエミ。
今にも泣き出しそうに、親身を打ち震わして。
「たす、くさん……生きて」
「違うだろエミ。今のアイツをそう呼ぶのはさ」
「え?」
暁はただ静観していた。
あらゆる感情を押し殺して、彼はアッシュとしての力を振るう友へ、その姿を刻む。
「アレがアイツが目指した力ならば――俺たちは別の名で呼ぶべきだ。アイツの『もう一人の姿』を」
「それって……」
「ああ……奴の名は――」
立ち上がるバイコーン。
それを前に構える援は、燃え盛る炎を結晶に凝固させて、構えを取る。
「『ギエン』だ。例え一人でも屈強な怪物に立ち向かう、孤高の戦士。孤高なる……ギエン」
ギエンは地を蹴った。
目の前の人々を救うために、その意思はネクタル因子の光へ返還させて。




