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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
エピローグ
48/49

彼らの守るべき領分

「休まる暇も無い! アッシュはセクター内で留めてるんでしょうね⁉」


「それも結構苦戦しているみたい……。結局のところ、設備を強化しても人員の穴がね〜……」


「あかっちとエミっちは、そのまま現地に向かうって。合流するならあっちが速そう」


「二人してどこ行ってたんすかね? 身体検査もほっぽり出して……」


 揺れる車内で、個々の装備の調整を行いながら、現地へと向かうチルドレン一行。

 誠司せいじの疑問に、佐奈さなは溜息を付いた。


「大方、あの人型アッシュのことじゃない? 二人して、かなり込み入った入用だったし……」


「やっぱり佐奈っちも、そう感じる? 私も、そう思う」


「え! そうだったの~……。もしかして、知り合い?」


「さあね。流石にそこを詮索する気にもなれないし」


「私はすんご~く気になるんですけど⁉」


「俺もっす!」


「どうせ濁される……。人型アッシュ……か。結局私は、分からずじまいだった」


 共闘したことを思い返し、アリスはそう告げる。

 あの戦場を共にし、少なからず人型アッシュの人間性に触れたからこそ、彼ら彼女らは認識を改める。

 人型アッシュとはなんなのか? 同時にそんな向上心が芽生えてもいた。


「私だってそうよ。正直、あの二人の話を聴いた時は、頬をぶん殴られた気分だった。他人に対してそこまでするなんて……私には重すぎる」


「まあ誰だって……死にたくはないし~……」


「でも、そんな奴だからこそ、私たちは生き残れたんだと思う……。勘違いしないでよ? 今回は運が良かっただけだってのもあるし、奴が不安定な存在だっていうのを、払拭したわけじゃない。少しは認めてあげるわ。願わくば、生きてるうちに一発ぶん殴ってやりたかった」


「全然戦ってくれた誠意が感じられないっす」


「なんか言った誠司?」


 メンチを切る相手が人型アッシュから誠司に切り替わり、一同に和やかなムードが流れた。

 もうすぐ訪れるのは、また戦場。

 しかし気負いはない。


 自分たちを救うための道を切り開くためにも――。




『アッシュ、第2セクターの第一フロアに到達! 最終隔壁の封鎖に移行‼』


「総員、戦闘配置につけえ⁉ 手負いの私に世話を掻かせるなよ!」


「だったらこんな場所に怒鳴り散らしていないで、病院で寝てたらどうなんだ? おっさん」


 機関銃、戦車、そして銃器をセッティングする兵士たち。

 見慣れた光景に、辺りに響く怒声の主へ暁は近寄った。

 部隊を指揮するおおとりは、顔面半分を低周波治療ガーゼで覆いながらも、変わらぬ威勢を纏う。

 彼らが立つのは、橋の先に創設された第二の砦。第2セクター。


「内部は新たに増設したっていうのに、この有様か。いろいろと立つ背がなくなってきたな」


「我々がここで食い止めれば、国民は知らなくて済む。やることは変わらん!」


「上はまだその姿勢かよ! もういい! エミ、気配はどんな感じだ?」


「遠くからでも、発散している因子の量が分かるってことは……結構な内包量を有してる‼︎」


「映像から割り出した。種目は動物型。だが、系数値は以前から対処してきたアッシュと比べてもかなり強い……。街でいきなり進化したワーウルフほどでは無いにしろ、な」


「っち! 手に余ることには変わりねえじゃねえか! これじゃあ、まるで」


 今しがた会ってきた新城の助言が、警告の金を鳴らす。


「アッシュの進化が、俺たち人類の境界を一歩でも踏み越えれば、奴の言う『未来』が来る……。どこまでも面倒な枷をあてがってくれやがって……」


 壁の向こうにそびえるブラックドームは、暁に大きな溝をもたらした。


 これまでにどれだけ――あの広大な魔物に苦節してきたか……。


 戦わない選択肢だってあっただろう。しかし……どうしても一人にさせたくない人が居た。

 誰かが憧れていた遠い頃の自分の背に、戻るためにも。


「暁君……」


「心配するな。追いついてやるさ。こんなところで負けていられる暇なんて無いしな」


 暁も気遅れはしない。

 自分の枷はいつか必ず――そして人類を脅かす怪物にとて、もう屈しはしないと。


「そういうところが心配だって言ってるの!」


 エミは、そんな暁の覚悟を一蹴した。半眼の睨みが、暁を曇らせる。


「はあ⁉ そ、そこは尊重する部分だろうよ? 俺がどこまで……」


「だ・か・ら! 暁君が率先して無茶することはないって言ってるの⁉ 私たちはどこまで行っても人の領分を守っていかなきゃ。一人の力は弱くとも、だからこそのチームでしょ?」


「…………」


 ぐうの音も出ない。

 しかし、返答は大いに暁の心を満たしてくれた。


『暁部隊長聞こえるか? 現場に到着した。今すぐに戦闘の準備を済ませてくれ』


「行こう暁君! 敵がいつ突破するか分からない!」


「そうだな」


 少しだけ、昔に戻れたような気がした。

 苦しみを分かち合う仲間がいる限り、自分だけで背負うなんて言葉は二度と口にしない。誰しもが戦うべき舞台があるのなら、尊重していこう。


 その上で、いつか――共に道を交わるのならば。


(お前が戻って来るまで、俺は――変わらない。お前が、意思を曲げなかったように……)


 彼らは今日も異界の武器を振るう。


 それぞれの信念の元。




 ドローンから送られてくる映像のノイズに連動して、会社のオフィスに振動が走り、ティーカップの水面に波紋が伝わる。


「え? 地震?」


 菜沙なずなは静かに立ち上がり、ファッション雑誌をソファに置いて廊下へと出た。


(なんだろう……この懐かしい感覚)


 通路を足早に、直行でエレベーターを目指す。

 行き先は研究棟――ドアが開き、目的の階層はフロア中が赤いライトと警報にまみれていた。


『第二研究棟でなんらかの衝撃を感知! 警備員は速やかに――』


 菜沙は警告に構わず、目先の目的地にしか焦点を合わせていない。

 キャシテライトの破片が眠る、あの部屋にだけ。

 そして、ドアをくぐるや彼女は無意識にだが、口走った。


「先輩⁉」


 外から照り付けてくる日光。

 伴って風に漂流してくる塵の飛沫に、菜沙は腕で顔を覆った。


 窓際の壁が盛大に破壊されていた。


 中央に佇んでいたカプセルの祭壇はガラスが破砕し、キャシテライトの破片は更に細かく残骸をまき散らしていた。


 明らかに“何か”が居たであろう空洞が、この状況の真意を語る。



 菜沙の顔に、笑顔が浮かんだ。


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