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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
エピローグ
47/49

世界の目指すところ

 キャシテライトへの空撃は、フローラチルドレンと一人の青年の奮闘によって免れた。

 現場の人間は、残すところ後30秒足らずの空軍殲滅に巻き込まれずに済んだのだ。

 通信が機能しなかったために、メンバーの誰しもがそんな実感など湧きやしない。

 そして人類が勝利したという実感も、思いの外、気薄だった。


 最後まで立ち会ったのはあかつきとエミの二人だけ。

 他は意識を回復させた頃には病室であり、身体的損傷も比較的軽い範疇で治まりはしたが。


 二人の心労は、未だ何かを拭えないでいた。

 あの戦闘から、三週間が経過してなお。




「キャシテライトとの戦場地に、不法侵入者?」


「うん、誰だかは知らないけどね〜」


 対策室本部のメディカルルーム。

 身体検査を終えて暇を持て余すレイラが、ファッション誌を片手間に、佐奈さなへ話題を振った。

 同じく検査を終え、佐奈は僅かに眉を吊る。


「それってただ不良や馬鹿が、立ち入り禁止を無視したってことじゃないの?」


「街の区画は張りぼて張って、路上も厳重に対策室の人間が警備している。それなのに~、相手は堂々と『入り口』を通過して、中の物を回収していったって話だよ~」


「それって不法侵入って言えるの?」


「かなり“グレー”に近いかな~。恐らく、内部に手回ししてないと無理な話よね? って~剛山ごうざんさんと対策室のお偉いさんが話し合ってた」


「内部に協力者?」


 ふ~ん……とに、鼻を鳴らす佐奈。

 ちょうどそこへ、検査を終えたアリスが輪に入った。


「あ、ねえねえ。アリスちゃんも聞いた? 今、不法侵入の~」


「今朝、あかっちが剛おじを問い詰めてたのを見たよ……。んで聞いた」


「な~んだ」と残念そうにするレイラに、佐奈は視線で続きを催促した。


 指をピンと立てて、レイラは言う。


「その回収したっていうのがね〜恐らくなんだけど……『氷漬けにされた奴』」


 佐奈が途端に顔をしかめた。


「ちょっと待ってよ。氷漬けにされたのって、まさか……!」


「対策室側も作業を進めてて、キャシテライトの残骸は見つけてる。そんでもって持っていかれたってのが~そのキャシテライトの残骸の一部と思しきもの」


「キャシテライトの一部? でも奴は」


「うん。死んでいるのは確かなんだけど――回収されたっていうのも妙なんだって」


「サイズ的に、大きすぎる……。一部にしてはね」


 少々焦りを募らせたが、大部分の死骸は回収されたと聴いて佐奈は一旦落ち着いた。


「でも、それを回収したって連中は、相当手際よくしてるわね? 内部にコネが有って、それで一目散にそれだけを回収してる――って」


「剛おじもあかっちも、すでに目星付けてんじゃない? こういう、物好きさん」


「アッシュに興味を抱いている人物って……それってまさか」


「ああ~……」


 三人は同時に、同じ人物を思い浮かべる。




 午前中のメディカル検査を早々にすっぽかし、暁とエミはバイクで目的地を向かう。


 向かう先は、『アセビ製薬会社』の本社ビル。


 館内フロアの受付へ向かうや、受付嬢が手際よく彼らを案内してくれた。

 当然、これから対面するのはこの会社の社長さんであるのだが、向かった先は社長の居座る個室ではなかった。

 エレベーターは中階層で停まり、長い通路の先に二人は研究施設に足を運んでいた。


「社長は奥の部屋でお待ちです。それでは」


 案内が終わり、分厚い隔壁扉の前で取り残される二人。

 ドアは自動的に開き、二人は入室。


「待っていたよ。まさか剛山くんやお父さんよりも、速く嗅ぎつけて来るとはね~」


「もう隠すつもりもないってか? アンタ自分で何をしたのか分かってるのか!」


「対策本部では手に余るよ。それに私はあくまで、研究サンプルとして鉱物型の破片を持ち出したにすぎん。まさかその一つが“生きた因子”を、内包している可能性があるとはね~」


「っち! 白々しさもここまでくれば嫌味だな」


 何一つ動揺を見せない新城に、エミは「それよりも」と催促。


「見せて下さい。本当に“生きた因子”が内包されているなら、関知するには私が適任のはずです」


「良いだろう」


 このフロアの中央を陣取る、カプセル装置の前に立つ。

 新城が指紋認証で装置は起動。ゆっくりと強化ガラスから黒い塊が顔を出した。

 一目見てそれは巨大な鉱物だ。

 外表が腫れた皮膚でボロボロになり、冷却弾による弱点を露呈していた。


「スズペストの効力が出ているってことは、キャシテライトので間違いなさそうだな……」


「問題は中身」


 エミは静かに手で触れた。

 皮膚に浸透してくる冷たさの奥に、数個の気配が漂った。

 小さくはあったが、確かに生きた因子の気配。


「どうだエミ?」


「ごめんなさい。確かに生きている因子はある。だけどそれもアッシュになりえるほどの量じゃ到底及ばない。とりあえず、キャシテライトが復活するようなことは無いと思う……」


「……そうか」


 最悪のケースは回避できたが、二人の顔は浮かばない。


「随分と残念そうだ。むしろ喜ぶべきじゃないのかな? これで鉱物型には、再生能力に乏しいことが実証できた。それ以上に望むことと言ったら?」


「アンタには関係ない。行くぞエミ、もうここに用は無い」


 足速に去ろうとする暁。

 だが新城は、彼の内面を土足で上がり込もうと、指をパチリと鳴らす。


 現れたホログラムに、映された映像。



『人型アッシュ』が冷却兵器に飲み込まれる光景を。



「お探しの者はコレではないのかね?」


「アンタ……“覗き見”してたのかよ……‼」


「ネクタル因子はあらゆる意味で、人が知りえなくてはならない存在だからね~。君たちも、鉱物型も。そして『ギエン』にしかり」


「『ギエン』?」


 突如出たワードに、エミは怪訝になる。


「名前だよ。人型アッシュのね。私も此度の戦闘でそう呼ぶことにした。彼の武勇を語り継ぐには必用だろ? おっと……『彼』なのか『彼女』なのかは不明だから、そこは仮定だな」


「武勇だと……⁉ まだ死んだわけじゃない」


「ほ~う、そう言える根拠が?」


「数値や結果にしか目を向けないアンタらとは違う……。俺はただ」


「一か月前の君とはてんで見違えるよ。アッシュに対してあそこまで敵対心を抱いていたのに」


「新城さん、それ以上は怒りますよ?」


 流石にエミが牽制に入り、新城は身を退く。

 暁は数秒の沈黙に、ただ背中を向けたまま。


「奴には、助けられた。俺たちだけでは確かに倒せなかった敵を、奴は一人で立ち向かった。捨て身の方法でな……。アレだけしぶとい奴だ。このまま終わるわけがない」


「なるほどね……」


 新城は一瞬だけ鋭く視察の眼光を見せ、次の瞬間にコロリと変えた。


「まあ、現地で戦った者の判断か……。野暮だと思われるだろうが、私も君とは同意見だよ」


「なぜ、そう言い切れる?」


「あれほど因子と調和の取れた生物は稀だ。生み出したであろうこの地球が、わざわざ手放すような真似はしない。少なくとも、彼にはまだ”役目“が残っている」


「”役目“だと?」


 勝手な言い分と希望的観測。

 子供じみたその根拠で、一企業の上に立つ者とは到底信じがたいとすら、暁は心中で吐き捨てそうになったが――ふとそこへ、間が刺した。


「アンタの言い分は癪に障るが、是非とも教えていただきたいね」


 一歩一歩、不審な足取りで近づき。


「奴には、何かしらの『サポート役』が付いていた。戦うまでに至る経緯でも、誰かが手引きしたのは明白……じゃなけりゃあ、街中で因子の反応も無くいきなり現れることなんてない」


 そして、新城に杭を刺しに行く。


「アレに勝手に役割が有ると感じてるのなら、『傍観』なんて真似をアンタが取るはずないよな? 奴に力を与えたのはアンタか?」


 暁は眉間を鋭く、エミは唾を飲み込み新城の答えを待った。


 二人の疑問に、新城は告げる。臆することも無いまま自然に――。


「残念ながら私は『傍観者』だよ。所詮人の端くれ。この先の未来に着いていくには、もうよぼよぼだ」


 膝を上げて拳で小突き、新城は続けてこうも言った。


「だからこそ私は、生きているうちに見たいのさ。この地球の新たなる可能性と、彼らが生み出す未来にね。今この星は次のステージに上がろうとしている。その舞台のチケットを掴むために、人類もそしてアッシュも、こぞって奪い合いになるだろう……ギエンもまた、ね」


 結局答えははぐらかされた。

 暁はそれでも踏み込もうとしたが、無情にもそれを遮る電子音が間を支配する。

 携帯から流れる緊急コール。


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