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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
キャシテライト編
38/49

一転攻勢

 広い三車線の道路を抜け、交差点となる決戦地の先に、アリスは事前に待機していた。

 キャシテライトが歩きながら、頭部に光を集中。

 攻撃の予備動作を前に、アリスはスナイパーの銃器からもう一つの兵装に切り替える。

 狙いの頭部に向けて、ある装置を差出した。


 光が、装置に遮られる。ひし形の粒が集合するキャシテライト頭部に着弾するや、蜘蛛型の装置が腹を押し付け、粒を覆う。熱線攻撃がそれに遮られ、暴発。途端に動きを静止した。


 黒煙が去って視界が良好になった頃にキャシテライトは――決戦場の中心地へ到達する。


「今っ! レイラちゃん‼」


『りょう、か~い‼』


 号令と同時に立ち上がる緑色の光の盾。しかも先ほどまでの展開力とは一味違う。



 キャシテライトを囲むように、エネルギーの結界がドーム状に密封し始めたのだ。



「今よ、エミ‼」


 キャシテライトの真上――上空で銃口を構えたエミは、敵を見下ろしトリガーを弾いた。

 弾道は、重力に伴って降下し、閉じつつある光の障壁を通過。

 キャシテライトに直撃すると同時にドームは塞がり、奴の周りは完全な密封状態と化す。

 相手の黒々としたボディに傷は無い。が――。



 直撃した脳天から靄が生じ、雪白の衣がキャシテライトを覆いつくさんと浸食を始める。



 ネクタル因子によって生み出された、限定的な気象兵器と言えばいいのか。


 それはキャシテライト討伐だけを目的に開発された、極低温の『冷凍弾』。その威力は直撃の瞬間、周囲を瞬間的にマイナス50度近くの世界へと強制的に塗り替えていく効力を持つ。


 直撃から10秒も立たずして、障壁にまでへばり付く氷の壁。

 もう一寸先も見せない氷結の幕ができ上がり、間を置かずして、ドーム状の障壁が一斉に砕ける。

 凍り付いたネクタルフォースの氷結が、雪を連想させて降りかかり、誰もが目を見張った。


「ネクタル因子まで凍り付かせるなんて……とんでもない兵器っすね?」


「アッシュは……。あいつは……どうなった⁉」


 その場所だけ北極から切り取ってきたと、嘘を付かれても信じられる地面に足を踏み入れた。

 髪の毛やまつげが小さな氷の粒を生み、皮膚の水分を奪った。


「寒い……ってか痛い!」


「普通の生物なら耐えられるわけないわよね? けどアッシュは……?」


「みんな」


 先に中心地へと足を踏み入れたエミが、白い息をある物体の前に吐きかけ、手を添える。

 巨大な氷のオブジェ――キャシテライトの巨体跡。


「離れてて、まだキャシテライトは生きている!」


「この状態になっても、動けるっていうの……?」


「だけど楔は打てた。アリスちゃん、すぐに部隊の応援を要請して! みんなは武器を構えて!」


 緊張感を走らせて、四方を取り囲むメンバーたち。

 パキリ……氷に、乾いた音が鳴った。

 小さな亀裂が内側から、氷の内部を曇らせていき。



『ギイイィィイイイイイイイイン‼』



 ふつふつと、オレンジの発光が数度点滅。

 乗じて蒸気が亀裂の隙間を縫って立ち込め、氷幕が剥がれ砕けていく。

 内部の小さな爆発は、氷の破片を吹き飛ばし――キャシテライトの外表が外にさらされた。


「もうこんなに速く復活して⁉」


「だけど……お父さんの出した仮説が正しいなら――」


 キャシテライトが復活際にエミへ敵意を向けた。

 彼女へ向けて放たれる熱線。それを読んだエミは、翼を携え大ジャンプで相手の頭上をいく。

 追撃を受けるよりも速く、彼女は宙返りの道中でアンブロシア兵器の光弾を被せていく。



 攻撃は――流されることなく命中。アレだけの硬度を誇っていたキャシテライトの皮膚が弾け飛んだ。



「『スズペスト』! キャシテライトの外表構造は、“錫石すずいし”とほぼ同じ。だからお父さんはこの武器を作った。錫石は極度の低音に晒されると、体積を増して途端に脆くなっていくから」


「つまり今のコイツは!」


「もうあそこまでの、防御力を維持できない……」


 全員に活力が漲り、更に追い風は吹き寄せる。


『フローラチルドレン部隊に次ぐ! 直ちにその場から退避しろ‼』


 彼女たちが充分な距離で避難するや、キャシテライトを中心に爆炎が舞った。

 十字路、それぞれの四方の先に戦車部隊を構え、続々と部隊が集まりだす。


『鉱物型は弱っている‼ この機を逃すな!』


 一転攻勢とばかりに、咆哮音が打ち鳴らされた。

 二度、三度――躊躇う余地なく、戦車の砲塔は火を噴く。




 それを上空から、アリスは疲れて嘆息した。


「弱った途端に強い姿勢……なんか、獲物を横取りされた気分」


「だけど、俺たちが危険を犯すよりかはずっとマシっすよ。もう、充分死に目にあったし、これ以上は……」


「まあ、今回ばかりは賛成ね。たまには大人共にも華を――どうしたの? エミ」


 上空から近場の建物の屋上にそれぞれ着地する中、エミは胸をざわつかせて。


(また……この感覚。そんな……⁉)


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