観戦
「ふ〜む。以前とは比べ物にならない程、進歩したね〜彼らは。結構善戦しているじゃないか?」
『おじさん、またドローン飛ばして戦場を覗き見? 本当、いい趣味してるよね?』
通話先から、不機嫌にも皮肉を交える菜沙。
新城はオフィスの自室で、ティーカップを啜りながら小さな反論を交えた。
「しかし彼らが頑張れば、それだけ援君の危険は回避されるわけだ。菜沙ちゃんにとっても、それは何よりも朗報ではないのかね?」
『先輩は、あの人たちが少しでも危険に陥れば飛び出す気だよ? すんごい剣幕で戦場を傍観してる。それにこれまでの経験上、絶対にうまくなんて想ってないもん』
「ならば彼には『アレ』を渡しておいてくれ。いつ飛び出すかも分からないのに、君が持っていたんじゃ渡し損ねた時に後悔しちゃうよ?」
『本当に大丈夫なの? だってコレ、対策本部の人間が作ったものなんでしょ?』
「『設計図』はこちらのものを渡してある。それに……それを託した秋昌教授も必死なのさ。自分の子供たちを守るためにね」
『ほんと……おじさんったら性格悪!』
「褒め言葉と受け取っておくよ」
「はっはっは!」と笑い飛ばす新城に、菜沙は疲れて通話を切る。
新城は自分の机に置かれた書類を手に取った。
援の身体データ。及び、ネクタル系数値のグラフ。
(彼は気づいていないだろうがね……その身体はあらゆる危機に対処できる)
騒ついた確信が胸の内でくすぶり、新城は大いにほころんだ。
(是非、見てみたいものだよ。彼の次なる『ステージ』を)
戦場をじっと、近隣のビルの屋上から見ている援に「先輩」と声をかける。
「少し、先輩のギアを渡してもらえませんか?」
援は質問に眉をひそめるが、彼女の真剣な顔に静かにギアを渡す。
受け取ったそれに、菜沙は1センチ程度の液の入ったカプセルを二つ。開閉した装置の中にはめ込んだ。
「それって……」
「先輩のこれからの戦いにどうしても必要な物。これは、先輩の因子を更に開花させるものです。信じられませんよね? こんなチャチな一滴でも、人を怪物に変える」
「更なる開花? そんなものが僕に?」
胸に手を当てて、自身の可能性に首を傾げる援。
「今までの先輩の力は、ほとんどが動物性因子によるものです。けど一度戦って自覚しましたよね? 赤いネクタル因子では、アレには勝てない――って」
「それじゃあ、その二個は」
「植物性、並びに鉱物性の因子の発達を促します。と言っても、恐らく先輩の係数値では良くて一分が操作の限界です。無暗な乱用は禁物ですよ?」
「他二つのネクタル因子……。それじゃあ、動物性の因子ってのも、そのカプセルに?」
「いえ。動物性に関しては、先輩はあらかじめ持っていましたよ?」
さらりと告げられ、なんのことだか訳が分からず。
菜沙は彼へ、身体の異変と転機となったあの日の夜を想起させた。
「心当たり有りませんか? 恐らく、ワーウルフと遭遇したあの日――先輩は何かしら奴の因子を取り込んだと思うんですけど……」
「…………そういえば」
母を助けるのに必死になっていて、自分が何をしていたのか頭から抜け落ちていた。
無謀にも戦いを挑み、相手の凶歯の餌食にされたこと。
そして、死んでたまるかと対抗するあまりに、相手の皮膚へ噛みついたこと。
「先輩の因子や、アッシュになった時の戦い方。あらゆる点で、ワーウルフの特徴が見受けられます。先輩が何らかの形で奴から因子を取り込んだからであり、赤いネクタル因子の量が多いのもそれに付随するからです。つまりこのカプセルは、それ以外の因子にきっかけを与えるもの」
「きっかけ……これが有れば、僕は更に力を?」
「だけど気をつけて下さい。おじさんの言い方を真似るなら、『どんな力にせよ“伴わないリスク”は無い』。私は……ギアを渡しただけでも随分と譲歩したんですよ?」
意地悪な態度で彼女は仏頂面を作る。
奥に秘めている本質も、ひしひしと伝わっていた。
「無論、これには先輩を更に怪物にさせる危険性もあります。でも、そうなっても私は味方ですよ? 生きてさえいてくれれば、私は先輩に対して協力を惜しみません」
「そこまで献身的だと、若干プレッシャーになっちゃうな……」
「けど」と援は綴り、ギアを有難く受け取って。
「僕はもう、怪物になるつもりは無いよ。この力は、人間としての僕として振るう――菜沙ちゃんの期待にも応えるために」
「なら私も信じます! きっとこの力で、先輩が私の元に戻ってきてくれると」
笑顔を挟み、菜沙はギアの運用法を援に教える。
全ては彼の生存へと繋げるために。
するや、戦場で轟音が響いた。
「黒煙! まさかエミちゃんたちが⁉︎」
「いえ、やられてはいません! どうやら鉱物型を所定の位置に誘い込めたようですね……。いよいよですよ、彼らの最終兵器が好物型に通用するのかどうか」
フローラチルドレンの努力が身を結ぶ時。
援と菜沙が見守る中で、戦場のある区画が円形状のエネルギーに包まれていった。




