キャシテライト討伐作戦、始動
同時刻、フローラチルドレンが構える最終ライン、ルート1地点。
『キャシテライトが飛翔‼ 時速60キロ程度の飛行速度で、もうすぐルート3に到達‼』
「嘘〜……あの巨体で飛んでるって言うの?」
デスクトップの敵影シンボルは、人類側が仕掛けたであろう地上の小細工を素通りしていく。
耳の通信マイクから、剛山の緊急要請が入る。
『エミ副参謀! 至急、アリス狙撃手をルート2に向かわせてくれ! 君のフライトパックならば間に合うはず! 奴がこの地点を通り過ぎる前に、狙撃で撃ち墜とす‼』
「了解です! みんな、この地点の防衛をお願い‼」
『ええ(はいっす)!』
全員の総意が、凛乎とした共鳴を起こす。
エミはスーツの起動と同時に、背中から機械仕掛けの羽を広げる。
二人が目を保護するゴーグルを装着するや、エミはアリスの腰に手を回し、飛翔。ぐんぐん全身を撫でる風の勢いが増し、エミは一分と経たずに気配を感じた。
「居る! 鉱物型、正面に⁉」
アリスはレンズ越しに双眸を細めた。
自分たちとは違う、もう一つの機影。
黒々のボディに日光を帯びて――丸みの何かが、足裏から航跡雲を生み出して直進していた。
「スピードが速い! 地上に降りてる時間が足りないよ⁉」
「なら空中で奴の進行を止める。エミっち、奴の後方を尾けて!」
空にいながら銃を構え、キャシテライトは迫る因子の気配を気にも止めずに通過。
(迎撃が無い。飛行中は攻撃できないってこと……? だったら安心して、狙える!)
方向転換し、吹き出る航跡雲に憚れないよう、斜め上方向からエミは追跡する。
空中、更には支えているのが人間だ。手振れは酷く、空気抵抗だって重大な敵に成りえる。
そんな劣悪ばかりの環境で、アリスは構えを維持し、呼吸を整え――。
「そこ……‼」
構えた目標、風の隙間、手振れの軽減――全要素の僅かな隙間を狙い、アリスは光弾を放つ。
銃撃は命中した。
片方の噴射口が衝撃で止まり、飛行が保てずキャシテライトは徐々に下降。巨体をコンクリートに打ち付け転がりながら、人類側が設定したルート内に辛うじて奴を抑え込めた。
敵の不時着に、佐奈と誠司は兵装を携えた。
「おびき寄せる地点ギリギリか。もう少し手前に落ちてくれれば苦労無く済んだのに……」
キャシテライトが墜落した地点は、人類側が決着を付けようとしている場所をほんの少し超えていた。
これで嫌が応にも、奴を目標の地点へ押し込めなくてはいけなくなった。
『ネクタル係数値、急上昇! 来るよ二人共‼』
「誠司! 分かってると思うけど、手足折れてでも奴を決戦所へ押し込む! 遅れないでよ‼」
「佐奈ちゃんは先行し過ぎないように!」
互いに苦言を交えて走る。
キャシテライトは迫る敵に、エネルギーの集約光から一閃――全てを焼き払う苛烈な熱線を照射する。
『二人共、3―Aポイントを盾に!』
通信先のレイラの指示に、二人は背を低くし、滑り込んで指定ポイントに直行。
地面にあらかじめ設置されていた装置が一人でに起動し、四角形の装甲版が立ち上がる。
攻撃は装甲版を直撃。多大な熱量が、隔てた先からでも伝わり、二人の額に汗を発散させた。
キャシテライトは照射を取りやめる。
戦車の装甲さえ溶かす鉱物型の一撃――結果は。
「どうやら『盾』は有効のようね‼」
表面が溶解し、内部にある緑色のネクタルフォースの筋があらわになるが、装甲版は健在だった。
装置の足元に繋がれたチューブからネクタルフォースが供給され、その全てがレイラの手によって発動を促していた。
後方に居る彼女が、ネクタル系数値のグラフを元に相手の攻撃を予測し、発信機から送信される仲間の位置に最も近い地点で壁を起動させる、戦場外から後方支援を行っていた。
「これだったら他の人たちにも――って、甘い盾ではないっすよね……」
「レイラを仲介しているとはいえ、『死に際の因子』が排出されてる。私たちしか守れない盾なんて、嬉しいんだか、悲しいんだか……」
『私に守られてるんだから、素直に喜びなよ‼ ほら攻撃が整う前に、先に進む!』
二人は突き進む。今度はより先へ踏み込むため。
『系数値来た! 誠司くんはそこで停止! 佐奈ちゃんは左の1―Cポイントの盾を‼』
合図と共に立ち上がる盾に、二人はそれを背に耐える構えを取る。
攻撃対象は比較的近くに居る佐奈へ向けて――熱線が直撃した。
『佐奈ちゃん! 盾の耐久、持ってる‼』
「奴の照射時間を考えるとギリギリね! これは奴を乗り越えた先が、物凄く面倒‼」
装甲板表面は次第に朱色の熱に侵食され、突破寸前。
しかし相手の攻撃はそこで停止し、佐奈は勘ぐる。
(さっきまでと照射時間が短い? 充分なチャージができなかったとしたら……チャンス!)
佐奈が盾から、身を晒そうとする――その瞬間。
彼女の背にある盾が粉々に爆ぜた。
衝撃が背中を直撃し、地面を転がり歯を食いしばって佐奈は立ち上がる。
「奴は一体何を⁉」
『分からない! 算出されるネクタル因子の量からは、さっきの攻撃とそう変わりなかった‼』
「とにかく盾が破壊された! 次の地点に‼ っ⁉」
まるで人の心を看破したのか、キャシテライトは仕掛けた。
両腕にあるチューブ型の指から、連続照射の光弾たちを広範囲にばら撒いたのだ。
佐奈は身の危険を瞬時に察し、ダッシュする。
「くそ! あんな攻撃法も有るなんて‼」
『そこで滑り込んで!』
盾が立ち上がると同時に転がり込むが、たった数秒のうちに盾は凹凸に形を崩壊させる。
「どうして! さっきまでの攻撃は耐えられたのに⁉」
『盾は熱光線を十数秒耐えうるよう設計されただけ⁉ とにかくその攻撃は自力で逃げて‼』
速くも盾としての原型が終わりに迎えていた頃、攻撃がそこで軌道をずらす。
現場で戦うもう一人の仲間が相手の左腕に乗っかり、もう片方の右腕を槍で抑え込んでいた。
僅かに下方へと押さえつけられ、青い光弾は手前のコンクリートを粉塵に化す。
「誠司! アンタ、そんな無茶を⁉ くっ‼」
佐奈はこの隙に乗じ、キャシテライトの向こう側を一直線に目指す。
照射される攻撃がやみ、誠司の目前、キャシテライト胴体付近のボディに白い粒が一つ浮かび上がった。
そこから光が収束し、嫌でも彼の顔は引き攣り――。
「これって、まずい?」
小さな熱線が照射されると同時に、攻撃は何も無い空を切った。
佐奈がスーツのパワーを最大限に、誠司の身体を半ばタックル感覚で突き飛ばしたのだ。
「速く立って誠司! 走り抜けるわよ⁉」
『そこから最短の盾は十数メートル先! 速く移動して‼』
背を向けて直行するが、もうすでにキャシテライトの方向転換は終えようとしていた。
キャシテライトのチューブの指から、破壊の弾丸が生み出されようとする――が。
巨大な図体の下に手榴弾が放り込まれ爆発。
追撃で後方からの衝撃に、キャシテライトは前面に転倒した。
「二人共‼」
『エミ(エミちゃん)⁉』
二人の腕を掴み取るや、エミはフライトパックで上昇。
危機を脱しながら、彼らは最後の勝負に仕掛けようとしていた。




