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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
キャシテライト編
35/49

それぞれの迷い道

 時刻がやがて9時を回る。

 晴天、疑似的な現場の司令部として機能する白いテントの下、複数の人間が入り乱れる。

 戦場からは1・5キロほど離れた場所であった。


「緊急コール! フローラチルドレンからです!」


 秋昌あきまさはすぐに通話ボタンを押し込み、「どうした!」と催促。


『キャシテライトが動きを見せたの⁉ ネクタルフォースが急速に昂ってる‼』


 エミの感覚がそう告げ、後追いで全部隊の通信器具に情報が走った。


『鉱物型アッシュ・キャシテライトに動きが有った模様! 繰り返す! 鉱物型アッシュに変化が有った模様‼ 支援部隊は直ちに戦闘配備せよ‼』


「奴め、まさか私たちの作戦に応じて行動を速めたのか⁉」


「エネルギーの補填が終わったのか……。どちらにせよ黙っているわけにもいきません! 対策本部に連絡し、作戦を速めます!」


 秋昌も判断に頷き、剛山ごうざんは本部に連絡を通す。

 現場はいよいよ、戦火の舵に切り替えていく。




 鉱物型アッシュから距離、300メートル付近。


「対策室が動いた模様! まずは長距離から焼夷砲弾によって周囲の植物を焼き払います! その後は奴を目標のルートまで誘導し、アンブロシア兵装で決着を付けます‼」


「了解しました。みんな、武装の準備をお願い!」


 兵士の説明に、エミはすぐ頭を切り替え、率先してチームを引っ張っていく。


「随分とお速い呼び出し。まだあかつきさん来てないのに〜‼」


「帰って来て作戦が終わってたら、全力でキンタマ蹴り上げてやる! 特殊武装は誰が使う⁉︎」


 佐奈さなは部隊長が使うはずの武装が、収められたトランクに目を通す。


 対キャシテライト用、特殊アンブロシア兵器の弾丸が二つ。


 グレネード弾ほどの大きさの弾で、威力はこれまでの兵装から考えても強力。普段の兵装でも戦車の装甲を貫けるほどだ。兵器の大きさ具合から、内包できるエネルギーの領分を考えても想像を絶する。

 問題は、その個数が二個と正確に決められており、この兵装を扱う責任は重い。


「これは、暁君や私が使ってるアンブロシア兵装でしか活用できない。この弾丸は私が持つよ」


「良いの? どうせ接近して撃つなら、私でも問題ないわよ?」


 佐奈の気遣いに、エミは首を振った。


「みんなには自分の得意の武器で、相手の隙を作って欲しい。撃つ前に奴の斜線に入っちゃったら、その時点でアウトだから……って、そうなったらみんなの方が危険なのかな?」


「あんな怪物と対峙して……、危険に大も小も有る?」


 アリスの鋭いツッコミに、エミを除く全員が頷く。

 特に佐奈は、彼女の額にデコピンを食らわし、エミは面食らってしまう。


「良い加減、一人で背負い込むその性質やめて。だいたいアンタのそのお節介、気持ちの分が強すぎてステータスが伴ってないの分かってる?」


「わ、私これでも必死にみんなのこと……⁉」


「だからアンタの兄貴は死に物狂いなのよ……」


 エミ当人に聞こえないぐらいの声量で呟くや、佐奈は向き合う視線の色を濃くして。


「これまで一緒に戦って来たんだから、いつものように、今日も信用してくれるわよね?」


 みんな、自分たちが築いた繋がりをちゃんと大事にしてくれている。自分と同じくらいに。


 だからこそ、今度こそ――エミは決心が付けられた。




「“殺された”……だと?」


 惨めに描かれた脳内のパレットが、空白に染められていく。

 数秒の合間に、暁に次に押し寄せた色は困惑の青であった。


「ワーウルフの被害リストに、人間は居なかった……」


「狼のアッシュは、母さんを体内に取り込んで……そのせいで未だ行方不明扱いになってる。だけど僕はちゃんと見たんだ。母さんの遺体が、灰になって消えるのを」


「アッシュが人を? なんだよそれ――」


(そうか、あっ君もエミちゃんもアッシュが『人』だってことを……)


 アッシュの生態以前に、そもそも奴らの根幹にさえ気づいていない。

 精神の不安定な暁に真実を話すか? 躊躇うには充分であった。


 ぐらついた積み木をハンマーで小突くよりも、簡単に壊れてしまいそうで――この選択自体、昨日の夜に会いに来たエミの前でも、援は喉奥へ押し込んでいた。


「一緒なんだね……あっ君もエミちゃんも。それだけ僕のことを」


「なぜそこで、エミの名を……」


「エミちゃんも、つい昨日僕を説得に来てたんだ。『“戦う”役目は私たちが背負います! だから援さんは家族を守ってあげて』って。そして今の君のように、母を失ったことを話した」


「っ……⁉︎ それで、それでエミは……!」


「僕が退けないことを知って、エミちゃんは言ったよ。『絶対に貴方を戦場に立たせない!』って。彼女は自分の力でアッシュを止めつもりだ。そこに至るのに、どんな無茶をするか分からない」


 だからこそ、援も信念強く。


「僕も、これ以上“失う”わけにはいかないんだ。あっ君やエミちゃんには悪いけど、やっぱりこの力は捨てられない。誰の反対にあったとしても」


「お、お前は……‼︎」


 暁が口を開きかけたその時、たすくは途端に脳をつんざく感覚を味わう。


 肌の毛が逆立つや、路上の突き当たりに黒い車が停まるのを視認。


「あっ君、話は後にしよう! アッシュだ‼ 奴が動き出した!」


「何を根拠にそんなこと……!」


「感覚で分かるんだ‼ もう余り時間は無いのかもしれない! 僕は行く‼」


「待て……おい待て援⁉」


 一度足を止めて、鬼気迫る緊張を一度だけ脱いだ声で、援は言う。



「あっ君。君やエミちゃんが僕に対して迷うのを、不謹慎だけど僕は嬉しかった。もしも君たちが――僕のことを人類にとって危険だと感じたなら、迷わずに撃てばいい。僕も……君たちに殺されるのなら、それは『本望』だと思うから」



 静止は虚しくも振り切られ、彼は迷わずに駆けて行く。

 背は遠く、自分一人が今度こそ取り残される幻想が陽に炙れ、やがて影を見失った。

 取り残されるわけにはいかない――ブロック塀に拳を打ち、暁もバイクで直行する。




「鉱物型の移動を確認! 誘導開始‼」


 目前、100メートル先――兵士が担ぐロケットランチャーから火花が散った。

 手始めの洗礼として、まずは鉱物型ではなく、植物型に対して――ネクタル因子の供給元を断つために、焼夷弾の炎は辺りに突き出た樹海を焼き尽くした。

 植物型は大した反応もなく、その身を灼け爛れながら、朽ち落ちていく。


「随分と呆気ない……これなら速めに潰していても良かったのでは?」


「爪先を炙っても根っこが生きてる。俺たちはメインに専念する! 全員後退しろ!」


 黒ずみのツタを踏みしめて、鉱物型はのっしりと歩行を開始。

 自身の根城にしていた地点から15メートル離れたところで、足元から爆発が吹き荒れた。


『田代班、現状を報告せよ!』


「キャシテライト、爆発の直撃を確認。しかし効果なし! ダメージは確認できません‼」


『想定内だ、誘導を進めルート3に待機している部隊と合流。次の爆薬の起動を待て』


 燃え盛る大地を悠然と歩いてくるキャシテライト。

 兵士たち命がけの追いかけっこが始まろうとしていた中で、不意にキャシテライトは歩を止めた。


「動きが静止。こちらの誘導がまだ足りないのか⁉︎」


「いや待て……。アイツ、何かを見ているぞ?」


 双眼鏡で、キャシテライトの正面と思しき部位が何処を見ているかを辿る。

 ちょうど歩道を跨いだ先は、小さな楽器店が有った。キャシテライトはその店に近づくや、ショウウィンドウを拳で割り、飾ってあった子供用ピアノを掴み取る。


「なんだアイツ……盗みを働いたぞ……!」


「“摂取”の為じゃないのか⁉︎ まさか鉱物型はああいった物を食べることで、エネルギー供給を!」


「ネクタル因子は絡んでないんだぞ⁉︎ そんなわけあるか!」


 やっていることの意味が理解できず、兵士は困惑。

 そうこうしているうちに、キャシテライトはピアノを身体の中へ“埋め”取り込んで行く。

 そして用が済んだとばかりに、更に驚愕すべき特技を披露した。


「ちょっと待って下さい! 奴に反応が有りました!」


 手元の四角い計測器が、ネクタル係数値の活性化に伴い、赤い危険シグナルを発した。

 攻撃の兆しとは違う――黒煙が突風で散り散りに、やがて謎の発光が瞬いた。


「剛山作戦司令官……奴は」


 部下は通信先の上司に端的、かつ驚くべき事実を報告する。



「奴は……ジェット噴射と思しき『飛行』で、空中へ飛び立ちました‼」



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