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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
キャシテライト編
32/49

臆病な選択

 町内に設置されたスピーカー。

 移動用のバン車からも、緊急避難の警告が流れていた。


『こちらはブラックドーム対策センターです。現在、アッシュが第三セクターの防衛線で軍と交戦しています。住民は速やかに避難して下さい。繰り返します。この地域をアッシュ災非難地域とし――』


 ほとんどの住民が退避した街は、もの悲しく。

 鬱蒼さは、曇り空と振り始める雨に打たれ、更に色濃くなっていた。

 追い打ちを掛けるように、それは重々しく動きを止める。

 黒いボディに雨水を受け流し、電子音の鳴き声を交えて。


「おい。あそこにあんな置物が有ったか?」


「何?」


 呼びかけに移動していたバン車の作業員が、視界を凝らす。

 それがアッシュだと分からずに、ただじっと凝視していたのだが――異変は合わせて出現した。

 黒い置物を中心に、続々とアスファルトのタイルを剥いで現れる緑のツタ。

 次々に道を覆って、途端に通路は異質な茂みに覆われた。


「まずいぞ、まずいよなコレ⁉」


「ああ、速く本部に連絡しよう‼」


 エンジンを大きく吹かせて、アクセルを踏み込んだ。

 人々に危惧が伝染する中で、鉱物型は這いよる植物を掴み取る。

 自身の鉱物の身体に先端を突き刺して、ネクタルフォースの光が鉱物型アッシュに注がれていく。



 アッシュの到来。

 そして築き上げてきた防衛線の瓦解は、人類側に大きな危難を抱かせるに充分であり。

 国民のアッシュに対しての危機感が募ると共に、防衛局に対して明確な問題を求めていた。

 なぜここまでの個体を事前に察知できなかったのか? 壁の耐久力が不十分だったのではないのか? 防衛センターの援護にもっと速く部隊を展開できなかったのか?

 あらゆる疑義が、対策室の面々の肩に手を掛ける。

 事態を少しでも終息させるために、明道秋昌(あきまさ)は一研究員として――鉱物型に対する態勢を整えつつあった。


『結果は順調です。奴の体組織への効力も立証できました! これならいけるはずです!』


「最終メンテナンスには私も立ち会う。それまでは任せてもいいか?」


『ええ、分かりました』――部下とのパソコン越しでの会話を打ち切り、秋昌は短く息を吐く。


 パソコン画面には、鉱物型のいくつもの添付写真が開かれており――奴は今、秋昌たちの住むざっと二十キロ先の街中で休眠していた。


 路上で――それも奴の周囲には植物型の樹海が築かれていた。

 鉱物型と植物型の共存関係――それはさながらネクタル因子の、ガソリンスタンドとでも言うべきか……植物型が、鉱物型に自身のエネルギーを分け与えていたのだ。

 事態の刷新さっしんは必須であり、秋昌は、もう一つの書類に目を通す。

 新城から託された、ある提案書類。

 記載には、こちらが長年研究してきた一部データの分配と、結果生み出される人類の可能性。


(新城会長……! 貴方は、どこまでも我欲に飢え続けるのだな)


 新城の考えを否定するのなら、協力なんて跳ね除けばいい。

 しかしそれを躊躇わせるには、もう一つの人質があった。


 自分の子供――並びにチルドレンメンバー。


 無論、自分の子供たちを信用していない訳ではない。この兵装が完成すれば、フローラチルドレンも。そしてたすくが戦う心配も無くなる、が――。


「私は何処までも……臆病者だな」


 完璧――そこに到達するまでの自信と確信が付いてこない。

 研究者である以上、妄信よりも確実な結果を目指す。”かも“や”たぶん“では意味が無い。

 子供たちが失敗した時、それを助けられる人物は援しかいない……。

 心のどこかでそう結論に至る中で、ドアからノック音が響く。


「おじさん、ちょっといいですか?」


 秋昌は書類を机の引き出しに仕舞い、養子のあかつきに向き直った。


「後ほどでいいから、剛山ごうざんが武器の目途の件で、電話を寄越してほしいと」


「そうか……。実技には私も立ち会う予定だ。彼にもそうさせよう」


「俺も行っていいですか? どの程度のものかは、リーダーである俺も知っておきたいですし」


「それはいいが……君は大丈夫なのかい? 最近、妙に元気が無さそうであったし。エミはそっとしておいた方がいいと、なぜか遠巻きに……」


「今は大丈夫です。俺にもやるべきことがありますから」


 強い面持ちと真意に、秋昌は頷いた。


「私は行くところがある。君は今日、どうするんだ?」


「鉱物型の討伐日取りの会議に呼ばれています。今回で明確な作戦執行の目処が立つはずです。アッシュが何時までもあそこに居座ってるとは思えませんので」


「奴が出現して『三日』か。ならそれまでに、武装も急がせよう」


 暁の肩を軽く叩き、秋昌は退出するが、暁はふと足を止めた。

 主人の居ない一室――その机に目を向けて。



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