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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
キャシテライト編
29/49

連鎖する脅威

 午前11時。

 ブラックドーム隔壁防衛室、第三セクターの人員は皆、互いに目配せして不安を募る。


「まただ、この音。しかも明らかに大きくなってきている……!」


「徐々に近づいてるってことか? 気味が悪い……。大田司令官はこのことを上に言ったのかな?」


「ここまで異様な事態だ、恐らく報告に出かけてるはずだ。しかしこの電子音でオルゴールの曲調を真似たような音楽……」


 聴こえてくるリズムは、二分半置きの間隔でループしている。一旦曲が終わると、二、三秒間を置いてまた初めから、というように。

 ドーム内から人魚でも歌っているのなら歓迎できる話だが、如何せん曲調に人間で分かる声など皆無。


「ちくしょう、休むことなく……ノイローゼになってくるぜ、こんなの」


「もしかしてアッシュが、俺たちの気を狂わせるために流してるんじゃねえだろうな?」


「馬鹿言うなよ。それじゃあアイツらは人間並みの知能が有るってか? そんな話……」


 すると、音を探知してからそれまで途方も無く続いていた曲が、途端に途切れだした。


 二人はそれまでしていた会話を打ち切り、ヘッドホンを深々と被り――。



『ギィギィィイイイイイイイイイイイインンンンーーーーッッ‼』



 悪魔の金切り音が鼓膜をつんざく。

 局内に警報器が響き、大田は慌てて管理室の戸を開ける。


「状況を報告しろ⁉ 何が起きている!」


「ネクタル系数値、異常発達を感知! 尚も増大中……‼」


「画面に数値化してまわせ!」


 セクターの液晶モニターが集中する壁面中央の、大型モニターにデータが映し出される。

 ネクタルフォースの度合いを波線で揺らし、付随する数値化された結果に、大田は絶句。


「今までに……こんな巨大なネクタルフォースが検知されたことが有ったか……?」


「セクター内では、有りません……! 恐らくどのセクターでも‼」


「現地のモニターに切り替えます!」


 部下が操作を加えて、更にドームと現界の隣接領域を画面で捉えた。

 黒く、光の無い暗黒の世界で――皆は目撃する。



 艶のある巨躯を重々しく動かして、それは地響きの足音と共に日本の大地を踏み荒らす。




 前半の授業が終了し、長い昼休みが訪れた手前で――携帯に緊急コールが受信される。

 いつものように学校の裏口へと赴いた矢先、エミが耳を澄ませて遠い地に何かを辿っていた。


「エミ! 内容は読んだな? セクター内にアッシュ到来――どうやらかなりの大物らしい!」


あかつき君、バイクで急ぐことできる?」


「一応、近くの空き地に念のため止めてはいるが……一体どうした?」


「五分ぐらい前から、微かな因子の気配が漂ってきてる! それも複数……この街に‼」


「な⁉ それじゃあ、すでにアッシュは壁を⁉」


 暁の驚愕に被せて、エミは首を振って否定。


「アッシュほど強くはない。恐らく……土地に留まって汚染している程度の!」


「汚染だと……⁉」


 一時、頭を冷静に彼はある節に辿り着く。

 環境を自分好みに組み替えて、尚且つあくまでその地だけに根付く存在。


「植物型……ヴァレリアンか! 奴ら、生きてやがったのか⁉」



 

 アッシュ出現から十分が経過。

 暁たちが教室から出て間もなく、たすくも事態の異変さに気づく。


(あちこちから妙な気配……これってあの植物の⁉︎ だけど……アッシュにしては弱々しい)


 本能が磁石のように、エネルギーの気配を自動的に手繰り始める。

 学校を抜け出ようと表の校門を目指すと、菜沙なずなが手を振り待ちわびていた。


「菜沙ちゃん! 状況はどうなってるの⁉」


「新城おじさんでも分かっていません。ただ車を寄越すから、先輩の感覚に後は頼れって」


 すでに手回しされていたであろう車が、間を待たずに到着。

 彼らはすぐさま乗り込み、援の感覚の元で走らせていく。


「仮に植物型が仲間を増やすために行動してたとしても、どうやって種子を」


「風に自分の種を紛れ飛ばしたり、やっぱり移動中に適当なところでバラまいていたとか?」


「進出を許しただけで、ここまで事態を混乱させるなんて……っ⁉」


 頭にズキンと痛みを走らせる。

 停車させ、援はすぐに外へと飛び出した。


 彼らの目前には、下水道に繋がるマンホールを元手に無数のツタが飛び出す。


 周囲の路上が軽い樹海と化し、そのどれにもネクタルフォースの光が脈打っている。


「うわーこれは凄いですね~。まさに環境破壊」


「……菜沙ちゃん。同行はここまででいいよ」


 援の視線は目の前の植物にあらず――遥か向こうのそびえる壁にだけ意識を集中させていた。


「間違いない、ここまで気配を飛ばしてる。アッシュだ!」


「壁からここまでって、まだ10キロは先ですよ! それがこの街に来てるってことは、もしかして。防衛局は……」


「行ってみないと分からないけど、危険なのは確かだ。僕は行く!」


「ちょ、ちょっと先輩⁉」


 有無を言わさず援は胸にギアを当て。

 ネクタル因子の異常な活性が、周囲に小さな衝撃を走らせ、菜沙は押されて尻もちをつく。

 援は一目散に空を跳躍し、目的地まで自身を急がせた。


「壁が突破されたとしても、防衛局の人間は居るはずなのに……。一緒に攻撃されないかな?」


 本当に後先考えない人だな……とぼやき、菜沙は車へと戻り自分にできる事へ奔走する。


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