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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ヴァレリアン編
22/49

初デート

 デートを始め、たすく菜沙なずなはあらゆるスポットを渡り歩いた。

 菜沙の趣向を優先したブティック巡りでは、彼女が選抜した服やアクセサリーを候補に、最終的な決定権を援に握らせていた。


「僕、自分のファッションセンスに自信あるとは思わないんだけど」


「やだな〜先輩。こういうのは、単純な選り好みで良いんですよ? それで! どっちが私に似合いますかね⁉︎」


「どっち、か〜? 菜沙ちゃん普通に可愛いし、どっちも似合うと思うけど?」


「分かりました! それでは『両方』にするとしましょう! というわけで先輩、勘定お願いします」


「強いて言うなら、そっちの方が似合うと思うよ‼︎」


 少しでも金銭的な余裕を見い出すために、援は選択候補を直感で指差す。

 そんな彼の好みを把握するや、菜沙は「払わせるのは冗談ですよ」と自分の財布で支払いに行く。


「こういう乗せられ方……やっぱり“あの”叔父を持つだけはあるってことなのかな?」


「影響は少なからず受けてますね。まあ、ちゃんと使う相手は選びますよ? 私は心底気に入った相手にしかしませんから!」


 先輩は『特別』です! 直球に告げる後輩の言葉を別の意味に捉え、援は彼女に対しても用心すると心に誓った。


 それからは軽い昼食を挟んで、各地のスポットを巡った。


 期間限定として開かれていた小さなお化け屋敷では、対して怖くもない仕掛けに、菜沙は必要以上に援へ抱きつき、援は別の意味で心臓をバクバクさせた。

 

 ゲーセンでは慣れない操作にお互い悪戦苦闘する一方、妙な連帯感を互いに感じ、笑い合う。


 知り合って日が浅かったために、菜沙への印象は普段とは多いに違って見えた。


(本当に活発な娘だ。学校でも意外にこんな感じなのかな?)


 アッシュ絡みの時とでは違う――至って普通の女の子。

 そんな彼女の笑顔に後押しされる形で、デートを満喫すること三時間。


「これって……⁉」


 援は驚愕。

 彼が向ける視線の先には――手元で広げる自身の財布。


「おかしい……‼ 菜沙ちゃんとは、所々で割り勘にしていたはずなのに、なんで!」


「そりゃあ先輩。それだけ修繕道具とかシーツを買えばそうなりますよ」


 菜沙が呆れ果てる目線の先には、援の腕に下げられている大きな袋類。

 それら全てが、援本人の買い物の結果であった。


「そんなに買って、生活必需品でも不足してるんですか?」


「ああ、うん。あのアッシュに襲撃された時にね……」


 家の惨状を思い浮かべて、溜息を付いた。


「あれは確かに大変ですね。部屋を修繕する際に、全部おじさんに請求すれば良かったのに」


「大きい家具は贈ってきてくれたよ? でも高価すぎて、インテリア的に浮いてるっていうか」


「おじさんの嗜好じゃあ、確かに偏りそうですね。大きすぎて持て余したりしてませんか?」


「いや、大丈夫だよ。ちょうど部屋が一つ空いてしまったからさ……」


 互いの空間に溝が生まれた。

 菜沙は空気を読んで押し黙り、援も重い気遣いを与えたことに罪悪感に飲まれる。


「……やっぱり寂しいですか? 母親が居なくなっちゃったら」


 彼女の素朴な質問。透き通る純粋な瞳で、そう語りかけて来る。

 綺麗な青緑の瞳に、このままでは飲み込まれそうで……。


 援は地面に下を向き、俯いた。


「そりゃあ……寂しいよ。例え口が聞けなくなっていたとしても、母さんは……! たった一人の家族だった……。僕はそれを、守れなかったんだ……」


 気が付けば口元を震わせて吐露していた。



 吐き出す相手も居ず、考慮された場も持てず。今日初めて、菜沙の前で本音を晒す。



「僕が背負って戦った結果と……成果が結びつくとは限らない。人の命の天秤なら、尚更……」


「先輩」


 不意に、ひんやりとした体温が頬を撫でる。

 菜沙が彼の頬に手を当て、自身へと視線を上げさせた。


「あの場で先輩が戦わなければ、どれだけの人の命が消えていたか――分かりますか?」


「…………」


 菜沙は真顔だった。

 淡々と、纏う空気が先ほどまでと数度も下回って感じられた。


「恐らく、彼らではワーウルフは止められなかった。ほとんどの命があの地で果て、汚い大人たちは、自分たちの失態を潰そうと躍起になってましたよ。例え大勢の兵士を切り捨ててでも」


 援は息を詰まらせた。

 菜沙の今しがた仄めかされた言葉に、あの戦場でどんな思惑があったのか――援には分からない。これから理解しようと気にもなれなかった。そもそも年端もいかない友人たちを戦場に駆り立てた連中だ。援でもちょっと考えれば想像に硬くない。


 問題は、他人に言われ、断言されたからこそ……自身がやったことの大きさを今一度噛み締められたことだ。


 援の表情に菜沙は理解し、途端に笑顔へ切り替える。


「すみません、脅しっぽくて。でも、先輩がやったことは決して無駄じゃないんです」


「そう、かな……。でも僕は……」


「迷うことは攻めません。先輩が戦うことを投げ出したからって、私との関係が廃れることも!」


「いや、そこの心配は」


 瞬間、菜沙の目じりが怒りで釣り上がった。


「いえ、なんでもありません!」


「よろしい。それじゃあデートの続きをしましょう。そろそろ甘いものが欲しいところですよね~。あそこにアイスクリームがあるんで私、買ってきますよ!」


「先輩はここで休んでて下さい!」とはつらつに、彼女は小走りで行ってしまう。


 どうにもテンションの高低差が激しい後輩だ。

 援は気を落ち着かせ、ベンチで座って待つが――自分の前にポツリと人影が伸び、頭を上げる。


「援さん。奇遇ですね、こんな場所で会うなんて」


「エミちゃん……」


 予想だにしない、知人との再会。

 彼女もまたキョトンとした仕草の次に、穏やかに笑ってみせる。

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