初デート
デートを始め、援と菜沙はあらゆるスポットを渡り歩いた。
菜沙の趣向を優先したブティック巡りでは、彼女が選抜した服やアクセサリーを候補に、最終的な決定権を援に握らせていた。
「僕、自分のファッションセンスに自信あるとは思わないんだけど」
「やだな〜先輩。こういうのは、単純な選り好みで良いんですよ? それで! どっちが私に似合いますかね⁉︎」
「どっち、か〜? 菜沙ちゃん普通に可愛いし、どっちも似合うと思うけど?」
「分かりました! それでは『両方』にするとしましょう! というわけで先輩、勘定お願いします」
「強いて言うなら、そっちの方が似合うと思うよ‼︎」
少しでも金銭的な余裕を見い出すために、援は選択候補を直感で指差す。
そんな彼の好みを把握するや、菜沙は「払わせるのは冗談ですよ」と自分の財布で支払いに行く。
「こういう乗せられ方……やっぱり“あの”叔父を持つだけはあるってことなのかな?」
「影響は少なからず受けてますね。まあ、ちゃんと使う相手は選びますよ? 私は心底気に入った相手にしかしませんから!」
先輩は『特別』です! 直球に告げる後輩の言葉を別の意味に捉え、援は彼女に対しても用心すると心に誓った。
それからは軽い昼食を挟んで、各地のスポットを巡った。
期間限定として開かれていた小さなお化け屋敷では、対して怖くもない仕掛けに、菜沙は必要以上に援へ抱きつき、援は別の意味で心臓をバクバクさせた。
ゲーセンでは慣れない操作にお互い悪戦苦闘する一方、妙な連帯感を互いに感じ、笑い合う。
知り合って日が浅かったために、菜沙への印象は普段とは多いに違って見えた。
(本当に活発な娘だ。学校でも意外にこんな感じなのかな?)
アッシュ絡みの時とでは違う――至って普通の女の子。
そんな彼女の笑顔に後押しされる形で、デートを満喫すること三時間。
「これって……⁉」
援は驚愕。
彼が向ける視線の先には――手元で広げる自身の財布。
「おかしい……‼ 菜沙ちゃんとは、所々で割り勘にしていたはずなのに、なんで!」
「そりゃあ先輩。それだけ修繕道具とかシーツを買えばそうなりますよ」
菜沙が呆れ果てる目線の先には、援の腕に下げられている大きな袋類。
それら全てが、援本人の買い物の結果であった。
「そんなに買って、生活必需品でも不足してるんですか?」
「ああ、うん。あのアッシュに襲撃された時にね……」
家の惨状を思い浮かべて、溜息を付いた。
「あれは確かに大変ですね。部屋を修繕する際に、全部おじさんに請求すれば良かったのに」
「大きい家具は贈ってきてくれたよ? でも高価すぎて、インテリア的に浮いてるっていうか」
「おじさんの嗜好じゃあ、確かに偏りそうですね。大きすぎて持て余したりしてませんか?」
「いや、大丈夫だよ。ちょうど部屋が一つ空いてしまったからさ……」
互いの空間に溝が生まれた。
菜沙は空気を読んで押し黙り、援も重い気遣いを与えたことに罪悪感に飲まれる。
「……やっぱり寂しいですか? 母親が居なくなっちゃったら」
彼女の素朴な質問。透き通る純粋な瞳で、そう語りかけて来る。
綺麗な青緑の瞳に、このままでは飲み込まれそうで……。
援は地面に下を向き、俯いた。
「そりゃあ……寂しいよ。例え口が聞けなくなっていたとしても、母さんは……! たった一人の家族だった……。僕はそれを、守れなかったんだ……」
気が付けば口元を震わせて吐露していた。
吐き出す相手も居ず、考慮された場も持てず。今日初めて、菜沙の前で本音を晒す。
「僕が背負って戦った結果と……成果が結びつくとは限らない。人の命の天秤なら、尚更……」
「先輩」
不意に、ひんやりとした体温が頬を撫でる。
菜沙が彼の頬に手を当て、自身へと視線を上げさせた。
「あの場で先輩が戦わなければ、どれだけの人の命が消えていたか――分かりますか?」
「…………」
菜沙は真顔だった。
淡々と、纏う空気が先ほどまでと数度も下回って感じられた。
「恐らく、彼らではワーウルフは止められなかった。ほとんどの命があの地で果て、汚い大人たちは、自分たちの失態を潰そうと躍起になってましたよ。例え大勢の兵士を切り捨ててでも」
援は息を詰まらせた。
菜沙の今しがた仄めかされた言葉に、あの戦場でどんな思惑があったのか――援には分からない。これから理解しようと気にもなれなかった。そもそも年端もいかない友人たちを戦場に駆り立てた連中だ。援でもちょっと考えれば想像に硬くない。
問題は、他人に言われ、断言されたからこそ……自身がやったことの大きさを今一度噛み締められたことだ。
援の表情に菜沙は理解し、途端に笑顔へ切り替える。
「すみません、脅しっぽくて。でも、先輩がやったことは決して無駄じゃないんです」
「そう、かな……。でも僕は……」
「迷うことは攻めません。先輩が戦うことを投げ出したからって、私との関係が廃れることも!」
「いや、そこの心配は」
瞬間、菜沙の目じりが怒りで釣り上がった。
「いえ、なんでもありません!」
「よろしい。それじゃあデートの続きをしましょう。そろそろ甘いものが欲しいところですよね~。あそこにアイスクリームがあるんで私、買ってきますよ!」
「先輩はここで休んでて下さい!」とはつらつに、彼女は小走りで行ってしまう。
どうにもテンションの高低差が激しい後輩だ。
援は気を落ち着かせ、ベンチで座って待つが――自分の前にポツリと人影が伸び、頭を上げる。
「援さん。奇遇ですね、こんな場所で会うなんて」
「エミちゃん……」
予想だにしない、知人との再会。
彼女もまたキョトンとした仕草の次に、穏やかに笑ってみせる。




