それぞれが戦う理由
「君が……人型アッシュだということをアセビの新城会長から聞いた……。単刀直入に言う、これ以上の深入りはやめてもらいたい」
援は言葉を失い、秋昌は彼の肩に手を置いた。
「君の母親のことは、残念だとしか言いようがない……。私も、暁君が両親を失ってこっちに身を寄せた時は、なんと言っていいか分からなかった」
「だが」と続け、口調を強めて。
「あの事件は、君一人が背負うべき問題じゃない。君は何一つ悪く無いのなら、これ以上は」
「全部、知ってるんですね……」
瞼を閉じ、心中で言いたいことをまとめると、彼は秋昌に憤りをあらわにする。
「秋昌おじさんは、それでどうして……あっ君たちは知っていてやってるんですか⁉ 自分たちが戦っている相手が……殺している相手が、人間だってことを!」
秋昌は首を振り。
「彼らには、伏せている。その事実を知るのは、我々の組織でも限られていてね」
「それでどうして。どうして彼らに戦わせることを」
「あの子たちは、自分を救うためにも戦うしかなかった……! エミたちが居る『フローラチルドレン』は、普通の黒蝕病とは違う。彼らの因子は比較的温和ではあるが、侵攻は徐々に徐々に続いている。軍から提供される設備が無ければ、今頃彼らも君の母のように」
「設備って。それが一体戦うことと、なんの関係が」
「それこそが、彼らを戦わせる『条件』さ。今の彼らに、軍とは切っても切り離せない」
瞬間的に頭が沸騰する援に、秋昌は続ける。
「元々、アッシュの正体でさえ隠している。ただ本能に赴いて破壊を行う相手に、国民が同情を寄せれば泥沼化は避けられない。彼らも必死なのさ、未曾有の敵に対してね」
そのための駒として、同じく未知の領域に踏み入れた人材を戦力に。
フローラチルドレンは命を掛けて進む。立ち止まれば首が絞められ、駆けようものなら怪物の口の前。
「だが、私も研究者として、一日でも速く治療法を見つけ出す! 彼らは必ず、私たちの手で助け出してみせる! 暁君やエミも、私を信じて今日まで戦ってきた」
「それじゃあ、あっ君たちは……」
「約束しよう。だから君も、もう二度とあんなことは――」
そう話を締めくくる手前で、秋昌のポケットから電子音――緊急の呼び出しコールと知る。
「こんな時に」
「秋昌おじさん、すみません。直接出向いて、心配までしてもらって。けれど」
謝罪を前置きに、援は綴る。
「自分に何ができるか……結局のところ、僕はあっ君やエミちゃんに何もしてやれないのは分かっています。だけど、二人が戦っているのに僕だけが傍観するには、この状況は酷すぎます」
断固として、譲れない部分があった。
「僕が必要とされないのなら、それは最善です。ですがもしも、あっ君たちが傷つくようなことがあれば……防衛局がまた彼らに無茶をさせるようならば――」
僕は迷うことなく力を振るいます!
それが援の、通すべき意地であった。
秋昌は言葉を詰まらせた。彼の発する信念が、かつてエミを守るためにフローラチルドレンへと志願すると言い出した暁の姿勢と被って見えたのだ。
その時も、秋昌は彼を言いくるめることができなかった。
自分と同じ、いや或いはそれ以上に、彼らは断固とした決意の現れであり……。
「分かった……。だがこれだけは約束する! もう二度とアッシュが市街地に現れるようなことは起こさせない! だから君も、決して無茶だけはしないでくれ!」
「おじさん」
秋昌も決意で対峙する。
援も頷いて受け取り、秋昌は緊急コールの呼び出しに、自身の職場へ戻っていった。
そして援は走る。
待ち合わせの午後一時まで、残り数分の瀬戸際。
援は息を切らし、若い人向けの店が雑多に立ち並ぶストリートを駆け、目的の人物が居る噴水広場に到着する。
「な、菜沙ちゃん!」
「ギリギリですね先輩。こういうのって、『待たせちゃった?』とか言いながら、二人して全然時間に余裕もって行動するのが、お決まりのパターンじゃないですか?」
「ごめん……現実に添えなくて。憧れる気持ちはなんとなく分かるけど」
「それとも気を利かせて、何かプレゼントを選んで遅れたとか?」
チラチラと視線を送る彼女に、援は汗を流す。
「まあ、そこは冗談ですよ、先輩!」
「だ、だよね! そもそも僕ら、そんな距離感ですらないもんね!」
ホッと胸を撫で下ろす援。
しかし菜沙は頬を膨らませて。
「やっぱ何か高価な物が欲しいです。今の発言を塗りつぶすぐらいの、インパクトのある何か……あっちのレディース用水着ショップでも行きますか、先輩!」
「待って! ごめんなさい! 気に入らないのがなんなのか分からないけど、謝るから⁉ 流石に金銭的にも、目線的な意味でも初デートでそれは辛い‼」
始まったばかりだというのに、すでに援の精神は倦怠気味にやつれていく。
「まあ、いいでしょう。さてここからのデートプランですが、私はあそこへ行きたいです!」
菜沙が指さしたのは、デパートの隣に立つ複合商業施設であった。
さながら小さな遊園地のように、外には観覧車が完備され、他にもゲームセンターや飲食店など、ここら地域の楽しめるものは大抵取り揃えている場所である。
「菜沙ちゃんは、あそこ行ったことないの?」
「私、今年になってからここに引っ越してきたんですよ。つい先週調べてみたら面白いのがあるな~って感じで。だから先輩誘っちゃいました」
テンション高々に、彼女は援の手首を掴み先行。
「それじゃあガンガン見て回りますよ〜先輩!」
そうやって互いに、人生初のデートへ乗り込んでいく。




