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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ヴァレリアン編
20/49

第二の予兆

『アッシュに取り込まれた人間は、骨さえ残らない。文字通り灰のようにね』



 映像には、一人の男性の遺体が映されていた。

 シーツに覆われた身体に、これといった外傷は無く。

 ただし遺体にしては驚くほどに月白と化した皮膚は、一分も持たずして形を崩してった。


『君の母もワーウルフの動力源となった時点で生命活動を終えている。この映像の彼にしても』


「人が……こんな死に方を」


 胸元のシャツを強く握り、たすくは憂惧する。

 母にしても、自身に対しても。誰の目にも触れることのない死が、これほどの拒絶心が芽生えたのは初めての経験であった。


『君に関していえば安心したまえ。ワーウルフはブラックドームという、豊満すぎる因子の適応によって、段階を踏まずして生まれた人間の成れの果てだ。対して、君の身体に少しずつ浸透した因子なら、操作を謝らない限り本体を殺しはしないだろう』


「……っ⁉ 貴方は、このことを知って……! 僕は母が救えると、そう信じていたから!」


『ならば辞めていたかい? 私が事実を告げたとして、君は?』


 苛立ちを交えながらも、援は言い返さない。

 結果は確かに母を救えなかったとしても……援は、自分で戦えたことに後悔などしていない。

 新城はそれを見抜いていながら、意地悪く笑う――。


『何事にも“意思”が宿らなければ、生命に「進化」など生まれはしない。この男、ワーウルフの元となった人間においても』


「結局この人は、なんのために戦いを……」


『身元を調べ、彼が此度の戦闘現場となったフゼンマ市に住んでいた人間であることが分かった。その職場があの商店街であることも』


「それじゃあワーウルフは……かつて人間であった頃の記憶を巡ってあの場所を?」


『真相は闇の中さ。だが確かに彼らには有るのだよ。人間であった頃の心が――今や進化の原動力にまで開花している。その願望はきっと、自分の元の身体を棄ててでも成しえたかったことに違いない!』


 援がワーウルフと激闘を繰り広げて次の日の、新城との会話であった。


 それから5日が経過して、援は仏壇の前に線香を立てながら、新城の言葉を思い出す。


(アッシュは人の、成れの果て……)


 聞けばこれはまだ仮説の段階であったが、援はもはや別の話と切り捨てられなくなっていた。


 何せ、自分がアッシュそのものに変貌したのだ。


(母さん……僕は、どうしたら)


 揺らぐ決心。

 とそこへピンポーン! と玄関の呼び鈴が響く。

 援は頭を切り替えて、玄関口を急ぎ開ける。


「はい、どなた――」


「ああ、久しぶりだね、援君。おじさんを覚えているかい?」


 開口一番に、慣れない陽気な笑顔を向けたのは――友人・あかつきとエミの父親であった。




 時刻は午後の二時。

 10人前後の人間がおぼつかない足取りで、ある一軒家の家宅調査を行っていた。

 それも、白い防護服にガスマスクで厳重に外界との空気を遮断しながら。


「内情はどうなっている?」


「かなり発育していますね。もう家中、ネクタル因子を含んだ植物で覆われています」


 ライトで周囲を照らし、壁や床、いたるところに植物のツタが潜り込んでいた。

 内部から際どい光の筋が通過しており、事態の深刻さを知らしめる。


「黒蝕物質ではないな。完全に生物として因子と同化している。ということは……」


「すみません! 急ぎ、こちらの方へ来て下さい‼」


 廊下の奥から仲間が急かかし、彼らが向かったのはかつて台所であったと思しい空間。

 床は大きく陥没し、ツル性植物が所せましに緑を茂らせ軽い庭園と化していた。

 それでいて怪しい光の筋が律動的に通過し、ある黒い物体に集結していた。


「この『果実』のようなものは?」


「分かりませんが、下手に触らないで下さい。かなりのネクタルフォースが検知できます」


 光を照らすと、一人が言うように、直径一メートル近い黒い果実がツルに繋がれ実っていた。


「二階にも同じ物体が2個ほど。ですが妙なことに、中身をさらけ出でおり、中は空洞でした」


「こちらにも、中身を晒しているのが1個ありますよ」


 3人は空洞を広げる実の前に立つ。

 計測器を翳すが、ネクタルフォースが散布された形跡は無く――。


「奴が討伐された時点でも、近所の話によればこの家に異常は無かったはず。どうしてこんな」


「ただ因子の作用で生まれたにしては妙ですよね? それならワーウルフが通った道の草木にだって、影響はあったはずです。奴はここをねぐらにする以外に、何かをしていたとするなら」


「奴がドーム内の植物を持ち込んだ、とか」


 ふと一人が、ある仮説に辿り着く――その間際。



 息を飲んだ男たちの背後で、開花でもするように果実の外側が開かれた。


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