お誘い
『不発弾はこれ以外にもあると想定されており、花の緑商店街の工事の目途は来週まで続く見込みです』
ワンセグテレビから流れるニュースキャスターたちの会話。
報じられる現場の工事模様は、カーテンで覆われ中を映していない。
もしも中を覗いて、そこに動物にでも付けられた傷痕が地面や建物に散らばっていたら、国民はどういうことだと問いかけたくなるはずだ。
ニュースを流し見する援に、保健室で五十代の男性担当医は問いかける。
「君のネクタル係数値、随分と“疎ら”になったねえ?」
「え? どういうことですか?」
担当医が手渡したのは、援の係数値グラフであった。
「四日前の計測データ。ネクタル因子の影響下が、身体のあちこちで違った動きを見せてるね」
書類の円グラフをペンで突っつき、説明される。
「この『赤い色の因子』が全体の七割を占めてる。人の黒蝕病では基本これが原因になってるね。そしてこの『緑の因子』が二割ほど。これも8年前に、黒蝕物質である野菜を摂取して地域住民が発症した因子の同型で間違いないね」
「つまりそれって、あっ君たちの……」
「この緑の因子――我々はそのまま『植物性ネクタル因子』って呼んでるけど、これは赤の因子と比べても活発な部類じゃない。適合さえすれば、見た目が変わることなく生活もできる」
「まあ穏便と言っても、不適合者はこれで何百人も命を落としちゃたけど……」と、毒を一つ吐いて、担当医は次の青いグラフに移行。
「さて、問題はコレだ。一割を占める、今までに無い部類……ぶっちゃけ発症した人間も君が初なんじゃないかな。それぐらいに珍しい」
「これって……もしかして」
戦闘の光景を振り返り、微かに思い当たる節が一つ。
ほとんど意識して使ってはいなかったが――。
(青い、ネクタル因子……僕が腕から武器を創り出した時の)
もしそうだとしたら……と、援は担当医にどんな作用が有るのかを質問するが。
「今のところ、君に異常は見て取れないね。正直、この青い因子自体、アッシュから見つかることが少ないから、どんな症状が現れるかなんて予想も付かない」
「そうですか……なんだか、ちょっと不安だな」
「私としては、そこよりも三種のネクタル因子が共生しているってのが、一番驚きだよ。もしもこの事実が研究者にバレでもしたら、君、実験材料にされちゃうかもね」
「ええ……っ⁉」
担当医は手をひらひらと振って。
「まあ、安心しなよ。君の因子データは“上司”が改ざんするだろうし、私も契約上、誰にも話すつもりはないから」
「上司って、まさか……」
この医師に巡ってからかれこれ三年になる。
しかしどうやら、今しがた垣間見せる雰囲気に、担当医になったのは偶然ではなかったらしい。
「新城君らアセビ製薬会社は、黒蝕病の予防にいち早く乗り込んだ会社だ。患者のネクタル係数値も当然データとして管理している。君を探し出せたのも、そのデータが元手だ」
書類を鞄に押し込み、身支度を済ませながら担当医は言う。
「思えば彼は、最初から君のような人間を見つけ出すためにデータを集めていたのかもね」
「それってどういう意味ですか?」
「そこは彼に直接聞きたまえ」
投げやりに答える辺り、担当医も新城の意図を深く理解してなさそうだ。
彼はそのまま保健室を出て、援もまた時計に目を細めた。
時刻は午後五時。もう帰路に着こうと、援も保健室から退出するが。
「奇遇ですね先輩。今お帰りですか?」
菜沙がドア横の壁にもたれ、待ちわびてましたとばかりに笑顔を浮かべていた。
「なんだか君は、いつも待ち伏せするように現れるよね?」
「そうですか? でしたら私、先輩の行動を知る、良き理解者ってことになりますね!」
何故か胸を張る彼女へ、「それで」と続きを促す。
「僕に何か用事があって話しかけたんだよね? またあの人が読んでるとか?」
「そう頻繁に会いたがりはしませんよ。今日はただ単に私が会いたいから来ただけで」
一間置き、彼女は本来の目的を告げる。
「言いそびれてしまいましたが、柄の悪い先輩たちから救ってくれて、ありがとうございます。付きましてはそのお礼にと思って」
「え? アレって……僕を試すためにわざと絡まれた振りしてたんじゃないの?」
「そこまで手は込みませんよ。確かに助けを呼ぼうとした時は、おじさんに止められましたけど……アレは私自身が元手です。肩ぶつかったぐらいでアレですよ!」
憤りかけ、菜沙は「まあ、それは置いといて」と微苦笑し、本題を告げた。
「今週末暇ですか先輩。もしよければ私とデートしましょう!」




