期待と不安
『あ、おじさん。先輩、勝ちましたよ? 姿を眩ましちゃったけど大丈夫かな……』
「気になるなら後を追ってみたらいい。ネクタル制御装置にはこちらが追えるよう、特定の周波数を放っている。何せ初戦闘だ、どこかで倒れてるかもしれないね〜」
『あ、ムカッ……。他人事だと思って。もしも先輩に何かあったら許さないからね』
菜沙からの電話が途絶え、新城は一つ笑みを作る。
そして後ろでソファに座る男に向き直り、別の笑みで語りかけた。
「どうやら、援君は無事ワーウルフを討伐できたようです。良かったですね。貴方の娘さんたちも、彼の協力で生還できた」
「『良かったですね』、だと?」
膝の上で拳を作り、対面に座る男――明道秋昌は不遜な新城に怒りを覚えた。
剛山のメールに書かれてあったのは、あろうことか我が子の古い友人。
隠匿の手早さ。防衛局の無関係という少ない材料から、もしやと訪れていた矢先に、答えはすぐに直面できた。
予想だにしない、未曾有の問題を交えながら。
「貴方は、自分が何をしたのか分かっているのですか……⁉ 援君を巻き込むだけにあらず、あんな姿で戦わせるなど!」
「語弊ですよ。私はちゃんと彼の意思を尊重しています。彼は自分の手であの力を掴んだ」
「それまでの過程が気に食わないと言っている! 母を失いそうな彼の様相につけ込むやり方で、あんな強力な兵器を提示しれば、後なんて省みるはずがない‼」
「私は彼の内に潜む力を、ほんの少し刺激できる装置を渡したに過ぎない。それに……もしもこの一件で彼の母親が巻き込まれずに済んでいたとしても、彼は自ら身を投げ出したはず。彼の、誰かを助けることに起因している願望を知っているなら、貴方の意見は的外れだ」
「どういう……ことだ? そんなこと……」
「言い切れますか? 貴方のお子さんたちが戦っていて、彼だけがそうでないと保障する理由が」
頬をはたかれたように、秋昌はしかめっ面を晒した。
「貴方は……こうなると予期して、援君を選んだ……。彼の因子系数値を“隠匿”してまで!」
「確かに、黒蝕病患者のネクタル数値データを管理しているのは我々です。しかし防衛局からの条件は『アンブロシア兵器に適した人材』でした。彼の因子は強すぎて、武器に使うはずのエネルギーを逆に食べてしまう恐れがありましたので」
「どちらにせよ……許されることでは無い! 今すぐにでも防衛局に通達して……」
「そんなことをすれば、良くて収容がオチでしょう。対策本部では彼の才能を活かす度量など無い。彼の力は自由だからこそ芽吹く! もしもこの先、アッシュが出没するのなら!」
「そんなことは決して無い‼ 我々が命がけで壁を築く限り、このような失態は二度と……‼」
「ならば心配も必要ないのでは? 貴方が言うようにうまくいけば、彼が戦うこともありますまい。援君も所詮は一般市民。安易に防衛セクターまでは近づけない」
「…………彼は、私が説得する。結果、貴方が与えた手段を捨てても、それは彼の判断だ」
「ええ、構いませんよ? 彼の意思ならば私も尊重しましょう」
「約束ですからね」――言い残し、明昌は退出。
新城は気にも留めず、ホログラムに映るワーウルフの足跡データを眺め、胸躍らせていた。
これから始まる、人類とアッシュの本当の存亡戦へ。




