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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ワーウルフ編
17/49

ワーウルフ、決着

 ワーウルフの異常に、エミは素早く気づく。


「みんな、ワーウルフが⁉」


 彼女が警告した先には、顔の組織が融解し、悪魔の形相を覗かせるワーウルフが居た。

 相手は何かに必死で、一直線に彼らを求めて迫り来る。


「エネルギーパックがあるトラックまで間に合わねえ! レイラ‼」


「分かってます〜ッ!」


 レイラが腕に取り付けてある盾を展開。

 緑色のネクタルフォースが装甲を覆い、3メートルにも及ぶエネルギーの障壁を創り出す。

 ワーウルフの突撃を受け止め、レイラは徐々に徐々に後退していった。


「速く、スーツを取りに行って! 持ち続けるの、しんどい〜⁉」


「お、俺も残るっす! 暁さん‼」


「頼んだぞ、誠司せいじ‼ レイラ‼」


 二人を残し、あかつきら三人は奔走。

 向かう直線状では、おおとりが部下へと指示を飛ばしている。


「ワーウルフが衰弱している! お前は機関砲を構えなおせ‼ 増援部隊の到着要請は⁉」


「後三分ほどで到着模様です!」。チャンスが巡って来たとばかりに、鳳の眼光は鋭くなる。


「おい隊長さんよ! 俺たちの兵装は用意しているか⁉」


「ここにちゃんと有るだろう! 急いで装備しろ‼ 奴を討ち取るチャンスは今だけだ‼」


 足元にあるいくつものスーツケースを顎で提示する鳳。

 暁たちは使い切った武装のエネルギーパックを放り、スーツケースの中身を装填。

 銃器の残響と、ワーウルフの悲鳴が共鳴する。


「もう少しだ! あともう少しで……!」


 そう鳳が見守る中、エミだけは訝った。


「鳳隊長! 分からない部分があるの! 奴が瀕死の状態で突っ込む理由‼ 貴方が衰弱だって言うなら、どうして奴は逃げずに立ち向かってくるのか!」


「そんなもの、我々が保持する黒蝕物質を狙ってのこと‼ 奴は体の回復を測るために!」


 ドゴオ! 轟音が炸裂した。

 防御戦を築いていたレイラと誠司が暁たちのある車まで盛大に落下し、呻きながら意識を絶った。

 アリスや暁が二人に駆け寄る中で、エミは確信する。


「違う……奴の狙いは明らかに別にある!」


 ワーウルフが得意であるネクタル因子の衝撃。しかしその威力はもはや本人でも制御し切れてないのか、奴の片腕は粉々に吹き飛んでいた。


 それでなお、何かを求むように刻む視線の矛先は、明らかにエミを指差していた。


(狙いは……私⁉)


 ワーウルフは跳躍した。

 足の筋肉を盛大に破壊して、生み出される超加速は一同が武器を構えるよりも素早く……周囲の敵を置き去りにした。


「この……⁉」


 銃を構える寸前の鳳にワーウルフは足蹴りで後方に突き飛ばす。

 続けざまで、近くにいたエミの首元を強引にも掴み上げた。


「あ、ぐうう……⁉」


「エミ⁉ このやろう‼」


 焦りに飲まれ、暁は自身の日本刀をワーウルフの腹部へと突き立てるが――相手はまるで怯むことなく、暁の手首を盛大に噛み掴み、振り回す遠心力で後方のアリスへと投げ飛ばした。


「あか、つき……くん⁉」


『ゴアああああああああああああ‼』


 歓喜の咆哮が、無情にも二人を割いた。

 刺さった刀を引き抜いて、ワーウルフの胴体が巨大な口へと成りかわる


「い、いや……⁉」


 ジタバタともがくエミの足が、ワーウルフの裂かれた腹の中――黒い空間へと徐々に触れていく。



 瞬間、まるで身体中の細胞が、おびただしい拒絶信号を発した。



「ああ……あああ!」


 観念的な絶望が、視界を黒く支配していく。

『死』……一度飲み込まれれば、絶対に戻ってくることはない地獄の闇が、彼女の皮膚を伝う。

 闇の沼地に太ももまで引きずられ、一ミリとて触れた先を動かす事ができない。

 

 自分の身体から、感覚が完全に切り離されていた。


「いや……嫌、嫌ぁ‼」


 意識が朦朧に。

 そしてワーウルフは恍惚と口端を吊り上げて、新しい動力源に身を震わせた。


(誰か、助け……⁉)


 白く視界が濁り、やがて暗黒の世界へと引きずり込まれる、その瞬間――。


 

 暗闇から、誰かの手が特出しエミの侵攻を妨げた。



『が、ごがあ、あ⁉』


 突然の光景に、ワーウルフは身もだえる。


 背後から、何者かが腕力に物を言わせて、ワーウルフの身体を貫いていた。


 完全な油断――そしてそれがワーウルフの最期へと直結した。

 

 貫通した腕は更に上体の方へと昇っていき、勢いよくその首を跳ね飛ばす。


 指揮系統である脳から切り離された胴体は、一度二度痙攣を起こしながらダラリと態勢が崩れていく。

 僅かにこびり付いた肉片がエミの頬を伝い、彼女の身体を誰かの手が支え直す。


「…………あ、」


 目前に綺麗な結晶の『目』があった。

 赤く、瑞々しいルビーのような宝石。その中にもう一人の自分の姿が反射しており、エミは安堵の表情を無意識に浮かべていたと知る。


 なぜ安堵しているのだろう……――目の前には、もう一体のアッシュが居るというのに……。


「お前⁉」


 誰かの怒号が、微かに鼓膜をつんざく。

 それに人型のアッシュは何かを小さく呟いた。言葉を発する口も無いはずなのに、確かに――。


「あっ君」


 エミは瞳を震わせた。




「エミから離れろ……!」


 暁はアンブロシア兵装の銃を掲げ、息を切らしながら迫る。

 言葉が通じるとは思っていないが、身内が相手の内にある今、無暗な攻撃はできない。


(俺の武器は……ちくしょう遠すぎる‼)


 放り投げられた刀とアッシュを交互に、何か打開策が無いかと必死で巡らせるが。


 ふいに人型アッシュは暁の方へと近づいていった。


 エミを抱きかかえる姿勢は、まるで人間のようであり。

 だがそう思うには、奴が放つ雰囲気は、暁に軽い恐怖心を植え付けた。


 ワーウルフを倒すほどの怪物――近づいてくるのは、俺を殺すためか? 歯向かう敵を皆!


 暁に過った仮想は……どれも違っていた。

 人型アッシュは、エミを地面へと立たせ、彼の方へ背中を押す。

 ふらりと倒れそうになるエミを、銃を地面に落とし、受け止める暁。彼は「はっ!」となった。


「どうして……お前!」


 顔を上げた先に、奴は居なかった。

 すでにその影は、たった一瞬では届き得ない距離を稼ぎ、商店街の天井を突っ切っていく。

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