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孤高なるギエン  作者: ホオジロ ケン
ワーウルフ編
13/49

今だからできる無茶

 商店街の中心地は、さながら小さい公園だった。

 面積は広く、市街並木たちがポツリポツリと備え、すぐ横にはベンチが添えられる。


 解放された天井からは陽が包み込み、イベントや憩いの場として親しまれるその場は――何もかもが破壊で変わり果てていた。


 赫炎かくえんに輝く破壊の衝撃波が、レイラへと直撃。


「く、うううううううううううううう‼」


 彼女はスーツの耐久力と、自身の装着された緑光に輝く『盾』で攻撃を防ぎ切ろうとする。

 もう腹から直接、声を唸らせている感覚に近く、他の行動を選択する余裕など無い。

 そんな彼女にワーウルフは、冷徹に次々と衝撃波を放り込んでいく。


「レイラちゃん‼」


 寸ででエミが、レイラにタックルし、軌道上がから共に転がり避ける。

 そこは破壊の嵐の中心地。並々ならぬ赤い空気が、触れるもの全てを豪快に切り刻み、周囲の店や建物を粉々に吹き飛ばした。


「こっちは近づけない! ア、アリスちゃん‼ アリスちゃんならどうなの~⁉」


「やってる……‼ けど、弾の威力が弱くって、弾かれてる!」


 アリスは、距離を置いた地点から一心不乱にトリガーを弾くが、悉くは意に返さない。

 ネクタル因子によって生まれたエネルギーの衝突は、単純な総力だけで決まっていく。力が強い方が、弱い方を弾き、今のワーウルフの肉体は屈強な鎧と化していた。


『アリス、それ以上の無駄撃ちはやめておけ! エネルギー温存だ』


「だけど、あかっち!」


 耳に付けていたマイクにガガッ! とノイズが生じる。

 あかつきがワーウルフの攻撃を辛くも掻い潜る姿に、アリスは援護を緩めてはいけない気がした。

 他の者も同じ心境だ。誰か一人でも怠れば、力の均等は一気に瓦解する。


『全員奴から距離を取れ! ここからは俺が一人でやる!』


「な、何言ってんですか⁉ 全員で当たってもいっぱいいっぱいだってのに……!」


「さっき無茶はしないって言ってたじゃない⁉ この大嘘つきぃ~‼」


『無論そのつもりだ! これは……最悪の段階の「無茶」を凌ぐための、今できる「無茶」だ‼︎ 手遅れになる前にやっておきたい!』


『頼むッ!』――誠意に呟く彼の声音は、いつもよりも闘志づいている。

 本気なんだな、と誰もが目を瞑り、攻撃の手を止めた。


『アリス! 俺が奴の足止めをする! 動きを止めたら即座に眼球へ高圧弾をぶちまけろ‼』


「オーライ……!」


誠司せいじとレイラは飛んでくる赤い攻撃を、アリスの元に行かせないよう援護してやれ!』


 二人が持ち場から離脱。

 それを機に、ワーウルフは暁だけを睨み、対峙した。

 一体と一人――そして、もう一人の人間。


「エミ、お前……!」


「暁君だけじゃあ心配だから。それに、私も今しかできない『無茶』があるからね」


「ネクタル係数はそっちが上でも、ここからは単純な肉体総量戦だぞ? 着いてこれるか?」


「こんな時に妹扱い? 私を甘く見ないでよ」


 ふふん! と気丈に笑う仕草を見て、暁も吹っ切れた。


「勝負だ狂犬野郎!」


 もはや重りにしかなってない銃を床に落とし、刀一本で彼は駆ける。


 より疾くと……少しでも奴の動きに着いていくために。

 それに対し、ワーウルフは背中から生える巨腕を鈍器に振り下ろした。

 迸る破片に、亀裂が広がる地面。

 暁はスレスレで膝を折って懐に滑り込み、脇腹を斬りつけた。


(浅い……‼)


 ダメージは矮小に等しかった。

 極め付けにワーウルフは機転を利かせて、もう二つの腕で暁への攻撃を試みていた。


「暁君⁉︎」


 瞬間、手を伸ばすエミが視界に入って行く。

 条件反射で手を掴み、暁はその場から脱出。赤い衝撃破は空を切り、床の粉塵が舞った。

 鼓膜を揺らす、不快な騒音にワーウルフは上を向いた。


 二人は空中に居た。エミが背中に羽根状の装備を広げ、滑空を維持。


 薄い装甲の隙間から断続的に緑の光が噴出し、見た目より均衡な飛行能力を獲得していた。


「機動力は私が確保する! 暁君はそのうちに!」


「敵は空中を闊歩できる! 油断するなよ‼︎」


 示し合わせ、ワーウルフが二人の点在位置にジャンプしてきたところで二手に散開。

 暁が地上を、エミが空中へと。

 着地したワーウルフの瞬間を狙い、エミが銃口で狙いを定め発砲する。

 彼女の光弾は機関銃の連射力を有するが、敵の皮膚にこれといった外傷を与えられない。

 しかしエミは、別の活路を見極めていた。


(ワーウルフのエネルギー血脈……全快までの残り時間……)


 攻撃にうずくまりながら、ワーウルフに赤い光の筋が、背中の腕に集約する。


「今だ! 暁君! 相手の左足に攻撃を‼」


「うおおおおおおおおおおおおお‼」


 攻撃が放たれる前に、暁は全速力で接近。


 ワーウルフの脹脛ふくらはぎへ全力めがけて刀を振り下ろし、頑丈である皮膚に今までにない大きな傷口を残す。


『ぐらあがっ‼ がああああ!』


 奇声とともに、衝撃波が明後日の方向へと暴発する。


「やっぱり……ワーウルフがあの腕に因子を『貯めてる』状態だと、身体の因子係数が著しく低下する! その時だけは体組織も強靭じゃいられなくなる‼」


「なら作戦もやりやすくなる! エミ、指示をくれ! タイミングで仕掛ける!」


 怒りの咆哮を驚かせて、ワーウルフは力任せな跳躍で、砲弾のように突撃してきた。

 エミも暁も回避に専念し、その間、洞察を怠らない。


(謎の供給元からネクタルフォースを取り入れてても……付随するエネルギーの消費量の方がどうしたって上回る! あの大技を出し切った直後なら、あともう少しで!)


 予感はすぐに形となった。

 ワーウルフが息切れを起こし、目に見えて消耗。

 俊敏だった動きも鈍足になり。


「今だエミ!」


 暁の号令の元、今回の敵に対して用意したネットランチャーを頭上から射出した。

 ワーウルフの全身を覆い、ネットの根元は自動的に地面へと減り込み、動きを制限する。


「準備は整った! いけるなアリス!」


『これだけお膳立てしてくれれば……』



 遠くから銃撃音、そしてワーウルフの右目に肉の破片が飛び散った。



『死んだって、外さない』


『うぐあああ、ぐあああああああああああ‼』


 弾は内部から、容赦無く電流を流し込んだ。

 相手の身体が意識に反して震えだす。どれだけ強靭でも、数十秒は麻痺で動きを縛られる。

 ようやく暁は無茶を実行した。


「お前には随分と苦渋を舐められたが――」


 捨てたアンブロシア兵器の銃を拾い、更に彼は懐からスーツケースの中身であった――銃身用のパーツを兵装に取り付ける。


 銃口を向けるや、銃身から自動的に固定台の役割を果たす杭が突出し、地面へ突き立てた。


「それもここまでだ……」


 トリガーを引き、兵装の中心から通常時からは発せられない、異様な熱量が空気を震わせた。


 銃全体が赤いラインを纏わせ、そして――。


「っ⁉ 待って暁君!」



 エミは見た、ワーウルフが異様な速さでエネルギーを集約するのを……。



 それは苦し紛れの一撃だった。危機に瀕した本能が、通常よりもエネルギー供給をほんの少し速めたのか。或いは本当に最後まで集約した絞りカスだったのか。



 ワーウルフの巨腕が地面へと突き刺さり、小さな衝撃波が周囲へ伝達。



 衝撃は暁の銃身へ伝わって、波立つ地面に杭ごと飲まれ、軌道が無理やり捻じ曲げられる。

 通常の5倍の威力を誇る光弾は、斜め上に光の柱を生み出し、過ぎ去っていった。


「そんな……!」


 商店街の天井部位を僅かに掠め、瓦礫となって降り注ぐ。

 暁は呆然――ワーウルフはネットを引きちぎり、目元から銃弾を抉り出して暁を直視。


「速く逃げて暁君‼」


 ワーウルフが暁へ跳躍した。


 エミが手を伸ばすには余りにも遠く――。


 暁が絶望に絡め取られ、迫る死の影に視線をそらそうとした瞬間――。



 彼は見た。もう一つの影がこちらへと降ってくるのを……。



 遥か上空から忽然と降下し、それはワーウルフの進行を妨げるように、戦場の地へと降り立った。


 突き破られた地面の破片が、塵となって舞い振り、咄嗟に暁は口元を手で覆う。


(一体何が……?)


 彼は息を止めた。

 人影……ちょうど2メートル程の高身長に、屈強な身体。


 そして――人間からは大分かけ放たれた、突き出た刺々しいシルエット。

 

 鎧のように着こまれた白銀の皮膚が全身を覆い、心臓に当たる左胸からは円型の装置――その周りにだけは、緑の筋が植物の根のように入り組んでいる。


 無機物に近い光沢を放つ筋肉の節々からは、濃い藍色の結晶が刺のように特出し、


 どんな動物とも形容しがたい顔は、平面に広がる眼の部位にほとんどを覆われていた。


 顔の七割を覆う黄色い眼は、瞳に当たる部位が無く均一に怪しく光る。

 右目に至っては、赤い炎の不定形な灯が揺らめく。


(馬鹿な……もう一体の、アッシュだと⁉)


 フローラチルドレンは、事態の混迷さに、ただただ飲まれていく。

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