98.規約違反の証拠
真っ先に発言したのは、中年女性だった。
「あなたたち、さっきから声が大きいのよ。それって、他のお客様の読書を妨げる行為じゃないのかしら? 喧嘩なら外でやりなさいよ。……あっ、そうしたら店員さんが出て行ってしまって、飲み物が注文出来なくなるわね。先に、私の注文を取ってちょうだい」
最後は自己中丸出しの発言に失笑されているのも知らず、中年女性はフンと鼻を鳴らして着席した。
一方、中年男性は、よく響くバリトンの声で主張した。
「今、ざっと利用規約を見たが、確かに『勧誘』の文字は載っていない。しかし、周りに聞こえない声でも、勧誘されている客から見れば、読書を妨げる行為ではないのかね?」
これには、マサキが反論する。
「私が相手と話をするときは、相手が本を読んでいないときだけですよ。しかも、小さな声で。ほら、誰の読書も妨げていないではないですか? だから、規約違反ではありません。勧誘とおっしゃいますが、相手にとって利益のある話を紹介しているわけで、無理強いはしていません」
「しています」
シオリが即座に否定するので、マサキは半眼で睨む。
「証拠でも? 誰も聞いていないんだよ」
すると、中年男性がゆっくりセバス君のところに歩み寄った。
「私が証言しましょう」