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96.卑怯な取引
したり顔のマサキは、ユキの背中を見送った後、「さて」と言ってシオリの方へ向き直る。
「バイトするなら、あの子、なだめてあげてもいいよ」
ユキの怒りに呆然としていたシオリは、卑怯な取引を提案するマサキの腹黒さに怒りが再燃した。
「そういう交換条件を突きつける先輩には幻滅です」
「じゃあ、怒らせたままでいいんだね?」
「脅しですか? そうまでしないと人が集まらないバイトなのですか?」
「わかったわかった。バイトの件は諦める。でも、僕の『君が好きだ』という気持ちは、素直に受け取ってくれるよね?」
「この状況で、よく言えますね。もう二度とお話はしたくありません」
シオリは、壁際に立つセバス君へ早足に近づき、「おいおい」と言って手を伸ばすマサキを振り返る。
「店内での勧誘行為は、会員の利用規約違反のはずです。お店の人に判断してもらいます」
この正論に何も言えないマサキは、口を歪め、肩をすくめた。