92.本屋で勧誘する先輩
翌日から、シオリが一人でAI新書店別館に入り浸っていると、まるでそれを見計らったかのようにマサキがフラッと近づいてくるようになった。いつも、向かいの空いている長椅子に人懐っこい笑顔をひっさげて座る。
そうして切り出すのは、決まって勧誘だった。
ある時は、
「ねえ。パー券あんだけど、来ない?」
「なんですか、そのぱーけんって?」
「もしかして死語? パーティー券だよ」
「行きません」
「買わなくてもいいから――」
「無料でも、お金をあげるからと言われても行きません」
「……つれないねぇ」
またある時は、
「高校生や保護者向けのセミナーやんだけど、バイトに来ない?」
「何のバイトですか?」
「資料やサンプルの配布、その他諸々の簡単な雑用」
「サンプルって何ですか? どこで配布するのですか? それと雑用って?」
「質問は一つずつにしてよ」
「だったら、最初から具体的に言ってください」
「来てみればわかるよ」
「行けばわかると?」
「そう」
「つまり、言えないのですね? なら、行きません。もちろん、そのバイトもやりません」
「ガード堅いねぇ」
「ここは本を読む場所です。勧誘するところではありません」
「興味ありそうな人を誘っているだけだよ。友達として――」
「友達になった覚えはありません」
毎回こんな調子。
呆れるシオリだったが、マサキが不機嫌そうに席を立つと、決まって落涙した。
――人はこうも変わるものか。
憧れの先輩だっただけに、その変貌ぶりは愕然とする。
何が原因なのか?
シオリは、おそらく、周りにいるヒメコやナナミが原因なのではないかと思い始めていた。