91.人を見極めて答えを変えるアンドロイド
セバス君がマサキに近づいてきた。
マサキが「あのさ」と切り出すや否や、セバス君はマサキの席の方へ右手を伸ばし、少し腰を屈めながら言葉を遮った。
「お客様、席はあちらではないでしょうか?」
「――なっ! おい、客が話をしてんのに、なんだその態度は?」
すっかり迷惑客を演じているマサキだが、声は大きくない。ナナミの忠告がまだ効いているのだろう。
「いえ、席を移られたのでしたら、そうおっしゃっていただかないと、お客様の席はあちらになって会計が混乱しますので」
「はいはい。わかりましたよ――っと。今あっちに移るから」
シオリがホッとするのも束の間――、
「と、その前に訊きたいことがあるんだがいいかな? この店のことなんだけど」
なぜか、セバス君の動きが固まった。
緊迫の空気が流れる。
「あ、あ、そう構えなくて良い。簡単なことなんだ。この店で本を注文出来るよね?」
シオリは心の中で『それは新刊本? 既刊本?』とツッコミを入れる。
セバス君は答えず、マネキンにでもなったかのように固まって、マサキを見たままだ。この異様な雰囲気を紛らしたいため、マサキが咳払いを一つして、
「誰がどこで書いているの?」
そう言ってフーッと息を吐く。シオリの緊張がMAXに達したその時、
「それは企業秘密でお答えできません。他に企業秘密に触れないご質問はございますか?」
しばし無言のマサキは、視線を彷徨わせてから「あっそ」と言って肩をすくめた。そうして、シオリを見てつぶやいた。
「これじゃあ、知らないわけだ」
安堵したシオリはそれには相槌を打たず、頭を掻きながら立ち去るマサキの背中を目で追った。
その時、セバス君がシオリの方をチラッと見たことをシオリは気づいていない。